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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
107/120

STAGE☆107 「ぼっち男の受けた依頼」



 静まりかえったビンラット村、ギブンはウサギのユキミを抱えて村長宅に向かう。


「なんかおかしくない?」


 人前では喋ったりしないように言いくるめてあるユキミが、鼻をくんくんさせながら、ギブンに話しかける。


 人の気配が全く感じられない。昼食時だからではない。


 どの家も賑やかな食卓となり、外がこれだけ静かなのだから、こうして歩いていれば、あちこちから笑い声が聞こえてくるはずなのだが。


「ギブン、このニオイ」


 ユキミは鼻で、そしてギブンはスキルで村の異変の正体を知る。


「事態が把握できない。ユキミ、ここから何かあったら念話で俺だけに話しかけてくれ」


 ギブンはネフラージュ様から頂いたスキル、自動地図作製と食物図鑑を使って、見えないところにいる検索対象を感じることができる。


 足を向けたのは、冒険者案内を行っている酒場。


「シーラ」


 以前来た時に仲良くなった少女がここにいることを検索して、扉を開けると同時に声を掛けた。


「……お、兄ちゃん」


 酒場にはシーラ・レンネと店主兼ギルドマスターのオーネル・デラド、他数名がギブンの上げた声に驚き焦る。


「びっ、ビックリさせんなよ。えーっと、なんて言ったかな、お前」


 オーネルはどうやらギブンの顔を覚えていてくれたらしい。


「ギブン・ネフラだ」


「なんだ、喋れたのか? 変な文字は使わなくなったんだな」


「何と言うか……、ようやく慣れた。ところで聞きたいんだが」


「村の事だよな?」


 ギルドマスターは聞かれるまでもないと、事の顛末を教えてくれた。


「そうか、盗賊に襲われて」


「そんな時の為に、常駐させていた冒険者が役立たずでな。ランキングなんてアテにならんよな」


 B級と聞いて安心していたが、敵の手勢を見て、あっさり逃げ出したらしい。


「そいつら俺にはD級と言っていたぞ」


 三人組の冒険者グループのリーダー、その名前を聞いて、ギブンは込み上げる怒りをどうにか鎮める。


「村の様子を見るに、まだ解決してないんだな」


「ああ、あいつらは5日にまた来ると言っていた。恐らく他の集落を襲いに行ってるんだろう。俺たちには金目の物を集めておけと命令していったよ」


「領主に討伐の要請は?」


「被害が確定してないのに、来てくれるものかよ」


 マスターが認識している盗賊の数は13人。見せしめに殺された村人は7人。兵士が動くには十分な被害と言えるはず。


「けどいきなりどうして? 今までこんな事件なかっただろ」


「魔族との戦争がはじまるんだろう? 勇者がこの国に来るって、行商人が言ってたぜ。そうなれば巡回騎士もやって来なくなるし、そんなチンケな村、野盗にはおいしいカモだろうからな」


 直接の被害が出ない北摂や西嶺からも、中央に兵を出さないわけにはいかない。


 農民兵まで徴収される現状で、村の守り手を探すとなれば、自由人である冒険者くらいしかいないのは確かだろう。


 だが上位の冒険者はより報酬の多い戦争に向かってしまう。


 野盗には傭兵崩れも多い。中途半端な冒険者では太刀打ちできないと分かっていても、報酬をはずんで滞在してもらうほかない。


 現実は厳しく、このような結果になってしまった。


「村長は?」


「いや……」


 オーネルは首を横に振った。犠牲者の中に入っているのだろう。


「襲われた時に酒場に来ていたシーラは無事だったが、盗賊は見せしめにと暴れて、レンネのところはみんな殺られちまった」


 それがつい2日前だというのだから、実に悔やまれる。


「他の集落を襲うって、どっちに行ったかは分かっているのか?」


「そりゃあ5日で往復ってことなら、おおよその見当は付くが」


 オーネルからできる限りの情報を聞いて、ギブンはヒダカとライカを召還、偵察に走らせた。


「お兄ちゃん」


 シーラは事情を把握している。気丈にも悲しみを堪えていた。


 だが気の許せる顔を見て、少しだけ緊張の糸が緩んだのか、大粒の涙を流して大泣きした。






 ギブンは別の村を襲う直前の盗賊に追いついた。ヴィヴィの飛行速度ならあっと言う間だった。


 野盗討伐に出ようとするギブンから、離れようとしないシーラにユキミを預けた。癒しと護衛を兼ねて。


 スキルでマーキングした賊の数は16。オーネルの情報よりも多い。


 けれど何の不思議もない。ただ村を襲ったのは全員でなかっただけだろう。


 と、思ったのだが。


「いや、違うな。追加の3人……」


 ギブンはここを抜ければ次の集落。という草原で盗賊に声を掛けた。


「お、お前は!?」


「なんだお前、こいつのこと知ってるのか?」


 ギブンは名乗ることもせず、奇襲で盗賊の1人を倒し、抜いた剣の切っ先を見知った顔に向けた。


「あんた、なんて名前だったっけな。……確かマヌケタ・ビビリッチだっけか?」


「マジキザ・ビビリスだ!」


 やはりそこにいたのは見たことのある顔が3つ。剣士の男と魔法使いに暗殺者の女。


「ビンラット村を見捨てて逃げ出したと聞いていたが、装備を整え直して、ちゃんと討伐の依頼を全うしようとしている。……ようではないよな」


 遠目でも分かるくらい、盗賊と和気藹々としていた三下冒険者達が、どちら側に付いているかは確認するまでもない。


「そんなだからお前ら、いつまで経ってもD級なんだな」


「バカにするな! ちゃんとC級の証明は受けているぞ!!」


「ビンラットのギルドマスターにB級と申告したそうだけど?」


 書類を偽造して、報酬の上乗せでも考えていたのだろう。


 がしかし、この三人も無能というわけではない。一応一緒に仕事をした時は、それなりの実力を見せてくれた。


「いつまでもくだらねぇ事をくっちゃべってんじゃあねぇよ」


 マヌケタ、改めマジキザを押しのけて前に出てきた大男、どうやらこの一団のボスのようだ。尋常ではない覇気を放っているこいつに、冒険者は恐れおののいたのだろう。


「話からしてお前は、あの村から俺達を追ってきた。ってところか? それで何のようだ?」


 手には大きな曲刀。普通なら両手でしっかり持っても、その重さが逆に、使用者を振り回してしまうほどの大物。


「片手で楽々か。破壊力もスゴイんだろうな」


 だがそれくらいギブンでもできる。尤も強化魔法あっての事だが。


「魔法を使うのは4人か? 冒険者を入れて5人だな」


 その他の諸々は、それぞれ刃物を手にしているが、特に注意しなくてはならないのはマヌケタくらいだろう。


 ギブンは遠距離発動魔法を試してみた。


 盗賊の魔法使い群の後ろに火球を生んで、連中の足下に落とした。


「よし! けっこう精度が上がってきたな」


全員が下を向いたタイミングで雷を落とした。


 思い通りの場所に魔術を行使できたことに調子づき、ギブンは刃物を持った群れに対しては風の刃で連中の武器を奪い取り、同時に飛ばした小石を額にぶつけて、意識を失わせた。


「お、おいお前ら」


 一瞬の出来事で、盗賊のボスは誰が何をしたかが分かっていない。


 最後の1人、ボスには土精霊に、魔力干渉を加えた土槍でトドメをさそうとする。


「ざまぁみろ。このマジキザ・ビビリスの手に掛かれば、盗賊なんぞイチコロで片付けてくれそううぞ」


 土槍完成直前に、マジキザは剣の腹で、男の頭をジャストミートして、ノックアウトした。


「あたた……、ひどい目にあった」


「ホントに、マジキザがいなかったらどうなってたことやら」


 アンチマジックで土槍を分解しながら、ギブンは彼らに話し掛けた。


「あんたら、無事だったのか?」


 魔法使いのタカビィ・ケヴァイに、暗殺者のスタンラ・サンシタが、地面に転がる野盗の群れの中から立ち上がった。


「お前が何かを狙っていそうだったからな。とりあえず仲間を庇っておいた。ついでにこの大男も隙だらけだったのでな。依頼達成のチャンスを見逃すほど、このマジキザ・ビビリスは甘くはない」


 手柄を横取りされたが、ギブンは盗賊退治を終わらせた。


 賊は一纏めに縛り付け、取り出した馬車に乗せて、ビンラット村に引き返したのだった。

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