旅路
「よし、こんなもんだろ」
二人は飛行船にオクトルを詰め込めるだけ詰め込むとアスタを手招きした。
「船内は狭いし、道中どうなるか分からないけど、勘弁してくれ」
そう話すフレディにアスタは、構わないと手短に告げた。
「じゃぁ、行こうか」
「あぁ」
二人は、アスタを乗せ、西の都ランスへと飛行船を飛ばし始めた。幸先の良さにフレディが操舵輪を握りながら、気分よく鼻歌を歌っている。
ジャックは、そっと操舵室の端で何も言わずにじっと窓の外を眺めているアスタに近寄ると声をかけた。
「気分は、大丈夫?」
アスタは、目だけジャックの方を向けると答えた。
「あぁ、乗り物は平気だ」
やがて、アスタは飛行船の中をぐるりと見渡し、ジャックに聞いた。
「この飛行船は、お前らが作ったのか?」
「あぁ、この船?。発掘したんだ。超古代文明の遺跡からね」
「超古代文明……か」
アスタは、そう呟き、口を閉じた。
超古代文明が発見されたのは、十数年前の頃だ。発見されるや否や人はそれを我がモノにせんと争った。
戦争が起き、賊が蔓延り、やがて、すべてに疲れ果てた今の様な時代が生まれた。ジャックの両親も時代の犠牲になった。
「でも戦争も一段落したしね。どんな時代が来ても人は生きていく。そのための物資がいる。僕達は、それに乗っかってこの飛行船で一気に事業を拡大する気だよ」
「そうか。異国語は、話せるのか?」
「うん、幾つかね」
明るく話すジャックにアスタは表情を和らげた。その後、この地域一帯の物流事情や物価、市場に出回っているモノの取引価格の話題をした後、ふとジャックは気になっていたことを聞いた。
「ねぇアスタ、さっきあの店でオクトルの交渉をしていたとき、話していたのは超古代文明語だよね。君は喋れるの?」
途端にアスタはキツい目をジャックに向け、思わずジャックはたじろいた。やがて、アスタは目を外にもどし言った。
「お前達は、何も知らなくていい」
それ以上、何も話さなくなったアスタにジャックは、不審に思いつつ、話を切り上げた。
やがて、西の都ランスまで半分の距離まで来たときだった。ジャックが雲の中から現れる影にはっと息を飲み叫んだ。
「フレディ!」
操舵輪を握るフレディが、ジャックの指差す方向を見てかっと目を見開いた。
「マズい。軍の飛行艦船だ」
フレディは、慌てて舵を切った。船内がグイッと傾き、物が滑っていく。
思わずよろけるアスタをジャックは押さえ、船内にびっしり積んだオクトルを見た。
「船はオクトルで一杯だ。見つかったらヤバいよ。逃げようにも積載量いっぱいでスピードも出ない」
「あぁ、特にこのオンボロじゃあな。とにかく雲の中へ」
フレディは、飛行船を雲の中に隠して、やり過ごすことにした。やがて、軍の飛行艦船は辺りを周回し始めた。
その壮々たる外観にジャックとフレディは息を飲み、声を殺しながらじっくり観察した。
その特徴から東の軍の艦船だと見抜いた。
「ジャック、ゼーレの旗だ」
「分かった」
意を察したジャックがうなずき甲板へ走った。軍は内部に幾つかの派閥を持っており、とくに東部の軍は派閥争いでゼーレの都市の援助を受けれるかどうか微妙な時期に来ている情報を二人は耳に仕入れていた。
多少怪しくても見逃すだろうと期待しての措置だった。
ジャックは、箱からゼーレの旗をひったくるとマストに上り、旗を掛け替えた。やがて、甲板から戻って来たジャックにフレディが言った。
「高度を落とそう」
「え、でもフレディ。この辺りは賊が」
「仕方がない」
上には軍、下には賊ーーその驚異に挟まれ、フレディは苦しそうに高度を下げつつ地表に目を凝らした。
何かが地表で光った。とその直後、飛行船の近辺で爆発が起きた。
「マズい、賊だ」
たちまちジャックとフレディとアスタが乗る飛行船の周囲が弾幕でいっぱいになり、その衝撃で船内が揺れた。
そのうちの一発が船体を貫き、機関が火を吹き始めた。
「火災だ」
慌ててジャックが機関室に走り、火を消し止めるや破損した箇所をその場で修理し始めた。
「マズいぞ」
エンジンを破損し、ぐんぐん飛行船の高度が落ちる中、フレディは、弾幕を張られた周囲に目を凝らし、不時着先を探した。
「フレディ、あそこ!」
アスタが地表に出来た峡谷の割れ目を指さし叫んだ。
「よし、あの峡谷に一旦、不時着して船を隠そう」
フレディはすぐさま舵を切った。




