3.警戒
「この部屋を使え。」
そう言って、妖精を踏まないように気を付けながら部屋にあんないする。まだ警戒心むき出しの妖精が安心できるように我が家で唯一の鍵付きの部屋だ。
妖精はキョロキョロして、無害だと理解したのか部屋に入る。そのまま即座に扉を閉めた。
(ちっ。せっかく世話してやってんのにさ……。妖精はしゃべれないけど、それなりの感謝の伝え方があるだろ。)
まあ、今まで妖精が人間から受けてきたことを考えれば当然だろう。自分や仲間を捕まえて、殺そうとした相手の種族を信じろと言われても無理な話だ。自分がその立場でも無理だと思う。
自分の部屋に戻って、本棚を荒らす。
「確か……この辺に……。あった!」
本棚から一冊の図鑑を取り出して、表面の埃を払う。埃のせいでかなり汚く見えたが、埃を払うとミントグリーンの綺麗な表紙が蛍光灯の光を受け鈍く光る。「妖精全書」と書かれた金色の文字がまだ裕福だったころの記憶を呼び覚ます。
(昔はあんなに気に入ってたのにな……。いつも持ち歩くくらい好きだった。)
1ページ目を開くと綺麗な妖精の写真や特性が細かく記録されていた。写真は相当の年月が経ってかなり色あせていたが、それでも写真の中の妖精たちは美しかった。
「あれ?」
とある矛盾に気が付くのにそんなに時間はかからなかった。