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握手

 戦火のランスで空を見上げる腕っぷしのいい刺青の大女がいる。賊長のイザベラである。

「それで、姫様を見つけたんだろうね?」

 高圧的に尋ねるイザベラに配下の男が首を振った。

「それが、どこを探しても見当たりません」

「お前、ちゃんと探したんだろうね」

「痛ててっ……や、やめて下さいお頭」

 イザベラに耳を引っ張り上げられて部下が悲鳴を上げていると、別の手下が走り込んで来た。

 アスタらしい人影が同年代の少年二人とともに飛行船の方に走り去っていくのを見かけた、という報告を受け、イザベラはその部下をキッと睨み聞いた。

「それはベルナルドの連中かい?」

「いや、どうも違うようです。皆、子供の様ですし」

「ほぉ」

 イザベラは、興味ありげな顔でうなずき、空を仰いだ。すでに上空では、煙幕の目眩し作戦で混乱していた軍の飛行船艦隊が統制を取り戻し、反撃に出つつある。

「潮時だ」

 イザベラは即座に命を下した。

「皆、撤退するよ。早くしな。それからお前」

 近くの配下をその腕っぷしでガシッと絡め取り、そっと耳打ちした。

「分かったかい」

「わ、分かりやした。ボス」

 配下の男は、うなずきイザベラのもとを下がっていき、それを見届けたイザベラはにんまり笑みを浮かべ自らの飛行船の元へと走って行った。


「ここまで逃げりゃ大丈夫だろう」

 戦火のランスを遠目に確認した後、フレディは甲板から操舵室に戻って来た。操舵輪はジャックが握っている。

「それで、一体どういう事だったんだ、お姫様?」

 フレディが操舵室の壁にもたれるアスタに聞いた。

「私をどうする気だ?」

「それは、聞いてから決める」

 ジト目のアスタにフレディは、答えた。アスタは、ふっとため息をつきふいに右袖をめくった。腕に刻印がある。

「私は、超古代文明の末裔なんだ」

「超古代文明の末裔?」

 思わず目を点にして聞き返すフレディとジャックに、アスタはこくりとうなずいた。


 超古代文明ーーその名をゼノという。ジャックとフレディが住む世界より遥かにすすんだその文明は一時、全盛を極めた。だが、あるとき発生した王家の跡目争いを機に幾つもに分裂し、争い、遂にはその力をもってしてこの世界を滅ぼすに至った。

 だが、争いを嫌いこの世界から逃れた一派があった。その一派は注意深くこの世界を見守り続けた。そして、ジャックやフレディ達が住うこの文明が自分達のゼノ文明を発見するに至り、この世界での活動を開始したのだった。


 アスタは、そこまで話し、一息ついた。ジャックとフレディは、そのあまりの突拍子もない話に絶句してしまっている。

「別に信じなくてもいい。だが事実だ」

 アスタは、二人を見ながら言った。

「まぁいい……」

 フレディが前髪をガシガシ掴みながら、聞いた。

「それで、その……ベルナルドだったな。なぜアスタはそいつに追われてるんだ?」

「あいつはこの星ごと乗っ取る気だ。そのためにこの星で戦争を起こさせた。この世界が疲弊した今が奴に取ってはチャンスなんだ。そのためにゼノ文明の皇女である私を利用する気なんだ。私はそれから逃れるためにこの星に逃げて来た」

「ふんふん……」

 フレディが腕組みをして考えている。

「ちょ、ちょっとフレディ。このトンデモ話、信じてるの?」

 ジャックが操舵輪を握りながらフレディに小声で耳打ちした。

「そんな事は、どうでもいいんだよ。要はいかにおいら達の事業に結びつくかだ。何てったっておいら達はカンパニーなんだからな」

 フレディは、アスタに振り向いて聞いた。

「で、そのゼノ文明の奴らは、今、どこにいるんだ?」

「それは……言えない」

「なら、そこと交渉する事は出来るか?」

「交渉?」

「要するに貿易だよ」

 そこで初めてアスタが笑い、フレディに向かって答えた。

「分かったよ」

「決まりだ。俺達はアスタを守る。そのかわりそのゼノ文明と貿易をさせてくれ」

 そう畳み掛けるフレディにアスタはうなずいた。

「よし、交渉成立だ」

 苦笑するジャックを横目にフレディはすかさず手を差し出し、アスタと固い握手を結んだ。

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