ゼネス
この時期、ジャックはフレディと立ち上げたジャック&フレディを『ゼネス』という名に変えている。ジャックの母国の隠語で『真実』を指す言葉である。
だが、状況は必ずしも芳しくなかった。全てにおいてジャックのゼネスはフレディのデューリオに押され、太刀打ちできないところまで来ていた。それほどにデューリオの爆発力のある成長は、凄まじかった。
フレディには、敵わないーー相手が一枚も二枚も上手である事をジャックは、今更ながら認めざるを得なかった。考えてみれば、ジャック&フレディのときも要所要所での重要な局面で光っていたのは、フレディの判断だった。ジャックには、フレディが持つような機略の才は、無かった。
そんなフレディの力を知っているからこそ、ジャックの判断は早かった。
「ここも危ない」
アジトを撤収するジャックは、アスタを連れて難を逃れるべく脱出した。
デューリオの傭兵は、ジャックのアジトに踏み込み、間一髪でジャックとアスタを逃した事に地団駄を踏んだ。
「フフッ、ジャックらしい慎重さだな」
背後からフレディが現れ、小さく笑った。
やがて、フレディはかつての旧友の性格が滲み出たアジト内部を見渡しながら、自らの傭兵部隊に命じた。
「一旦、引こう」
「し、しかし、まだ遠くへは行ってませんよ」
「いいんだ。じっくり、ジワジワと真綿で首を絞める様に追い詰める。どうせ次に行く場所の見当も付いてるしね」
まるで狩りでもするかの如く楽しんでる風でもあるフレディに傭兵部隊は、口をつぐんだ。
アジトを撤収したジャックは、アスタを連れて逃げている。
「アスタ、大丈夫かい?」
「えぇ」
アスタは気丈にうなずいた。ゼネスの体制を立て直すべく、今は逃げるしかなかった。
「この先でイザベラおばさんと落ち合うことになってる」
ジャックは、アスタにそう説明し、周囲を伺った。だがその待ち合わせ場所まで行ったジャックとアスタは、首を傾げた。
「イザベラおばさんがいない……」
いつまで経っても現れないイザベラにジャックが異変を感じた。そのとき、ジャックは遠目に自らに迫る傭兵部隊の存在に気付いた。
「マズい。罠だ」
ジャックは、舌打ちした。
「アスタ、逃げよう」
アスタの手を取り、包囲網を突破すべく走り出した。だが敢えて焦らずじっくり追い詰める執拗で徹底したデューリオの傭兵の追跡を前に二人は、次第に疲労困憊になって行った。
街は、至るところ軍の取締りで見張られている。何もかもが手詰まりになったジャックは、地下に潜みながら鞄から残りわずかとなった食料を取り出した。
「アスタ」
ジャックは、アスタと最後の食料を二人で分け合った。空腹を堪え夜を凌ぎながら、ジャックはその惨めさを耐え忍んだ。
だが、到底この先の展望は見渡せそうにない。
「もはや、これまでか……」
いよいよジャックが覚悟を決めていたときだった。異変が起きた。あれだけ執拗にジャックとアスタを追い詰めていたフレディ達が忽然と消えたのだ。
「一体、どういう事だ?」
あまりの出来事にジャックは、戸惑うしかなかった。
このとき、つまりフレディが事業の成功もアスタのゼノ文明が持つ力も全て手中に収めかけていたとき、フレディの身に大変なことが起こっていた。
「キニシスの異世界鉱脈が次々と姿を消し始めた?」
その報告を受けた当初、フレディは、訳が分からなかった。
「どうなってるんだ」
そればかりか異世界に採掘に送り出した飛行船が次々に戻って来なくなったのだ。フレディは、頭を抱えるしかなかった。
もはやジャックとアスタの追跡どころではなくなったフレディは、部隊を撤収させ、この異常事態に全身全霊をかけて取り組んだ。
結論から言えば、フレディは急ぎすぎ、あまりに異世界の発掘を急拡大させた為、そのバランスが崩れたのだ。ゼノ文明について、所詮は付け焼き刃的な知識しか持たないフレディの限界だった。




