STAGE☆102 「ぼっち男は観戦者」
マハーヌは純粋な力でならここの誰にも負けない。それはギブンよりもである。
しかし大きな武器を振り回すのは、ただ力任せ振り回せばいいという訳でもない。
確かに正面からぶつかればマハーヌが押し勝つが、ブレリアの手数が多すぎて、大きな剣を1本だけでは対処しきれずいた。
「だったらこれなのですよ!」
「そんな軽そうな剣でで、あたしの斧を受け止められるのか、よ!」
フラムを刀に変化させ、両手持ちにするマハーヌは、一本では斧を止めることができず、結局両手でブレリアの攻撃を受け止めるしかない。
「まっ、待って欲しいのですよ。これはミステイクだったのですよ」
少し距離を置くために、マハーヌは魔女様に教えてもらった水魔法を使う。
「くっ、上級水魔法を使えるのか。正直ビックリしたぞ」
ブレリアは避けられそうにない水槍を斧で弾いて、軌道を逸らす。
軽くあしらって、マハーヌに近接しようとしたのだが、悪寒が働いて、両手持ちの戦斧を前へ、連続発動されていた水槍を受け止めた。
「なんて威力してやがるんだ。厄介な」
今の威力で連発されるのは確かに厄介だ。
しかしマハーヌ自身、魔法を戦闘に使うのは不慣れらしく、更なる追撃に繋げられなかった。距離をとって足を止めた。
物理障壁のスキルを持つブレリアだが、魔法への耐性は高くない。
マハーヌがコツを掴む前に勝ちをもぎ取りたい。
「オリビアとやるまで、この技はとっておきたかったんだがな」
ブレリアが持つ大振りの斧が更に大きくなる。
「ななな、なんで皮鎧が……」
「ギブン、目がやらしいわよ」
「う、うるさいぞ駄天使!」
悪態を付かれたアイシェは、ギブンの目の前をブンブン五月蠅く飛び回る。
「み、見えないって!?」
「このムッツリスケェ~ベ」
「だから、違うって……」
ハクウの体はブレリアの胸に被さっている虎の顔と、股間に残される尻尾以外が斧を形成する。
本当にきわどい状態。
けれど別にブレリアは、ギブンになら見られても構わないと思っている。
それを一応隠すべき部分は、辛うじて隠れているのだから、気にすることは全くない。
「これなら力でも負けねぇぞ!!」
「ならこちらも、奥の手を出すのですよ」
斬り掛かってくる戦斧がとどく前に、マハーヌはフラムを脱ぎ捨てる。
と同時に人魚の姿になり、ブレリアの攻撃をスルリと躱して見せた。
「な、なんでこんな所に水が!?」
いや、ブレリアが目にしたのは透明ではあるが、水ではない。
揺蕩たう、それは!?
「スライムの波に乗って移動したのか」
フラムを衣服代わりにしていたマハーヌは真っ裸になるが、下半身を魚に、露出した胸にはギブンからもらった水着を付けた。
「まだ飛ぶよりも、こっちの方が早く動けるのですよ」
スライムとの魔獣同調は相性が良く、フラムはマハーヌが頭に思い描いた形に変化してくれる。
「口にしなくても理解してくれる、本当に賢い子なのですよ」
腕力には自身があるマハーヌだったが、冒険者としての経験値は皆無に等しい。
ブレリアに力任せの単純な攻撃は通用しない。
それならスピードでかき回せばいい。
幼稚な思いつきではあったが、変幻自在のフラムという波に乗ることで、マハーヌはブレリアに拳をぶつけることができた。
「手が届いた、届いたのはいいのですが……ですよ」
物理障壁があるブレリアに拳なんて当てたところで意味はない。
「けど、これなら……ですよ」
魔女様との修行もそれなりにマジメにしていたマハーヌは、殴りつけると同時に水刃も繰り出す。小さな傷が獣人の戦士に刻まれる。
「致命傷には程遠いけど、うっとおしいな」
チクチクと気分が悪い。
ブレリアはハクウの皮鎧を全身に被り直し、両手の爪で水の刃を弾き返す。
「ここからは全力全開なのですよ」
まだ初戦だからと、力を温存したいマハーヌだったが、ブレリアはそんな甘い相手ではない。
足を止めるブレリアの周りを、滑るように泳いでぐるぐる旋回する。
「ブレリアちゃんの攻撃は避けられるようになったのですよ。でも私もこのままでは決定打がないのは同じなのですよ」
プラムには波の役をしてもらっているから、他の武器にはなってもらえない。
並の相手なら人魚の力があれば、素手で十分倒せるだろうに。
「ハクウちゃんが攻撃を完全に無効化しているようですよ。ブレリアちゃんにまでダメージが通ってませんのですよ」
今はまだ躱せているが、マハーヌが少しでも気を抜けば、ブレリアの爪は人魚の体を軽く三枚に捌いてしまうだろう。
「よし、わかった!」
水刃に小さな傷を受け続けていたブレリアが、ここで1ランクアップした同調を手に入れる。
「ハクウ、わるいな。けどこれが魔力障壁か」
物理障壁を引き受けてくれているハクウに、魔力障壁が上乗りする。
「皮鎧が相手の攻撃を全部防いでくれるんだ。あたしも気合い入れねぇとな」
続いて同調を使って身体強化をする。
飛び回るには狭すぎて使えない翼の飛行魔力を、足に集中させてマハーヌの速度に迫るスピードで駆け出す。
「早い!? このままでは捕まってしまうのですよ。……そうなのですよ!」
マハーヌはひらめき、イメージを実行する。
「これならイケるのですよ!」
人魚の手に節のついた棒、三節棍が追い付いてきたブレリアの爪をはじき返す。
「なんだそれ? 見た事ない武器を出しやがって」
波に乗っている間は武器は出せないと、ブレリアは高を括っていた。いや、実際これまでは出せなかった。
確かにマハーヌが波に乗るためには、従魔の能力を最大限に使いきる必要があった。
ブレリアがハクウとの絆を更に強くして見せた。それなら自分だってもっとフラムの力を引き出せるはず。
しかしマハーヌの経験値では、魔獣同調をブレリアと同等に使えたとしても、戦闘に活かすイメージを思い浮かべられないが、魔法ならブレリアに負けない自信がある。
「私が移動に使う波を私自身が水魔法で生み出せば、フラムちゃんは波のフリをする必要が無くなるのですよ。波の操作はしてもらわないとならないけれど、武器変化の能力を同時に行うくらいは問題ありませんのですよ」
「説明ありがとうよ。それとも自慢か? 全く厄介だな」
ブレリアは高速移動能力を手にし、マハーヌは移動力を失わないまま武器を取り戻した。
マハーヌに劣るパワーは、これまでの経験で補うブレリアは、フラムの力を借りてスピードアップしたマハーヌを真似て、ハクウに速度を上げてもらった。
攻撃能力にかなりの差があり、劣勢でいたマハーヌも魔法を工夫することで、出せなかった武器を使えるようになった。
「まさかマハーヌがブレリアに、ここまで食らいつくとは……」
ボソッと溢したギブンの囁きをアイシェは聞き逃さなかった。
「あんたの側にいたい。できれば今までよりももっと寄り添いたい。その想いがあるから、精一杯努力してんのよ」
2人が頑張れば頑張るほど、防壁も強くしなくてはならないギブン、いつの間にか審判役をするアイシェは決着がつくまでの間、暇を持て余して、男にかちょっかいを掛ける。
「いや、手が空いてるなら障壁張るのを手伝えよ」
ギブンとアイシェが見守る2人の対決は攻守が逆転し、武器を変化させながらマハーヌがブレリアを攻め立てる。
「マハーヌってあんなに器用だったかな? 色んな武器をブレリア相手に、あそこまで立ち回れるなんて思ってなかったよ」
「それも誰かさんの為でしょ」
それは素直に嬉しいことだけど、無理をしているのだとしたら申し訳ない。
「私、本当にあんたのこと嫌いだわ」
「そう、だよな」
アイシェにそう言われ、ギブンは少し落ち込む。
「うわわわわ!?」「きゃぁーーー!?」と悲鳴が上がる。
「ちょっと、気を抜いてんじゃあないわよ。防壁防壁」
「ああ、す、すまない」
魔王城全体が大きく揺れる、その震源を察知したアイシェが注意する。
その一瞬の出来事が決着をつけた。
「マハーヌからフラムを引き離した。勝者はブレリアね」
審判員アイシェがブレリアの基に飛んでいき、その左手を持ち上げた。
「従魔とのリンクを断たれた方が負け。ってルールだったのか?」
ギブンが到着する前に話し合いがあったとかで、ルールは既に定まっていたということだ。(ラージが剣を折られたら負けというのは、即興で決まったらしい)
ブレリアが鞭に変化していたフラムを戦斧で絡め取り、マハーヌの手から引き離した。
体を支えていた水は制御を失い、波が消えてマハーヌは床に激突した。
第一回戦第三試合の勝敗が決した。




