STAGE☆01 「ぼっちのチュートリアル」
「ここは……、見たこともない場所だな」
僕の名前は……。
生まれてこの方、友達の一人も作れなかった高校1年生。
先生が見捨てないのが不思議なくらい、人の輪の中に入ることができなかった幼稚園。
友達100人って何? 隣の席の子にすら、かけられた声に返せなかった小学校。
クラスの九割に名前どころか、名字も覚えてもらえなかった中学校。
高校もどうせ変われはしない。
一人遊びは一通り試してみたけど、スポーツは相手がいないと全く楽しくない。
いや、同じスポーツでもただ一つ、ボッチでも楽しめる物はあった。
アバターネームはギブン。eスポーツの世界ではそれなりに有名なプレイヤーになれた。
生きる道をようやく見つけたと思った春、無差別通り魔に刺されそうになるオジサンを庇って、僕は死んだ。
庇った? いやオジサンが僕を盾にしたんだ。
「……成り行きは思い出したけど、それでどうしてこんな何もない所に? 死んでしまってあの世行きってところかな? 夢の中で夢に気づくなんて漫画だからだもんな」
『パンパカパ~ン!』
いや、僕は死んでない。でないとあまりにもイタタマレナイ。
水先案内人のお姉さんがバカみたいに明るいなんて、認められない。許されない。
『不幸な人生、不遇な最期を迎えた皆様から、抽選で第二の人生をプレゼントしています』
それに僕が当たったとか?
『選択肢は三つ』
なに? このゲーム的な案内。
『元いた世界に赤ん坊からやり直すか、遙か遠くの別の星で赤ちゃんになるか、全く違う世界に生まれ変わるのか。ですね』
やっぱりゲーム感覚じゃん。
「えーっと、それって赤ん坊からだけですか?」
『もう死んでらっしゃいますからね。ですが異世界であればギリギリセーフとしましょう。お好きな年齢を言ってください』
「あとそうですね。赤ん坊になる場合は、前世の記憶を持って生まれ変われるんですか?」
『はい、望みのままに。ですがあなたの場合は記憶ありが、よろしいのではないでしょうか?』
それは……そうだろうな。
せっかくやり直すんだから、同じ失敗はしたくない。記憶があれば経験を活かして改善できるはずだ。ならば!
「異世界へ! 死んだのと同じ年でお願いします」
『それでは次の選択です』
あ、これってやっぱりチュートリアルだ。やっぱゲームじゃんよ。
『それでは自己設定ですが、あなたはギブンというお名前をお持ちですが、本名とどちらがよろしいですか、それとも別のお名前を考えますか?』
「それじゃあギブンで、容姿もギブンを選べますか?」
『もちろんです。私もその方が楽なので助かります』
本音もれてるっすよ。
『続きまして、ステータスとスキルの初期設定です。私、あなたの残念な前世に涙が止まらないので、いつもより多めにサービスしますね』
神様が平等でなくて、いいのですか?
『転生得点でステータスポイント10000と、スキルポイント10を進呈しま~す。通常はステータス1000とスキル3なんですけどね』
なるほど、これが有名な神様の恩恵チート。ってやつですね。って、そんなに色付けていいんですか?
『スキル一覧はこちらです』
僕の第二の人生を決める大事な局面だ。
「あのぉ、一覧にはありませんが、一つお願いできませんか?」
『はい、なんでしょう?』
「一人では不安なので、案内役さんも一緒についてきてはもらえませんか?」
『ああ、なるほどなるほど。気持ちは分かりますが、私も仕事がありますので、ご一緒にと言うわけには……』
「ですよね」
『ああ、でも私の元にいる天使の修行を兼ねて、一人預かって頂けますか? スキル1とは数えませんので』
お、それはありがたい。言ってみるもんだな。
『ですが数にはあげませんが、一応スキルの一部ですので、実体化はできませんよ。声だけです。優しくしてあげてくださいね』
それでも構いません。構いませんとも。
スキルポイントを一つ使ってでも欲しかった初めての友達、ドキドキします。
あとはそうだな。
一番得意だったあのゲームで選んだ職業、魔法戦士寄りにステータスを振り分けるかな。
「ここは……、見たこともない場所だ。異世界、なんだよな?」
青い空、生い茂る木々と草花、よく空気がおいしいと言う表現を聞くが、今まさにギブンはそれを実感していた。
「すごいすごい、体が軽い。これならどんな武器だって振り回せるぞ」
『ちょっと!』
「ひぃ!?」
『なによ、その反応!?』
幼い女の子の声が頭の中に響いてきて、ギブンは息を詰まらせた。
「あ、あ、あ」
『だからなんなの、その反応は? ネフラージュ様とは親しそうに喋ってたじゃない』
「ネフラージュ様って?」
『女神様よ。言わなくっても分かるでしょ! 本当に畏れ多くも馴れ馴れしく敬いもせず』
「ああ、それは、そうなんですが……」
あの空間では元の体も分解されて、脳も軽くなって、ギブンはそれまでの人生にない開放感を味わった。
「あ、あのそれで僕は、あなたをどう呼べばいいですか?」
『生まれたての私にはまだ名前はないのよ。女神様からも授からなかったし、ギブン、あなたに名誉をあげる。かわいい私にピッタリの名前を考えるのよ』
「天使様の名前を、ほ、ほ、ほ、本当に僕なんかが……」
『オドオドしない! 本当にもぅ!! いい、ピッタリな名前を考えるのよ』
この天使様がどんな見た目かも分からないのに、ピッタリとか言われても。
「ええ、っと、えとですね」
『もぉ、いい! 私はピシュ。ネフラージュ様にはあんたが付けたことにするのよ』
「は、はは、はいぃ~」
相手の姿も見えないのに、背筋を伸ばして、ひっくり返る語尾を引っ張る。
『はぁ~、もういいわ。これネフラージュ様から。それじゃあ今日の仕事はこれで終わり。今後、よっぽどの事があったら手を貸してあげるわ』
ギブンの手に握られたのは、魔王討伐を果たしそうな、煌びやかな剣。
天使ピシュに気を取られて気付かなかったが、その剣に見劣りしない鎧を着ている。
もしかしたら勇者として転生したのかと、勘違いしてしまいそうだ。
「ほ、本当にこんなすごい物をもらっていいのかな?」
とりあえず現状を整理する。
ギブンが賜った恩恵はステータスポイントとスキルポイント。
取得したのは鑑定と隠蔽のスキル。最近の流行りに乗っかった。
そのお陰かただの仕様か? 目前にステータスが現れる。
「名前はギブン、15歳の魔法戦士」
しかし立派な剣と鎧から、騎士か剣士かという出で立ちだが、希望通りの職業になっている。
「フムフム、女神さまにお願いした通りだ」
ステータスポイントは筋力、敏捷、耐久に多くを振り分けた。知力と魅力に関しては後回しにした。
「デタラメじゃあないか? ステータスポイントの他にも加算されているポイントがあるなんて」
筋力4200+100、敏捷2800+100、耐久4000+100、知力0+1000、魅力0+10000。
「……僕の前世ってそれほど悲惨だったのかな?」
レベル1でヒットポイントが1220とか、マジックポイントが60622もあるとか。
「魔法戦士の名に恥じないポイントってことか。この世界の基準は知らないけど」
第二の人生は、ちょっとやそっとでは死にそうになさそうだ。
「スキルは随分長い時間かけて悩んだけど、まだポイントは残ってるなぁ」
前世のゲーム知識を元にめぼしい物を選んだ。
都合のいいことに、鑑定と隠蔽は1つのスキルとして統合されている。
便利そうなところで、定番の異次元収納も取得した。収納物の一覧にはまだ剣しかないが、いったいどれくらいの収納量があるのかが楽しみだ。
あとは毒や麻痺、呪いなどの状態異常無効化スキルを取得。
上級剣技スキルと上級拳技スキル、全魔法属性スキルと、自動魔力治癒スキル。
飛行スキルなんかも便利かと思ったが、流石に悪目立ちはしたくない。
「空間移動か。便利そうだけど、どうしようかな? ……これも後回しでいいかな」
取得したスキルは7つ。あと3つは追々に。
「川だ。食料もだけど、水を確保しておかないとな」
周りは深い森。獲物も少し歩けばすぐに狩れるだろう。気配をビンビンに感じる。
「とにかく水だ」
前世では一人の時間が長かったので、料理は普通に覚えたし、レパートリーもそれなりに持ってるつもりだ。材料さえあれば、リクエスト通りの料理を作れる自信がある。
「水を異次元収納に蓄えたら、狩りをしよう」
驚くほどのきれいな水だ。状態異常無効化を信じて飲んでみる。
「うんまい! にしてもこの顔、確かにアバターと一緒だ。格好いいなぁ、ホレボレするなぁ~。これは僕じゃあなくて、俺とかって言わないとなぁ~」
川に映るワンカールベリーショートの自分に、しばし魅了されて少しの間だけだったけど動けなくなる。これが魅力ポイント10000の力か?
「ああ、こんな事してる場合じゃあないな」
魅了から解放されたて川釣りと狩りをし、野営地を決めて火をつけた。
どうやらサバイバル技術は、デフォルトで取得されているようだ。
食事を済ませたら町を探そう。
「あのぉ、ピシュ、どっちに向かえば町に出られそうかな?」
右も左も分からないでは遭難してしまう。ここは素直に頭を下げて、天使に助けてもらおう。
「……ピシュ? ピシュ様? 大天使様!?」
返事がない。この程度は彼女にとって『よっぽど』ではないのか。
「まずいまずいまずいぞぉ!」
ギブンは慌ててマッピングスキルを取得した。
始まったばかりで遭難イベントなんて、冗談ではない。