STAGE☆106 「ぼっち男の1人旅」
みんなに従魔を譲渡したことで、ギブンがテイムできる枠に余裕ができたわけで。
「森を抜けるまでに、一緒に歩ける仲間を増やすとするか」
こんな言い方をすると、残ってくれているコマチとヒダカ、コダカ、それにヴィヴィに悪いとは思うけど、どの子も大型なので連れて歩くには向いていない。
「あと、これまで使役した魔獣は、ホワイトウイングタイガーのハクウに、クーヌフガルーのピント、スライムグラトニーのフラム、ジャガービートルのアードに、ファンタムバードのファム。それからフライングサーペントのラフォーと、レッドドラゴンのレドーラか」
多種多様でありながら、レドーラと、エミリアが作ったゴーストゴーレムのエレ以外は、小動物化して愛玩動物として連れ回ることができた。
「メイドさんになってしまったレドーラも魔獣化すれば、ヴィヴィのように人を乗せて飛ぶことができる。馬代わりにしてしまっているヒダカとコダカは、小型化もできるけど、あの凛々しさを変異させるのは勿体ない。コマチのあの雄々しさも、あのままにしておきたい」
思えば色んなタイプを仲間にしてきたものだが。
仲間に預けた従魔達は元の状態から小型化や、彼女たちの魔力と融合して道具やドレスとして身につけることができるようになった。
これも女神ネフラージュ様から授かった、魔獣同調のスキルのお陰だ。
スキルの習熟度も上限まで達している今なら、なにも最初から強い魔物を使役しなくても、魔獣同調でギブンの魔力を注ぎ込んで安定させられれば、強い魔物になってくれるはず。
「つまり、趣味に走ってもいいってことだな」
前世のギブンにも、唯一と言っていい友達がいた。
14歳の時にお別れすることになってしまったが、今でも心から親しみを抱いている存在。
「決めた。この辺りだと……森を抜けないといないか。弱い魔物だからこの森にいないのは当然か。地図スキルが広げられる範囲内にいてくれて良かった」
そうと決まれば、ノンビリと景色を楽しんで散策している場合ではない。
ギブンは走った、全速力で!
思いきり走ること半日、無事に森を抜けた。
「見つけた!」
こうして使役したのが。
「ホーンラビットか。レベル5。まだ子供だな。お前の名前はユキミだ。前に飼っていたネザーランドドワーフのユキミ。その名前を受け継いでくれ」
白いウサギは丸々としていて、子供の頃からよく食べていた、アイスクリームに因んで付けた名前だ。
一本の長い角が生えた白いウサギは、赤い瞳をくりくりさせる。
ギブンにテイムされたユキミのステイタスは、ほぼ10倍以上になった。
「ど、どうしたユキミ……」
そしてグッタリとしていた。
とにかく従魔契約は上手くいったので、ギブンはユキミを休ませるために従魔界に送った。
少し心配ではあるが、しばらくすれば元気を取り戻すはずだ。
日も傾いてきたのでギブンは馬車を出した。幌の中には圧縮された小屋がある。
ギブンはここで一泊することにした。
山岳都市ビレッジフォーまでヒダカとライカに引っ張ってもらい、一気に目的地到着するのもいいのだが、折角だから立ち寄りたい所がある。
顔を出すと言っておきながら、ずっとその機会に恵まれなかった。
「ビンラット村までなら、人に会う事も少ないか」
騎龍に似せたと言ってもヒダカとライカはサラマンダーだ。
よく見れば騎龍なんかじゃないことは誰の目にも明かだし、なら2匹は何ものだと聞れても説明が面倒だ。
「朝飯を食いながら考えるか……、うん?」
ベッドでダラダラゆっくりもしていたいが、ここは一つ気合を入れて体を起こす。
敷布をめくり、起こそうとする体が、なぜか重い。
「なっ!?」
今は一人旅、この小屋にも1人で入ったし、後から入ってこようとしても無理な話だ。
「誰?」
寝息を立てる横顔に覚えがない。
そしてなにより。
「は、はだかぁ~!?」
俯せの姿勢であるし、顔を見るに幼子のようで、性別すらも判別できないが、一目で亜人だとわかる。
「角、が生えてる。額から角?」
恐らく間違いないだろう。
「えーっと、ユキミ?」
「うぅ~ん、……なに、もう朝なの? マスター」
名前に反応して、人の言葉で返してきた。
更に疑問が膨らむが何より先ずは。
「服を着なさい」
体を起こしたユキミの性別は分かった。
幼児体系であっても、異性の体を直視することはできない。
「服ってなに?」
「そうか、魔物は服なんて着ないもんな」
契約を交わした従魔なのだから、イメージを共有することができる。
ユキミが服を着ているイメージをする。そうすれば裸だった彼女に服を着せる事ができる。
「いいんじゃあないか」
裾が短くおへその見える白のタンクトップと黄色いハーフパンツ。
元は野生の動物。
服そのものを嫌がるから、なるべく最小限抑える。
長い白髪をポニーテイルに結んでみたが、ウサギ耳は、ホーランドロップの様に折りたたませても目立つ。ふさふさで髪と同じ白だから、離れれば気にはならないが、近付けばそれが耳だとばれてしまう。
その違和感をなくすべく、やはり嫌がったが、強めに言いくるめて、帽子を被せる。
そしてやはりこれも嫌がったが白い靴も履かせた。
「さて、なんとか落ち着いたところで……」
腹が鳴る。
「ユキミの事は飯を食いながら、ここにいる経緯を聞かせてもらおうか」
ユキミは契約時に、ギブンが注ぎ込んだ魔力によって変化した。
ちょっとだけ気張ったつもりが、小さなホーンラビットには計り知れない負担が掛かり、少しの間マジでやばかったそうだ。
直ぐに従魔界に送ったから大事には至らなかったが、かなり大きな負担を与えてしまったらしい。
そんなこんなをユキミ自身が気力で乗り越えて、人型の姿を手に入れた。
角は目立つので服を着せた時に短くした。長く尖っていたのをできるだけ小さく、こぶ程度のサイズに縮めて、前髪で隠せるようにした。
「それにしても人型かぁ~、これはこれでいいんだけど、ウサギの姿も捨てがたいよなぁ」
「なれるよ」
そう言ってユキミはウサギに変化した。
「おお、器用だな」
「ユキミ器用? マスター」
「ああ、流石だな」
フワモコの体を優しくなでてやると、ユキミも心地よさそうに目を細める。
「マスター、ユキミそれすきぃ~」
「マスターはやめてくれ。ギブンでいいから」
「ギブン?」
「そうだ」
「ギブン、ギブン! ギブンギブン♪」
ユキミは大はしゃぎ。
けれどウサギの時は、人前で喋らないようにと注意すると、キョトンとしたあとに、元気すぎるくらい大きな声で「うん」と頷いた。
不安だ。
「とりあえず移動するか」
馬の8倍の速度で走る、ヒダカとライカに引かれる馬車は、あっという間にビンラット村に到着した。
時刻はお昼時、サラマンダーを村人に見られないように、少し手前で馬車を異次元収納に隠し、ユキミを頭にのっけて、歩いて村に入る。
「変わってないな。まぁ、当たり前か、そこまで久し振りってこともないからな」
前に来た時に気付いたことだが、この村の農民は食事を、家に戻って家族揃って取る習慣がある。
狩人なんかは流石に、家に戻ってまでして昼食を取ることはできないが、可能な限りは一家団欒を大事にする風習がある。
「それじゃあ、村長宅を訪れるとするか」
穏やかな日差し、気持ちいい風が通り抜け、甘い花の香りに癒される。
ここは本当に何も変わっていない。
「エネイラさんはシチューを作れるようになったかな? 幼い2人にカレーは受け入れてもらえるだろうか?」
手みやげにと、前回振る舞ったシチューとは別に、カレーも用意してきたのだが、昼食に間に合わせることはできなかった。
でも手みやげなら他にもある。
あの時とは違って、国内をあちこち回って、色んな材料を手に入れる事が出来たから、簡単なゲームやオモチャも作ってみた。
ルールが簡単な物なら、直ぐに一緒に遊べるはずだ。
「シーラとニーナ、喜んでくれるかな?」
この時のギブンは気付かなかった。昼食時だとは言っても、あまりにも村が静寂に包まれる、少しだけ異常な状況に。




