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三題噺

食欲の秋は言い訳になりません!

作者: 碧凪空

秋の三題噺をもうひとつ。


 ある日、家から帰ると、母が上機嫌に台所に立っていた。


「ただいまー。なんかいいことあったの、母さん?」

「あぁおかえり、遥香。うふふふふふ」


 にまにまと笑む母の不気味さに、思わず一歩下がる。


「実はね、お裾分けで栗を頂いたの。で、この間届いた新米があったでしょ?」

「あったね、おじいちゃんの新米」

「さて問題です。この二つが揃ったら作るものはなんでしょう?」


 あー、成る程ね。母のご機嫌な理由はそれか。


「栗ご飯か。母さん好物だもんね」

「うふふふふふふふふ」


 包丁持ったままスキップしそうな勢いの母。地に足がついてないとはこのことか。

 危ないなぁ。


「でもさぁ母さん、この間、健康診断の結果でちょっと危なかったって言ってなかったっけ」


 ピクッと一瞬震えたのち、母の動きが止まる。


「……でもほら、天高く馬肥ゆる秋っていうし、母さんが肥えても仕方ないと思わない?」

「これ以上数値悪くなったら薬で治療しましょうって言われたんじゃなかったっけ」


 母娘の無言の睨み合い。先に動いたのは母だった。


「でもね、もう貰ってきちゃったのよ」

「そうだね、栗ご飯もう準備しているんだもんね」

「だから、今日の夕飯は栗ご飯なのよ」

「うん、そこはもう変えられないよね」


 再び無言の攻防。そこに、第三勢力が現れた。


「ただいまー。おーい、梨買ってきたぞー」


 新たな甘味を携って帰ってきた父は、台所で睨み合っている私たちを見て戸惑いを浮かべた。


「なにやってるんだ、お前たち」


「あ、父さんおかえり。今日は栗ご飯だって」

「お、栗ご飯か。いいな、食後は梨で、旬の食べ物尽くしだな」

「うんそうだね、ところでさ」


 最近ちょっと出てきた父の腹にちらっと視線をやり、そしてにっこりと笑顔を向ける。


「父さんも、健康診断の結果危なかったよね?」


 父がすっと目を逸らす。


「わかるよ、旬の食べ物って美味しいもんね。つい食べたくなるよね。でもね?」


 両親の顔を交互に見れば、どちらとも視線が合わない。


「健康も大事だよね?」


   ***


 そして後日。

 日曜日の朝から、紅葉狩りと称して親子三人で山登りに出かけた。まぁ山登りと言っても、ある程度観光地化された行楽寄りの山だけど。

 SNSで見かけたんだけど、見頃らしいよ! と運動不足気味の両親を説得して連れてきたはいいものの。


「見ろ、遥香! きのこ蕎麦だって! ここの山で取れた新鮮な茸がたくさん入っていて美味しそうだな! お昼はここにするか!」

「見て、遥香! 朝採れたばかりのぶどうですって! 立派ねぇ。一房買って帰りましょう!」


 きょろきょろと周囲を見ながら父が、母が、反応するのは。


「もぅ〜〜〜! せっかく山に来たのに、食べ物ばっかり反応してたら意味ないでしょ〜〜っ!?」 

皆様にとって、〇〇の秋と言えばなんですか?

急に寒くなってきましたから、どうぞご自愛くださいませ。

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