デッドヒート
レオンはイザベラを相手にしながら、苛立ちを募らせた。流石に賊は皆、手練れ揃いだった。押せば引き引けば押すという消耗線に付き合わされ無駄に時間を浪費した。
さらに軍への協力の要請を何かを理由をつけて跳ね除けるラトニア商会に対しても怒りは頂点に達した。
「フレディは捕まえたか?」
盛んに確認するものの、まだ報告は届かない。
「どうしたレオン、たかがガキ一人ではないか」
そう呑気に構えるベルナルドにレオンは、顔色を変えた。
「閣下、あのフレディをジャックとアスタの下へ走らせてはなりません。奴らはいずれ閣下の災いとなります」
そう言いながらもどうしようもない状況にレオンは、憤り続けた。
ーーこうなったら、デューリオの傭兵部隊に任せるしかない……
そう達観するしかなかった。
フレディが最後の一歩まで脱出ルートを進めていたとき、デューリオの傭兵部隊の隊長チェスターは現地の情報を総合し、独自の勘でフレディとジャックの待ち合わせ場所を推定した。
「賊の行動が欺瞞だとして、ラトニア商会の勢力下へ脱出しようとするなら、俺ならここにする」
地図のある地点を指し示すザックスに周りの部下もうなずいた。チェスターは畳みかけた。
「いいか、フレディは必ずここを通る。そこで罠を張る。待ち伏せだ」
チェスターは役割を分担し、部隊を配置につかせ網を張った。
「あと一歩だ」
フレディは、地図を片手に脱出ルートを辿り、最後の街へ入った。そこは不思議と検問がなかった。
「助かる……」
フレディは、ほっと一息つきながら街通りを歩いていくと何やら住民の様子がおかしい。何かを警戒し逃避するかのような仕草にフレディの勘がピンと働いた。
ーーマズい。これは罠だ。
すぐさまフレディは、路地裏へと走った。そのフレディの異変に気付いたチェスターの部隊が一斉に動き始めた。自らを追う部隊を確認したフレディは、舌打ちした。
ーーくそっ、よりによってアイツらか……
フレディは、その部隊を知っている。自らが組織した傭兵部隊だからだ。フレディはひたすらに走った。かつて、フレディの指示でジャックとアスタを追い込んだ部隊が今度は、フレディ自身を追い込み始めているのである。その皮肉をフレディは鼻で笑った。
「逃げたぞ」
チェスターは、フレディを追った。
「発砲を許可する。なんとしても食い止めろ」
かつて、自分達を組織したフレディを追い詰めるべくチェスター達傭兵部隊は走っている。散発的に数人が発砲し、その騒ぎを聞きつけた街は大混乱となった。
フレディは市場へと向かった。丁度、街で祭りが行われている最中だった。敢えて人混みに飛び込み中をぶつかりながら進んでいくフレディにチェスター達は毒気付きながら、そのあとを追って行った。
街での騒ぎは、たちまちフレディとジャックの待ち合わせ場所であるラトニア商会の支店にも耳に入った。
「フレディが!?」
情報を聞きつけたアスタがジャックを見る中、ジャックはすぐさま地図を取り出した。フレディの考えることは、常に行動を共にしてきたジャックには誰よりも分かる。
ーーこの騒ぎは、おそらく軍の待ち伏せにあったんだろう。とするならば、フレディは……
「アスタ、行こう」
ジャックは、アスタを連れてすぐさま走った。
「ジャック、どこへいくの?」
尋ねるアスタにジャックは答えた。
「駐機場、飛行船だ」
ジャックはいざというときのためにフレディとともに発掘したあの飛行船を持って来ている。いまこそそれを飛ばそうと考えていた。
街の中では、フレディとチェスターの傭兵部隊の追いかけっこがデッドヒートを迎えていた。
ーーやっぱり、アイツらは優秀だ。
今更ながらにフレディは、自ら組織した傭兵部隊の実力をその身を持って知った。次第に包囲されていく中、万事休すとなったフレディは、ふと空を飛ぶ見知った飛行船を見た。
「あれは!?」
そこにあったのは、フレディがジャックとともに発掘し、ともにジャック&フレディの事業を拡大し続けてきたときのあの飛行船だった。そこに乗る見知った人影にフレディは叫んだ。
「ジャック、アスタ!」
すぐさまフレディは、頭を切り替えた。
「上だ。もっと高い場所に」
階段を上り建物を登るや屋根伝いに街の高台へと走って行った。
フレディの突如変わった行動にチェスターは、ほくそ笑んだ。
「袋の鼠も遂に混乱したか」
高台に追い詰められば、後は逃げ場所はどこにもない。チェスターは部下に命じた。
「焦るな。じっくり追い詰めていくのだ」
事実、その通りになった。高台まで来たフレディには、逃げ場所はなかった。空以外には。そこでチェスター達は我が目を疑うことになる。
高台に飛行船がありえない位置まで降りて来たのだ。
「しまった。一味だ」
すぐさまチェスターは、部下に命じた。
「いいから撃ち落とせ」
ジャックが乗る飛行船は、たちまちチェスター達の銃撃に阻まれた。こうなれば、強硬手段を取るしかない。
「アスタ、ロープを下ろすんだ」
叫ぶジャックにアスタはうなずき甲板からロープをフレディの高台に投げ入れた。だが、風で思うようにフレディの手元に行かない。
「もう時間がない」
見るとチェスター達が高台へと登ってきていた。ジャックは舵を巧みにさばきながら叫んだ。
「フレディ、飛べ!」
その声は、確かにフレディの耳に入った。これが最後とばかりに近寄った飛行船が垂らすロープにフレディは、意を決して飛び込んだ。そして、垂れ下がるロープをガシッと掴んだ。
「しまった……」
チェスター達は、目の前で取り逃したフレディが飛行船に乗って逃げていくのを力なく見届けた。部下達が盛んに銃撃を加え続けるもののチェスターには、その結果がはっきりと見えていた。
「自分達は負けたのだ……」
遠くへと去っていくフレディ達をチェスターは、ただ見送り続けた。
◆
「ジャック」
ラトニア商会の保護の下、カルロの手引きを受け、フレディは目の前のジャックに手を差し伸べた。
「ジャックのお陰でおいらも目が覚めたよ。助けてくれて有難う」
だが、ジャックはその手を見つめたまま黙っている。見るとジャックの目に涙が浮かんでいた。そして、ジャックはずっと気に留め続けていた事を口にした。
「フレディ、僕、あのとき……フレディの故郷を見捨てたんだ……」
「ジャック……」
やがて、嗚咽しながらジャックは、フレディに頭を下げた。
「本当にゴメン……」
肩を震わせて涙を流すジャックにフレディも遂に我慢が出来なくなった。
「ジャック、いいんだ。分かってる。全部、分かってるから……」
フレディは、躊躇し続けるジャックの手を強引に取った。
「おいらが悪いんだ。あれは仕方がなかった。でもおいらはそれを認められなかった」
フレディは続けた。
「けど、もういいんだ。だってそうだろう。おいら達はゼノ文明の真実を追求するジャック&フレディなんだからさ」
それは、ジャック&フレディが再始動した瞬間だった。




