STAGE☆100 「ぼっち男は蚊帳の外」
ギブンの心の中で、仲間に優劣なんて存在しない。
もし許してくれるなら、みんなとはまだもう少し、今までの関係でいたい。
とは言え、エミリアが事実を述べているのだとすれば、みんなに合わせる顔もない。
しかしギブンは幻惑魔法なんて使えない。
「そうでもないか」
自己防衛のために、幻影がどんな魔法なのかをイメージしたことはある。
もしかしたら少し練習すれば自在に使えるようになるのかもしれない。
「なんでオイラまで? 花嫁さんを決めるイベントに男のオイラは関係ないっすよね」
「別にいいじゃない。男と男、そういうのもアリって、そこの魔王様が言ってたわよ」
エミリアはどうやら、ギブンとピシュの持つ違和感、2人が異質な存在だと気付いているようだ。
しかし彼女、人を見る目が異常と言うか、なんというか。
「変態だな」
付き合いもそれなりになってきている。弄ばれているテンケには同情するが害はないのは保証する。
「いや、それは他のみんなも同じか。ハッキリと口にはしないけど、俺たちが異世界人であること、疑いも持たれてないなんてあり得ないか」
そんな事よりこの騒ぎ、どうにか切り替えてもらわなくては。
「人間界は確か多夫多妻であったな」
バサラが所属する魔界は一夫一妻であるようだ。
「でもまぁ、そう言った契りも悪くはないか」
バサラに自信に拘りはないようだ。それにマハーヌも特に気にしていない。
「皆が良いなら、私は構わんぞ。少し暴れたりなかったしな」
「ブレリアさんに同じく、ですわ。旦那様の正室と認められ、側室の力量を知っておくのもいいでしょう」
オリビアはすでに勝つ気満々。表情を読むにそれはみんな同じようだ。
「オイラが……正室に?」
テンケも負ける気はないようだ。それはいいが正室云々を受け入れている事には驚かされた。
「でもテンケくんを入れても7人か。トーナメント戦にするには、もう1人いて欲しいんだけど」
ピシュの提案で決定戦は勝ち抜き戦となった。
総当たり戦にするには人数が多いからと。
そう、文字通り戦って、勝った者から順に后の位を付けていくらしい。
「あと1人か……」
バサラがどう見渡しても、候補者なんてどこにも……。
「それなら私が立候補しよう」
「って、ラージ様!?」
バサラが首を捻っているその後ろから、四天王の1人、ラージ・レベックが口を挟んできた。
「久し振りにお前と手合わせがしたくなった。それに私も武人であり女だ。強い男に惹かれるのは当然のことだ」
ラージのような考え方は、この世界ではいたって普通、有力者に嫁ぎたいと言う思いが最優先で、恋心なんてものを優先するのは、片田舎の農民でもあまり重んじていない。
現にここにいる花嫁達の中で、家のことや権威を全く考えずにいられるのはピシュとエミリアだけ。
マハーヌとブレリア、バサラはラージと同じで、強者に惹かれた。
オリビアはギブンが爵位を得てくれたこと、冒険者としても上り詰めてくれたことが、嫁入りの一番の理由になったのは確かだ。
「魔王様が私を望まぬと言うならば、引く他ないがな」
四天王ラージは魔王ピシュが健在でありながら負けを認めるとするなら、ギブンにはその魔王の肩書を奪い取ったことにしてもらわないと、魔族軍を止める事はできないと交渉してきた。
ピシュを殺すか代わって魔王となるかを迫られたのだ。
「四天王を嫁に……」
確かにギブンが抱く恋愛観は1対1が当たり前ではあるが、しかもまだ自分の恋心にも気付けていない。そんな自分に向けられる好意を、どんな形であれ無下にするほど、恋愛に強い想いがあるわけではない。
「では私の相手はバサラ、お前でいいよな」
「ラージ様、なんだか趣旨が変わってませんか?」
「なら私の相手はテンケ、貴方にお願いしようかしら」
「エミリアさんが!? と言うかオイラの相手は、そっちのエレってゴーレムになるんすよね」
「どっちの拳が硬いか、勝負だマハーヌ」
「ブレリアさん、拳闘は一日にしてならず、なのですよ」
「それじゃあ、残るはオリビアさんか」
「そのようですね。ピシュ、胸をお借りします」
「むっ、それって嫌み? オリビアさん」
「変に歪めて取らないでください」
あっと言う間に組み合わせも決まり、ようやくギブンの話を聞いてくれそうな空気になる。
が、ギブンが先ず知りたいのは、この世界が本当にゲームが元になっている、人によって作られた物かを証明できる情報。お、ピシュだけに聞きたいのだけれど。
ここでは無理だろう。
「それ、ほんとうなの!?」
「認めたくはないがな」
「そう、ですね」
ギブンがまごまごしている間に、別の話題で盛り上がっている。
ピシュが聞かされたブレリア、オリビア2人が抱く疑問。
「ちゃんと月経を計算していたのに、懐妊がなかったと言うことは……」
「ああ、それが2人共となると、きっと間違いないだろう」
オリビアとブレリアがギブンに向ける視線が痛い。
「となると2人は以前に、そう言った経験があると言うことになるが」
こういった時の学者にはデリカシーがない。
「私は初潮を迎えて直ぐでした。相手は実の兄です」
「あたしは同族の雄共にだ。縛られて抗うこともできずにな。癒し手の魔法がなければ、望まぬ子を孕んでいただろうな」
それが貴族として、部族の強者故と理由は違えど、本人が消し去りたい記憶。それを婚姻の結ばれた夜に払拭されたはずが。
「無意識とは言え、流石にないんじゃあない?」
ピシュの目が怖い。同じ目が他に十四。
静かに目を閉じる。それでも自身の過ちに、ギブンの心が悲鳴を上げる。
「ピシュ、誰が一番とか、そう言うのを止めてくれないか。俺は……」
「ダメよ。確かにあなたが犯した罪は重い。だけどこれでまだ皆がスタートラインだと分かった今だからこそ、ちゃんとしたお膳立てが必要になる」
今度こそ、ギブンの魔力を封じて結果を残す。その為にも順位を付ける必要がある。
「トーナメントの前に聞いておくけど、今の話を聞いてもギブンと結ばれたい? 私は心底呆れたけど、それでも彼の一番になりたいと思っている」
ピシュの想いは変わらない。
最初からギブンは王子様ではなかったじゃあないか。
異世界から転生してきた同郷。ただそれだけだった。
気付いたのだ。一方的に望みを叶えてもらうのではない、お互いを支え合うパートナーとして隣に並んでいたいのだと。
「結婚したばかりで離婚なんてされてなるものか。私は旦那様に尽くすのみだ」
オリビアの騎士道スイッチがオンになる。
「あたしより強い男なんて、今後どれだけ出会えるものか。次なんて待ってたら婆ぁになっちまうよ」
ブレリアはギブンの頭を胸で挟み込む。
「それに今回のことだって、あたしよりこいつの信念が勝っただけのことだろ。だったら今度はあたしの想いで、こいつの心にも勝てばいいだけのことさ」
オリビアとブレリア、2人の武人の心を射止めた強者。想いが届かなかったのは己が弱かったに過ぎない。この程度のことで翻ったりはしない。
「難しいことは分かりませんのですよ」
マハーヌがギブンの手を取って、無理矢理ブレリアから奪い取る。
「けど今よりももっと近くで甘えられるなら、私は視力を尽くすだけなんですよ」
「今さらだな。私はそもそもこの中ではオマケみたいな位置にいたからな。こんなチャンスを逃すわけないだろう」
抱きついたマハーヌごと、ギブンを挟みこんだバサラが目を輝かせる。
マハーヌもバサラも、低位だと感じていた后の座が上がるチャンスだ。しかも皆がスタートラインだというなら燃えないはずがない。
「だからオイラは……、けどアニキの右腕になるってのは悪くないっす。やってやるっす」
おもしろ半分の四天王ラージを含め、第1王妃決定戦から手を引く者はいない。
「それじゃあ、はじめましょうか!」
ピシュが大広間に障壁を展開する。




