表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

箱の部屋で

作者: 地下茎

はじまり

 目が覚めた。


 それはほんの先程のことにも感じる。ベットに倒れ込み、久しぶりに布団に包まれたこともあり、私は存分に眠れることに笑みを浮かべて、そして目を閉じたところまでは憶えている。

 しかしながら、今、私が於かれている状況は一体何なのだ。窓も照明もない粗末な造りの部屋は、いわば立方体の内側に閉じ込められているようなものだ。

 殊に私はその内壁に目を向けると、妙に緩やかなブロンズ像の表面みたいな凹凸が暗がりを艷やかにぬらぬらうごめいているようで不気味だった。

 この空間の壁や床の材質は金属だろうか、もしかすると岩なのだろうか、それを判断する為に必要な、明るみも正常な情緒や触覚も今の私には足りない。

 そういえば、思い返すと固い床の感触で不快感を感じたために私は目を覚ましたのだ。なるほど、こういう場所で寝ることで、初めてベットという家具の素晴らしさが分かる。いや、皮肉でなく。

 そのうち、頭が痛くなってきた。あんな場所で安眠などできまい。むしろその環境は安らぎより頭痛を引き起こした。脈打つごとに偏頭痛持ちである自分を責めたくなる。殺したくなる。それほどに、痛い。     

 私は時々こういう風な発作に悩まされる。だからいつも薬を常備している。しかし、今は少なくとも「いつも」とは言い難い状況だ。だからなのだろうか、常時ポケットにしのばせておいているはずの薬が無い。 


 奪われてしまったのだろう、誰にかは分からないが多分この部屋の所有者だろう。うん、違いない。


 私は自分でもなぜこんなに冷静で居られるのかと不思議に思った。刻む拍動のリズムが丁度心地よい塩梅なのかなと自分で決め込んだ。そう思ってしまえば全身で脈打つ痛みを許すことができた。

 そのうち発作は止まった。痛みももう無い。

 さてこれからどうしようかと、そんな頃だった。光源が無いのにも関わらず、視覚が僅かに機能するこの部屋を不思議に思った私は、何処から光が入って来ているのか確かめるため、探し始めた。

 こういう疑問点に気づき、実行に移した私は、意外にも初めて、理系で良かったなぁとしみじみ思った。が、私には理系としての素質がないのか、どれだけ探してもこの部屋には光源もおろか、光源となり得る光の漏れすら見つから無かった。私はまた、ヒカリゴケでも生えているのだろうかとも思ったが、この部屋には私以外の有機物は無さそうだった。

 しばらくの間、部屋を隈なく探したことによって暗さにますます目が慣れて、視界がはっきりしてきた。

 少し私は怖くなってきた。

 これは理系アピールでもなんでもないのだが、しばしばテレビで放送される根拠のなく理由もはっきりしない幽霊やUMAやポルターガイストなどの超常現象は、私は嘘だと思っている。

 でも今はその嘘と思われることが真に起こっている。何が何だか、頭の中はグチャグチャになる。


 その時、ふと気づく、お腹が空かないと。


 私はいよいよ怖くなってきた。

 これが現実逃避なのか、私はここが5億ボタンの世界ではないかと思った。いや、ボタンなぞ押した覚えは全く無いから絶対に違うはずだ。


 であれば………


 ……そう思うことにしてから急にすべての辻褄が合い始めた。追い打ちをかけるように私は気づく…


 ここはただの無機質な粗末な部屋ではない。だからといって5億年ボタンの世界でもない。化学的根拠や物理法則等諸々、それらの「いつも」が通用しない世界……。


 なぜか、私はおもむろに話しはじめた。


 ああ おもいだした 

きのう 薬を打って寝たんだっけ

この世から にげたくなったんだっけ

いや 違うな そうじゃない

敢えて この場所から 云うのであれば


 私は あの世から 逃げてきたんだ。





おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ