日常
ジャック&フレディの日常が戻って来た。帳簿を見たフレディが頭を抱えている。
「すっかり資金が底をついちまったな」
「仕方無いよ。フレディの救出にほとんど注ぎ込んだからね」
苦笑するジャックにフレディは、溜息で返した。
「あぁ、イザベラにも口やかましく言われてるよ。倍にして返せってな」
「フフ、難題山積だね」
そう語る二人に、だが悲壮感は無かった。色々あった末に戻って来たフレディとジャックの絆は、以前より増している。失ったものも多かったが、それは幾らでも取り返せるモノばかりだった。
そんな中、アスタは、じっと二人を見ている。自分が担うゼノ文明をいよいよ本格的に託せるかどうかについて考えているのだ。
アスタは時々、二人を羨ましく感じるときがある。何においてもゼノ文明の伝統に束縛される自分と異なり、二人には基本的にお手本となる前例が無い。
ゆえに発想が常に自由で、面白いと感じた着想はすぐ取り入れる果敢な性格を持っているのだ。
アスタは、行き着くところ、ゼノ文明を託せるか否かは、能力の優劣ではなく性格だと見ている。それも文明の段階によって求められる性格も異なり、それぞれの段階にあった性格が、その時代を切り開いていくのだと。
そういう意味では、超古代文明が発見された初期では、この未知の文明を個人がその冒険精神で持ってして掴み取り出来た時代と言えた。対して軍が独占を敷いたこの今の時代は組織的な力が必要とされる時代と言える。
二人は、丁度、その中間的な性格を持っているのである。個人としての身軽さを持ちながら、賊のイザベラと通じ、財界にラトニア商会というパイプを持ち、軍の内通者とギブアンドテイクな関係を築きながら、集団で仲間を形成し事を成していく。そこに硬直化し、滅亡に至ったゼノ文明の真髄を再生させる鍵があると見ていた。
ーーフレディも戻って来た。今こそ……
そんな事を考えているアスタに気付いたジャックが尋ねた。
「どうしたんだい、アスタ?」
アスタは二人に神妙に切り出した。
「二人とも、いいかい?」
今の二人なら出来る筈だーーそう見込んだアスタは、言った。
「これからゼノ文明の真髄とも言える場所を二人に案内する」
「真髄?」
聞き返すジャックにアスタは、言った。
「今まで誰にも見せた事のない場所だよ」
それを聞いたフレディが尋ねた。
「いいけど、そこに行って何をしたらいいんだ?」
「それは、行ってから指示する。とにかくただついて来てくれさえすればいい」
真剣な表情で話すアスタに二人は、顔を見合わせた。よほどの事がある様だ。やがて、二人はうなずいた。
「いいよ」
「アスタが行く場所なら、おいら達はどこにでも行くよ」
そう答える二人にアスタもうなずいた。
その夜、二人は飛行船を出し、アスタの指示する座標へと向かった。
「まさか夜に出るとはね」
驚くジャックにアスタは、うなずいた。
「万が一にでも見つかる恐れがあるからね。我慢してくれ」
アスタはいつになく慎重だった。月明かりに照らされながら、ゆっくり進む飛行船の中でもじっと黙っている。その雰囲気に押されて二人も自然と黙りこくっていた。
やがて、目標の座標に着いたところでフレディは舵を片手にアスタを見た。
「アスタ、そろそろ目標上空だ」
アスタはうなずき、コツコツと飛行船の甲板に歩み出て夜空を仰いだ。そして、ジャックとフレディが見守る中、何やら祈る様な仕草をした。
それから間もなくした後、三人が乗る飛行船の前に音もなく異世界への裂け目が開いた。
「異世界か……」
二人が見つめ続ける中、アスタが甲板から振り返り、目配せした。
それを受けフレディは、舵をその裂け目へと舵を切り、やがて飛行船は光に包まれて異世界へと吸い込まれて行った。




