STAGE☆10 「ぼっちの真相解明」
ウルエラ=エイプナ、年齢は112歳。長命なエルフの中ではまだ、結婚適齢期を迎えたばかりの若輩者だ。
本人は戦士と名告っているが、そのレベルは38。
別に彼女がトレーニングを怠っているわけではない。
戦闘能力を計るためのレベリングは、森の民エルフよりも、様々な場所で魔物を狩る人間の方が、戦いの神が定めた経験値を得られやすい。
エルフは生きるために動物を狩り、長命を全うするための変わる事のない毎日を過ごす。
時には魔物を狩る事があっても、エルフが必要のない殺生をすることはない。
戦いの神が強さを求めるモノに架したのは、魔力あるモノを狩る経験。
魔物退治を生きる糧とする冒険者。
民草のためと魔武具や魔法を使って、人間同士で命を取り合う騎士や兵士、傭兵など。
魔力の奪い合いがレベルを上げさせる。
「眠りの魔法って、エルフにも効くんだな」
ギブンはウルエラをテントの中で寝かせて、ゲートを探して洞窟内を見て回った。
「魔力反応の大きな個体が増えてきた気がする。ゲートが閉じるのも時間の問題かもしれないけど」
ゲート、人間の世界と異世界を繋ぐワームホール。
もとはこの世界には人間以外の知性体は存在しなかった。
エルフ、ドワーフ、妖精などの種族はゲートを抜けて、こちら側に根付いたモノ。
それでも人間は共存共栄することができた。ただ1つの例外を除いて。
「このところの一連の騒動、魔族が絡んでいるんだろう。と言ってたな」
魔物もまた、魔界と呼ばれる平行世界から迷い込む異物。
「無秩序に前触れなく開く魔界のゲートは、戦いの神の試練とか言われているらしい。か」
ゲートの濃度と魔物の強さは比例する。自然発生するゲートでは、人間界に出てくるのはさほど強くない魔獣だけ。
「けどこれは、馬車の中でフランが教えてくれたのと、同じ現象だな」
数百年に一度。全ての魔族を統率できるほどの強さを持つ魔王が生まれる。
混沌とした魔界の醜悪な空気に汚染されると、突然変異的に強大な力に目覚める者が現れるのだとか。
魔王は歪んだ空気で自我を失う前に、人間界を目指すとされている。
隔たりとなるゲートを拡げるために、次から次へと魔物と魔人を送り込み、次元の境を破壊するのだ。
「このところの魔物の大量発生も、魔王再来の前兆と思われているわけか」
オーク、ハイオークが現れたという事は、魔人が絡みだしている。つまり上位魔人や悪魔、魔王が通れる穴に成長させようとしているかもしれない。とオリビアが出撃直前に言っていた。
「魔人ほどの魔力持ちが通れば、今の段階のゲートはまだ消滅するしかないだろうという事だけど、それでも抜けてきた魔人は、早々に倒さないといけないよな」
ハイオークの大群に苦戦しながらも、魔力消費を極力抑え、ようやく発見したゲート。
「まだ魔人の姿はない。と思う。今の内にゲートを消滅させないと」
ギブンは穴の前で剣を構える。
「……、そう言えば、ゲートの消滅のさせ方を聞いてなかったぞ」
フランは伝承を教えてくれはしたが、魔物との戦いは専門外。
ゲートについて質問したら「知りませんわ。けど安心してください。今から合流する冒険者の中には、麗しのお姉様がいらっしゃいます。きっと知恵を授けてくれますわ」と、馬車を降りた時に言っていた。
「そいつを聞かなければならなかったのに、肝心なことを聞く前に逸れてしまったんだよな」
一体どうすればいい? 物理攻撃は有効なのか? 魔法をぶつけて逆に活性化させないか? そもそもどの属性魔法が有効なのだ? と迷っている内にソイツは現れた。
「ちっ、やっぱりまだ、俺1人が限界だったか」
黒色の肌、銀の髪、赤い眼に黒い眼球、吸血鬼のような鋭い牙に、爪は光を反射して尖っている。
そいつはイラストで見た、魔人そのものの姿をしている。
「なんだ? かなり多くの魔物を送り込んだはずなのに、随分と静かだな」
ここら一体のオークは苦労してギブンが退治した。
恐らく外は新しい陽の光が、地面を明るく照れし始めている頃だろう。
「おい、お前!」
物陰に隠れて様子を窺っていたギブンに、声が掛けてくる。
「それで隠れているつもりか? しっかりと探知魔法に引っ掛かっているぞ」
ギブンには探知遮断のスキルがある。女神の加護は受けていないが、スキルポイントをかなり消費して、そこそこ上げているのに。
「レベル18か。弱ええな」
しかも魔人は高位の鑑定スキルも持っているようだ。
とは言え、見えているのは偽装したステータスの方みたいだ。
「だがお前からは神の臭せぇニオイがプンプンしやがるぜ。その剣とその鎧、神のギフトのようだな、けどお前には宝の持ち腐れ。ってやつだな」
にしてもよく喋る。
「俺のレベルは47だ。絶望したか? 魔族のレベルってのは、人間の倍は高く見積もられる。つまり俺はお前らの言うレベル100に近い存在って事だ」
己の情報までもペラペラとよくもまぁ。
しかし危ないところだった。ステータスをまるまる信じて、痛い目に合うところだ。
「つまりはレベル100相当か。それじゃあステータスも同じように倍に考えればいいのかな?」
「おお、ようやく喋りやがったか。そうだな。お前ら人間ってのは、殺す相手の質問を1つだけ答えてやるんだろ? 冥土のみやげって言うんだよな」
魔人の表情が変わった。なぶり殺す相手が萎縮していては面白くない。そう言った感じだ。
戦いを楽しみたい。そんなタイプなのだろう。
「安心していいぞ。俺は獲物を簡単には殺さねぇ。お前の実力を見極めた上で、八つ裂きにしてやるから、手を抜かずにかかって来いよ」
奢る魔人は先手を譲った。
それは有り難い。特にギブンは戦いを楽しんだりはしていない。
両手で持つ剣に力を集中し、魔力をできるだけ注ぎ込み、振り上げて不敵に笑う魔人に向けて叩きつけた。
「ふぅ、危うく地面まで切るところだった。そんな事をしたら洞窟が崩れてしまうからな」
跡形もなく消滅した魔人の高笑いがなくなった事で、洞は静けさを取り戻した。
ウルエラを起こして洞を出ると、陽は高くなり、暖かく大地を照らしている。
「ねぇねぇ、もっとララザの実を頂戴。もう少し食べたいわ」
エルフは時には肉も食らうが、主食は果物らしく、次元収納に入っているリンゴそっくりの実を次々と要求してくる。
洞の外ではまだ、冒険者&エルフの戦士同盟軍と、オーク達との戦いが続いていた。
「ギブンさん! 無事でしたか?」
「オリビア殿」
「心配しましたよ」
馬の上で指示をしながら戦うオリビアは、高い位置からいち早くギブンを見つけて、走り寄ってきた。
「いや、道に迷い。運良く巣を見つけたので、ゲートを潰しに行っていた」
相手が馬上だったので距離もあり、いつもほどプレッシャーに潰されることなく、長く話す事ができた。
「それは本当ですか!? では後はここにいるオーク達を駆逐すれば、任務達成なのですね」
「そ、そうだ」
巣の中には、怪しまれない程度にオークの死骸を残してきた。
オーク肉は売れると聞いて、魔石を抜いた後、いくらかは異次元収納にしまってある。
1人になった時に解体すれば、食材や販売することができる。
「すごいですね。今夜、ゆっくりと話を聞かせてください」
ブレリアみたいなことを言い出したものだから、ギブンは聞こえないフリをして走り出した。
大声で呼ぶウルエラとオリビアを残して一目散に走る。
そうしたら、大剣を振り回して、残党を一掃するブレリアとパッタリ出会ってしまった。
「よぉ小僧! やっぱり生きてたな。忘れるなよ! 昨日は果たせなかったが、今夜はしっぽりとまぐあうんだからな」
ギブンは可能な限り探索範囲を拡げて、魔物の数を確認した。
このくらいの数なら、ここにいる冒険者だけで何とかなるだろう。
ギブンは再び走り出し、一目散で王都に逃げ込んだ。




