脱出
やがて、夜が明け、フレディが軍の牢を脱出した報告を受けたレオンは、顔色を変えた。
「いつの事だ?」
「はっ、昨夜です」
「監守をクビにしろ!」
そう言い放ち、自ら立ち上がった。レオンは考えている。
ーーあまりに手際が良すぎている。
恐らく内々に手引きした内通者がいることを察し、レオンは言った。
「私が直々に指揮を取る。検問を強化し、辺り一帯を封鎖しろ」
そして、部屋を足早に出て行った。
その頃、イザベラは自らの飛行船団全てに出撃命令を出していた。ただ一人、フレディを脱出させるためだけの欺瞞作戦である。
「やれやれ、最近の若いものは人使いが荒いよ」
イザベラは、愚痴っている。その割には、表情はまんざらでもなさそうだ。
「ジャック、これは貸しだよ」
イザベラは、ほくそ笑みつつ自らの飛行船に乗り込み、近くにいたラウリとクスティに命じた。
「お前達、暴れるよ」
自らの部下の尻を叩きながら、イザベラは飛び立って行った。
「イザベラが、このタイミングで!?」
イザベラ出撃の報告を受けたレオンは、苦虫を噛み殺したような表情で憤った。ベルナルドからすぐさま討伐に向かうよう指示が出ている。
あのベルナルドのことだ。イザベラが相手となると言う事を聞かなくなることをレオンは知っていただけに苛立った。さらにそれだけでは無かった。軍の飛行船がラトニア商会の飛行船の妨害に遭っているというのだ。
フレディが脱走したのと歩調を合わせる様なこの動きに、そのフレディの追跡を片手間にならざるを得なくなった。
「まぁいい……」
レオンは、フレディの追跡にデューリオの傭兵部隊をあてることにした。
「自分が組織した部隊に追われるとは、皮肉なものだな……」
レオンは、ニヤリと陰湿な笑みを浮かべた。
「果たしてこの包囲網を突破出来るかどうか……」
アレックスがフレディを連れて峠に着いたのは昼過ぎのことだ。
「フレディ、俺が出来るのは、ここまでだ」
そう言うアレックスにフレディは、頭を下げた。
「あぁ、助かったよ。アレックスさん」
フレディはアレックスから食料と金貨と地図が入った鞄を受け取った。
「この先に軍の砦がある。警戒が厳重だろうから昼間は避けるんだ。そこを下れば検問が待っている。それさえ抜ければ、あとはラトニア商会の敷地だ。合流地点は分かってるな」
「もちろんです」
アレックスは、フレディに手を差し出し、その手をフレディは小さく笑ってパンっと軽く叩いた。
「健闘を祈る」
そう言って見送るアレックスにフレディは、うなずき去って行った。
フレディはひたすら地図を片手に脱出路を辿っていった。やがて、アレックスの言っていた軍が張る検問が目の前に現れた。その前には、長い行列が出来ている。
「こいつで行けるかどうか……」
フレディの手には偽造された身分証明書がある。間に合わせ程度でアレックスから渡されたものだ。
「何とかうまく通れるように工夫して、確率をあげないと……」
そう思いつつ、フレディは一つ前で待つ赤子連れを抱きかかえた親を見てピンと策を閃いた。
ーー試しにやってみるか……
フレディは、密かに意を決し、なんでも無い風を装った。やがて、その赤子連れの親の番になったときだ。
ーーゴメンよ……
フレディは、片目をつぶってその親が肩に下げる赤子の尻を思いっきり捻った。
「オギャーっ……!」
たちまちその赤子は大声を上げて泣き始めた。ただでさえ長い行列に皆が困っているときに、慌てて親は迷惑を掛けないように軍の検問を前にあやしに入り、その皆の目が赤子に向いたのを見て、フレディは、さっと自身の身分証明書を検問に差し出した。
軍の検問は、その身分証明書を大して確認もせず判を押し、フレディを通すやその親子連れにかかりっきりとなった。
ーー本当にゴメンよ……
フレディは、心の中でその親子に謝りながら、その検問を去って行った。フレディの脱走劇は万事、この調子であった。
機を見るに敏で周りの者を巧みに利用しては、己の思うがままにしていくーーそれでいて本人は実にケロリとしているのだ。お調子者ではあるものの、それを陽気に感じさせる明るさがフレディにはあった。
こうして、フレディは着々と軍の検問を突破して行き、合流地点まであと一歩まで迫ることとなった。




