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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
108/120

STAGE☆108 「ぼっち男、見定められる」



 グレバランス王国第二王子、西嶺ウエルシュトーク領領主ゼオール・アウグス・グレバランス殿下へのお目通りはあっさりできた。


 ギブンは王子に人払いを願い、2人きりの部屋の中、盗聴魔法を打ち消した後、用意されたお茶に口を付けた。


「もしかして突然の訪問に、内心ではご立腹だったりします?」


 快く応じてくれたと思っていたが、お茶に眠り薬が入れられていた。


「それはこちらのセリフだな。その顔、いきなり人払いをさせて、茶を出すまで黙ったまま、俺に文句があるのだろう?」


 ギブンはビンラットでの出来事を思い返した。


 盗賊を連れて戻った村は、ギブンが捕らえた以外にも5人が潜んでいて、ビンラットを監視しながら、本隊が戻るのを待っていた。


 のだが、待機に我慢ができず、遊び気分で暴れ出した野盗を、念のために置いてきたユキミが懲らしめてくれた。


 殺してはいけないと言い含めておいたが、半日で戻ってきたギブンの目の前には、虫の息のやさぐれ物がが三人と、既に遺体となっていた二体が転がっていた。


 因みにトドメを刺したのは村人である。


 起きてしまったことはしょうがない。


 遺体は埋葬し、生き残った3人は、適度に回復して、捕らえた盗賊と一緒に縛り上げた。


「レングランドに置いてきたんだってな」


 ここに来る一つ前にある大都市の警護団に盗賊を引き渡してきた。


「イヤそうにされましたけどね。厄介事をってね」


 ユキミはビンラットに預けてきた。


 と言うのも家族を失ったシーラが、ギブンから離れなかったからだ。


 ギブンはシーラにユキミの正体を明かし、2人をギルドマスターのオーネルにお願いしてきた。


「戦争だからな。些事には人手を回せんのだ」


「そう言うことなら安心して欲しい。それを伝えに来たんだ」


 ギブンは人との会話は平気になったが、まだ強キャラを演じていないと、人前に出られない。王子様に対してタメ口に対してもそれは同じ、2人で話したいと願ったのは、ただそれだけの事だったのだが。


「魔王軍の侵攻を食い止めた? なるほどな、人払いをするわけだ。そんな与太話をまさかU級の英雄がもってくるとはな」


 武装を解除して、今まで通り治安維持に努めて欲しいなどと。


「そうだな。その報せが中央から、段取りを踏んだ使者がもたらしたのなら、一考もあるかもしれんが」


 そんな根回しをする暇はないと、ギブンはこの第二王子ならと単身やってきたのだ。


「確かに貴公が、このようなつまらん嘘を吐く。そうは思わんがな」


 ギブンは西嶺軍は無傷であると、テンケとビギナ率いる龍人戦士達の奮戦を聞いて知っている。


「ゼオール様は魔王軍と戦うつもりか?」


「勇者が退治してくれるなら、それに任せるのもいいが、この国の一大事に、王子である俺が出兵もせずに静観はできん。お前が人間族のために力を貸すというなら、一軍を任せてやってもいいぞ」


 7人の王子の中で一番話がしやすいと思い、交渉相手に選んだのだが、この王子がこの様子では、グレバランスと魔王軍の再度の衝突は避けられそうにない。


 そうなれば、今は抑えが効いている魔王軍も、奇襲を潰された上に戦争に突入することになれば、ギブン達がどれだけ訴えても、言うことは聞いてくれないだろう。


 兵士の数では不利な魔王軍だが、瘴気の強いゲネフの森で、厄災級の魔物を手懐けたと獣魔神官エーゲブル・ベスターから報告が上がっていた。


 グレバランス軍と魔王軍がぶつかれば、戦果は拡がり、多くの犠牲が出る事だろう。


 そこに勇者が参戦するとなると、被害は如何ほどになるだろうか。


 おそらくゲーム上、勇者はレベルと経験値によっては、パーティーだけで魔王軍を壊滅させられる力となるはず。


「どうにか魔王軍との戦争を避けられないか? この国が地図から消える事になりかねないんだぞ」


「それを決めるのは俺じゃあない。グレバランス城で会議を開き、今後を決める。もっとも侵略者を排除しない案を出す者が、この国の将にいるとは思わんがな」


 王子が指を鳴らすと、8人の武装した兵士が部屋の中に入ってきた。


「手荒なマネをするつもりはない。冒険者ギブン・ネフラよ。我がグレバランス王国のため、人間族のために手を貸せ」


 向けられた八つの矛先、これは脅しだ。


「魔力付与の掛かった槍か。言うことを聞かないと、俺はどうなる?」


「お前はこの国の貴族であり、最高位の冒険者だ。悪いようにはしない。だが拘束はさせてもらう」


「……分かった。俺はどちらにも荷担しないと誓おう。戦争には関わらない。だが拘束をされるつもりもない」


 ギブンは転移した。ビレッジフォーの城から脱出し、ビンラット村に向かった。


 城は直ぐに大騒ぎになる。






 訴えは一方的に棄却され、ギブンは逃げ出した。


 交渉は失敗、こうなれば魔王軍とグレバランスの戦いが激化しない方向に、何か手を打たないといけない。


 ビンラット村で正式な別れを告げて、村の事をユキミに任せたギブンは歩み去り、いつまでも手を振り続けるシーラの姿が見えなくなったところで足を止めた。


「早く戻って、勇者対策を講じないとな」


 とは言え仲間はそれぞれに動いてくれている。ギブンは失敗したとしても、戦火を抑える手は他にもあるはずだ。


 魔王軍の指揮を執る、ピシュやバサラなら戦場を拡大しないよう手回しできるはず。


 オリビアとブレリアは人間側について、可能な限り被害を抑えてもらおう。


 両者のバランスをとるために、人魚や龍人は陰で動いてもらって。


「エミリアにも、ヒュードイルに話しを通してもらおうかな」


 あれでいて、開発室長は発言力も影響力もあるようだし。


 色々役立とうとしてくれているテンケには悪いが、勇者と事を構えるのに、表立って手を借りるわけにはいかない。


 今の彼が勇者をどう思っているかは知らないが、憧れの存在であったことは事実。


「情報はもらえるかな。……とにかくみんなと話さないとな。先ずは魔王城だな」


 瞬間移動は成功したが、飛べるのは目で見える範囲。


 長距離移動の魔法は、どうも原理が違うようで、イメージだけでうまく話ではなかった。


 ヴィヴィで飛べば、あっと言う間にたどり着けるだろうけど、音速を超える魔物なんていない空では音が響き、結構目立ってしまう。


 現状、あまり人目に付かずなるべく早く移動できる手段は一つ。


「頼むぞ、ライカにヒダカ」


 走竜の様に変化したサラマンダーの背に跨り、急いで森へ向かう。


 全速力で2日、ギブンは魔王城の前で事切れた。


 訳ではなく。


 無理して走り続けてきたので、体力が尽きて眠ってしまったのだ。


「ここは?」


「私の部屋よ」


「ピシュ……」


 つまりは魔王の寝室。


「で? なぜ二人して裸?」


「……安心して、抜け駆けなんてしてないから。気分だけ、気分だけでも甘えたかったの」


 実年齢にまで成長したピシュの姿から、ギブンは目を背けた。


「あなたねぇ、幻だったとは言っても、みんなと関係を結んだ記憶は残ってるんでしょ?」


 ギブンは耳を塞ぎ損ねた。ちゃんと自分でも気付いている。あれは幻であっても、ちゃんとした実体験だったと。


「そこまで真っ赤にならないでよ。恥ずかしくなっちゃうでしょ、こっちまで」


 2人は服を着て、会議の為に円卓へ。


 そこにはバサラもいて、四天王が勢揃いしていた。


「お主がギブン・ネフラか」


 ルグラブル・グーブル将軍、魔王軍を束ねる百戦錬磨の武将、ギブンより頭1つ背の高い巨漢だ。


 前世なら間違いなく、目も合わせられないタイプだ。


「こんなひょろ長いだけの男が、本当にラージより強いのか? なぁ、兄者」


「待て待て、我らも将軍ほどの体躯があるわけでなし、強さは力のみにあらずよ。それより知るべきはコヤツの魔力が本当に魔王以上なのかよ。弟よ」


 獣魔神官エーゲブル・ベスター兄は、大魔導士バンダブル・ベスター弟にギブンの魔力を計らせる。


 魔力量を計る魔道具は、人間が使うのと同じ物のようだ。ギブンは頭を傾げる。


「あ、あ、兄者よ。人は種族でも見た目でもないようだぞ。こ、こ、この方には失礼のないように! だぞ」


「ほほぉ、お前がそれほど怯えるとはな、弟よ。大変失礼をした大魔王ギブン様よ」


 参謀官ラージ・レベックは、ギブンのことを説明するのに、できるだけ脚色せずに伝えた。


 しかしそれを三人は、鼻で笑って信じはしなかった。


「なるほどこうなるとラージよ。大魔王がレッドドラゴンも従えているという話も、信憑性は高いようだ。流石の俺も太刀打ちできん存在よ」


「そうなのだな、兄者」


 レベックと名乗る兄弟幹部はギブンと向き合って、ようやくその実力を理解できたようだ。


 ただ1人、最初に名を聞いただけで、黙りこくっていたグーブル将軍が立ち上がった。


「決めるのはまだ早い! 手合わせをしてみんことには、まだ大魔王と認めるわけにはいかん」


 圧倒的な魔法で屈服させられたピシュのことも、その実まだ敬意を示せていない将軍は、実力未知数のギブンに、大振りの剣を抜いて突きつけるのだった。「勝負だ!」と。

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