STAGE☆104 「ぼっち男と新しい従者」
いろいろと話し合いたいこともある。
しかしまだ彼女たちが最優先させるべきイベントは終わっていない。
けれど今、目の前にある問題を片付けず、見なかったことにはできないギブンは、ピシュとビギナと共に、遭遇したレッドドラゴンの背に乗り、その住み処を目指して飛んでいる。
その後ろからレヴィアタンのヴィヴィが、オリビアとブレリアを乗せて付いてくる。
母ドラゴンが理解してくれたので、他のみんなにはベビードラゴンのお世話をお願いした。
「どうにかするとは言うけど、相手は名持ちのドラゴンよ、勝算はあるの?」
ピシュの言う通り、相手は凍結竜ウルドラウドの名を持つ最上位竜。
ここが本当にゲームから生まれた世界なのだとすれば、最上位の竜を倒せるなんて、恐らくはレベルカンストした勇者くらいなのかもしれない。
『過去にも局地を離れ、我々の大陸で暴れたという史実もある。ここで放置は確かに問題だな』
親ドラゴンが念話でみんなを繋いでくれた。ヴィヴィに乗るオリビアの声が鮮明に届く。
「本当にこの人数で討伐できるの?」
ピシュの不安は分かるが、こちらにはネフラージュ様が選ん魔王がいる。
魔王サイドからのプレーが可能なこのお蔵入りゲーム、最強は何も勇者と決まった話ではない。
魔王ピシュならいい勝負ができるはずだ。それにここには魔王レベルの実力者が5人いる。
「なんだピシュ、ドラゴンスレイヤーになりたかったんじゃあないのか?」
「茶化さないでよ。あんなの上段に決まってるでしょ! ……なんでバサラやマハーヌ達を置いてきたの?」
ピシュだって負けるつもりはないだろうけど、最上位の竜が相手となれば、最大戦力で当たりたいと言うのも分からない話ではない。
「バサラやテンケは空を飛べないし、マハーヌはまだ魔力が回復してなかったしな。ブレリアは余力あったみたいだから来てもらったけど、場合によっては休んでもらう」
『そんな気遣いはいらないって、気力も体力もハイポーション10本で全回復したっての』
「ハイポーションなんて持ってたのか?」
『当たり前だ。魔族の軍勢と戦うって言うのに、それくらいの備えがなくてどうするんだよ』
ブレリアは一流の冒険者だ。確かにそれくらいの準備はあって当然なのだろう。
「準備は万端だってさ。大丈夫だピシュ」
相手の力量も知らないで、ギブンは何の根拠もない取り繕った笑顔で誤魔化した。
それにしてもマハーヌとの決闘で、それほど消耗していたとは……。
「そうだ!」
ギブンは凍結竜の問題が片付いたらにしようと思っていた、レッドドラゴンとの契約を先に行えないかと、話を持ち掛けた。
「魔力同調が上手くいけば、お前も新たな力を手に入れられるはずなんだが、どうだろうか?」
『我が人間の支配下に? 調子に乗るな!! ……と言いたいところだが、やってみる価値はあるか。お主が本当に我が見立てたとおりの御仁であるなら……』
目的地まで半分を過ぎた辺りで一度地上に降り立ち、ギブンは契約をはじめる。
『結果、我の方が上位となり、お主を支配する側になったとしても恨むなよ』
竜は嘯くが、レッドドラゴンと言っても雌、それも出産後で魔力も低い。
根拠もないが雄とも渡り合えると確信するギブンに、レッドドラゴンは勝てるなんて微塵も思っていない。
「それじゃあ、君の名前はレドーラだ」
高い知能を持っていても、魔物側が従うことを望んでいるならテイムもしやすい。
「凄い美人」
ピシュがマジマジと観察する。
赤い髪、真っ赤な瞳、背が高くてギブンと目線が会うほど、変化後は真っ裸だったが、魔力を使って赤いドレス姿に。魔王城で見たマハーヌ以上に戦闘には不向きではあるが。
「なんで人間にしたの? まだお嫁さんが足りないの?」
ピシュの勘ぐりにオリビアたちもジト目になる。
邪竜討伐のため、戦力増強の名目で交渉、仲間にすることに成功したが、別の問題が発生した。
「この姿は私が望んだものです。ご主人様に我が儘を聞いて頂きました。私には子もいます。我らの住み処を取り戻して頂く以上の望みはありません。後は従者として尽くすのみ」
ギブンにも新たな姿に働かせた妄想もあったが、知能ある魔物は自らの意志で新たな姿を望んだ。
ピシュの言うような下心なんて、思い浮かべもしていない。
「ふ~ん」
「さ、さぁ行くぞ」
レドーラはドラゴンに戻り、ギブン達を乗せて飛び立つ。
「それでさっきまでの話だけど、ネフラージュ様から聞いたこの世界の事」
この移動中、ギブンとピシュが異世界人であることをオリビア達に明かした後、ゲーム世界とは! の話をし、なぜ自分とピシュがこの世界に呼ばれたか、までを話したところで中断していた。
「人間界の神が用意した勇者との対決、負ければ魔王は滅ぼされ、魔族はまた不毛の大地へ封印される。魔王が勝てば人間界を好き放題作り替えることができる。変なゲームね。発売されていたらプレーしたかったわ」
ギブンとピシュの会話のほとんどをオリビアたちは聞き流した。
「だいたいは理解したわ。ちょっと時間をちょうだい、考えを整理したらまた話し合いましょう」
程なくやってくるだろう勇者たち、あまり時間があるとは言えないが、簡単に結論が出せないのはギブンも同じだ。ピシュは飲み込んでくれたが、一緒に聞いていたオリビア、ブレリア、ビギナは全く分かっていない。レドーラなんかは聞いてもいない。
『この辺りで降ります』
あと山2つ越えた辺りに、レッドドラゴンの住み処があるという森に降り立つ。
「本当に山向こうに凍結竜がいるのか? そんな強い魔力は感じないけど」
荒れ狂う竜は、我を失っており、獣のように暴れ回っていたという。
レドーラがギブンの望む姿にならなかったのも、凍結竜に生き残りがのこのこ戻ってきた。と思われたくなかったからだ。
「もしかしたら、もう場所を変えたのかも知れませんね」
「ビギナの言う通りかも知れないが、油断せず進もう」
時間を掛けてはいられない。ギブンは馬車を出して、ヒダカとライカを喚んだ。
「ピシュもビギナも手伝ってくれ」
魔法で木々を切り開きながら、山野を颯爽と走り、小一時間ほどで二山を越えた。
「ヒドイな」
人型になったレドーラが見たところ、転がっているレッドドラゴンの亡骸は、群れの¼にも満たない。とは言えその数は10や20では済まない有様。
「レドーラと一緒に逃げ延びた以外は全滅、という訳ではない。って事か?」
「おそらく……。けれど仲間の魔力も感じ取れません。いったい……」
ギブンにはこの辺りのマップがない。ドラゴンは食物としても分類されていない。
神の恩恵を受けた索敵スキルでも、小さな魔力は探知ができない。しかし小さいはずのないドラゴン種の魔力が感じられないのはおかしい。
レッドドラゴンに隠密スキルがあるなら、簡単に見つけられないのもしょうがないが。
「そんなモノは持っておりません誰も。それはウルドラウドも同じはず」
つまり凍結竜がこの場にまだいるなら、魔力探知に引っ掛からないはずがない。
「いや、ウルドラウドに隠密スキルはある。レッドドラゴンが強襲を受けたのもその所為だろう」
ブレリアが教えてくれた、凍結竜の固有スキルの話は、ギブンも読んだことがある。
厄介なスキルだが、レッドドラゴンの生き残りがいないなら、ウルドラウドもここにいる理由はないだろう。ギブンたちが来ると分かっていれば別だろうけど。
「レドーラ、仲間が行きそうな所に心当たりはないのか?」
「ありません。だって我らはもう700年以上、この地から離れたことはないので」
ここでこうしていても、展開を望むことはできそうにない。
「つまりヤツは放置、ということですか」
「仲間をたくさん殺されて心苦しいと思うが、俺達にも時間に余裕がある訳じゃあない」
「……分かりました。私もご主人様のお立場を理解した上で、従者となったのです」
「こちらの問題が片付いたら、凍結竜のこともどうにかする」
「それでは私はまた」
ドラゴンになろうとするレドーラをギブンは止めた。
「レドーラには頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
レドーラは別行動をし、仲間の捜索に当たるよう指示した。
「だから命令じゃあない。頼んでるだけだ。意に沿わない時は断ってくれていい」
そんな風に言っても従魔は主に逆らうことはない。レドーラは笑顔で応じた。
帰りはギブンがヴィヴィに乗り、仲間達は馬車の中へ。馬車をヴィヴィが爪で引っ掻け持ち上げる。
「ねぇギブン。従魔のことは離れていても感じられる。とは言ってもやっぱり心配なんじゃあないの?」
ピシュにはギブンが無理を言ってヴィヴィに乗ってもらっている。
「大丈夫だろう、なんと言ってもあのレッドドラゴンだ。子供を抱えていない自由の身であれば、どうとでもできるだろうさ」
「それにしても、またあんな美人の従者を召し抱えて、やっぱりギブンって、ハーレムウハウハを望んでいるんじゃあないの?」
「そんな訳ないだろ。それよりもちょうどいい。この世界について、もう少し話し合いたい」
死んだ2人が基はゲームであるこの世界に転生した。
こうして前世の記憶を持ったまま、空想現実であるこの世界に迷い込んだのは、高次元生命体となった女神に呼び寄せられた為。
「私たちがバグったチートを貰ってるのって、やっぱりゲームが完成してなかったからかな?」
「恐らくは」
商品として調整がされていなかったために、常識では考えられないチート能力を与えられたと言うピシュの考えは的を射ているに違いない。
それは2人に限られたものではないはず。果たして勇者はどれだけの能力を持っているのか?
基のシナリオによれば、魔王は勇者と戦い、勝った方がこの世界の未来を選択できる。
「テンケの事だけで決めつける事はできないけど、勇者には警戒をしないといけないな」
とにかく話し合いたいことは山ほどある。早く帰って、彼女たちの問題を早急に解決しなくてはならない。




