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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
102/120

STAGE☆102 「ぼっち男は観戦者」



 マハーヌは純粋な力でならここの誰にも負けない。それはギブンよりもである。


 しかし大きな武器を振り回すのは、ただ力任せ振り回せばいいという訳でもない。


 確かに正面からぶつかればマハーヌが押し勝つが、ブレリアの手数が多すぎて、大きな剣を1本だけでは対処しきれずいた。


「だったらこれなのですよ!」


「そんな軽そうな剣でで、あたしの斧を受け止められるのか、よ!」


 フラムを刀に変化させ、両手持ちにするマハーヌは、一本では斧を止めることができず、結局両手でブレリアの攻撃を受け止めるしかない。


「まっ、待って欲しいのですよ。これはミステイクだったのですよ」


 少し距離を置くために、マハーヌは魔女様に教えてもらった水魔法を使う。


「くっ、上級水魔法を使えるのか。正直ビックリしたぞ」


 ブレリアは避けられそうにない水槍アクアジャベリンを斧で弾いて、軌道を逸らす。


 軽くあしらって、マハーヌに近接しようとしたのだが、悪寒が働いて、両手持ちの戦斧を前へ、連続発動されていた水槍アクアジャベリンを受け止めた。


「なんて威力してやがるんだ。厄介な」


 今の威力で連発されるのは確かに厄介だ。


 しかしマハーヌ自身、魔法を戦闘に使うのは不慣れらしく、更なる追撃に繋げられなかった。距離をとって足を止めた。


 物理障壁のスキルを持つブレリアだが、魔法への耐性は高くない。


 マハーヌがコツを掴む前に勝ちをもぎ取りたい。


「オリビアとやるまで、この技はとっておきたかったんだがな」


 ブレリアが持つ大振りの斧が更に大きくなる。


「ななな、なんで皮鎧が……」


「ギブン、目がやらしいわよ」


「う、うるさいぞ駄天使!」


 悪態を付かれたアイシェは、ギブンの目の前をブンブン五月蠅く飛び回る。


「み、見えないって!?」


「このムッツリスケェ~ベ」


「だから、違うって……」


 ハクウの体はブレリアの胸に被さっている虎の顔と、股間に残される尻尾以外が斧を形成する。


 本当にきわどい状態。


 けれど別にブレリアは、ギブンになら見られても構わないと思っている。


 それを一応隠すべき部分は、辛うじて隠れているのだから、気にすることは全くない。


「これなら力でも負けねぇぞ!!」


「ならこちらも、奥の手を出すのですよ」


 斬り掛かってくる戦斧がとどく前に、マハーヌはフラムを脱ぎ捨てる。


 と同時に人魚の姿になり、ブレリアの攻撃をスルリと躱して見せた。


「な、なんでこんな所に水が!?」


 いや、ブレリアが目にしたのは透明ではあるが、水ではない。


 揺蕩たゆたう、それは!?


「スライムの波に乗って移動したのか」


 フラムを衣服代わりにしていたマハーヌは真っ裸になるが、下半身を魚に、露出した胸にはギブンからもらった水着を付けた。


「まだ飛ぶよりも、こっちの方が早く動けるのですよ」


 スライムとの魔獣同調は相性が良く、フラムはマハーヌが頭に思い描いた形に変化してくれる。


「口にしなくても理解してくれる、本当に賢い子なのですよ」


 腕力には自身があるマハーヌだったが、冒険者としての経験値は皆無に等しい。


 ブレリアに力任せの単純な攻撃は通用しない。


 それならスピードでかき回せばいい。


 幼稚な思いつきではあったが、変幻自在のフラムという波に乗ることで、マハーヌはブレリアに拳をぶつけることができた。


「手が届いた、届いたのはいいのですが……ですよ」


 物理障壁があるブレリアに拳なんて当てたところで意味はない。


「けど、これなら……ですよ」


 魔女様との修行もそれなりにマジメにしていたマハーヌは、殴りつけると同時に水刃ウォーターカッターも繰り出す。小さな傷が獣人の戦士に刻まれる。


「致命傷には程遠いけど、うっとおしいな」


 チクチクと気分が悪い。


 ブレリアはハクウの皮鎧を全身に被り直し、両手の爪で水の刃を弾き返す。


「ここからは全力全開なのですよ」


 まだ初戦だからと、力を温存したいマハーヌだったが、ブレリアはそんな甘い相手ではない。


 足を止めるブレリアの周りを、滑るように泳いでぐるぐる旋回する。


「ブレリアちゃんの攻撃は避けられるようになったのですよ。でも私もこのままでは決定打がないのは同じなのですよ」


 プラムには波の役をしてもらっているから、他の武器にはなってもらえない。


 並の相手なら人魚の力があれば、素手で十分倒せるだろうに。


「ハクウちゃんが攻撃を完全に無効化しているようですよ。ブレリアちゃんにまでダメージが通ってませんのですよ」


 今はまだ躱せているが、マハーヌが少しでも気を抜けば、ブレリアの爪は人魚の体を軽く三枚に捌いてしまうだろう。


「よし、わかった!」


 水刃ウォーターカッターに小さな傷を受け続けていたブレリアが、ここで1ランクアップした同調を手に入れる。


「ハクウ、わるいな。けどこれが魔力障壁か」


 物理障壁を引き受けてくれているハクウに、魔力障壁が上乗りする。


「皮鎧が相手の攻撃を全部防いでくれるんだ。あたしも気合い入れねぇとな」


 続いて同調を使って身体強化をする。


 飛び回るには狭すぎて使えない翼の飛行魔力を、足に集中させてマハーヌの速度に迫るスピードで駆け出す。


「早い!? このままでは捕まってしまうのですよ。……そうなのですよ!」


 マハーヌはひらめき、イメージを実行する。


「これならイケるのですよ!」


 人魚の手に節のついた棒、三節棍が追い付いてきたブレリアの爪をはじき返す。


「なんだそれ? 見た事ない武器を出しやがって」


 波に乗っている間は武器は出せないと、ブレリアは高を括っていた。いや、実際これまでは出せなかった。


 確かにマハーヌが波に乗るためには、従魔の能力を最大限に使いきる必要があった。


 ブレリアがハクウとの絆を更に強くして見せた。それなら自分だってもっとフラムの力を引き出せるはず。


 しかしマハーヌの経験値では、魔獣同調をブレリアと同等に使えたとしても、戦闘に活かすイメージを思い浮かべられないが、魔法ならブレリアに負けない自信がある。


「私が移動に使う波を私自身が水魔法で生み出せば、フラムちゃんは波のフリをする必要が無くなるのですよ。波の操作はしてもらわないとならないけれど、武器変化の能力を同時に行うくらいは問題ありませんのですよ」


「説明ありがとうよ。それとも自慢か? 全く厄介だな」


 ブレリアは高速移動能力を手にし、マハーヌは移動力を失わないまま武器を取り戻した。


 マハーヌに劣るパワーは、これまでの経験で補うブレリアは、フラムの力を借りてスピードアップしたマハーヌを真似て、ハクウに速度を上げてもらった。


 攻撃能力にかなりの差があり、劣勢でいたマハーヌも魔法を工夫することで、出せなかった武器を使えるようになった。


「まさかマハーヌがブレリアに、ここまで食らいつくとは……」


 ボソッと溢したギブンの囁きをアイシェは聞き逃さなかった。


「あんたの側にいたい。できれば今までよりももっと寄り添いたい。その想いがあるから、精一杯努力してんのよ」


 2人が頑張れば頑張るほど、防壁も強くしなくてはならないギブン、いつの間にか審判役をするアイシェは決着がつくまでの間、暇を持て余して、男にかちょっかいを掛ける。


「いや、手が空いてるなら障壁張るのを手伝えよ」


 ギブンとアイシェが見守る2人の対決は攻守が逆転し、武器を変化させながらマハーヌがブレリアを攻め立てる。


「マハーヌってあんなに器用だったかな? 色んな武器をブレリア相手に、あそこまで立ち回れるなんて思ってなかったよ」


「それも誰かさんの為でしょ」


 それは素直に嬉しいことだけど、無理をしているのだとしたら申し訳ない。


「私、本当にあんたのこと嫌いだわ」


「そう、だよな」


 アイシェにそう言われ、ギブンは少し落ち込む。


 「うわわわわ!?」「きゃぁーーー!?」と悲鳴が上がる。


「ちょっと、気を抜いてんじゃあないわよ。防壁防壁」


「ああ、す、すまない」


 魔王城全体が大きく揺れる、その震源を察知したアイシェが注意する。


 その一瞬の出来事が決着をつけた。


「マハーヌからフラムを引き離した。勝者はブレリアね」


 審判員アイシェがブレリアの基に飛んでいき、その左手を持ち上げた。


「従魔とのリンクを断たれた方が負け。ってルールだったのか?」


 ギブンが到着する前に話し合いがあったとかで、ルールは既に定まっていたということだ。(ラージが剣を折られたら負けというのは、即興で決まったらしい)


 ブレリアが鞭に変化していたフラムを戦斧で絡め取り、マハーヌの手から引き離した。


 体を支えていた水は制御を失い、波が消えてマハーヌは床に激突した。


 第一回戦第三試合の勝敗が決した。

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