緊急事態
ラトニア商会でカルロは、追い詰められていた。これまでジャック&フレディを経由していた情報がことごとく裏目に出始めたのである。
「カルロ、これは異常事態だ」
そう話すカーティスにカルロは顔をしかめた。
「一体、どうなっているんだ」
明らかに軍の息の掛かった社員による造反が相次ぎ、突き上げを食らっていたのだ。やがて、その真相が目の前に現れる形で明らかになった。
「フレディ!」
軍の取り巻きを引き連れ使いに現れたフレディにカルロは、言葉を失った。
「そう言う事なんですよ。カルロさん」
フレディは、小さく笑いながら続けた。
「これ以上の抵抗は、無意味です。今ならおいらの力でカルロさんの便宜を図ります。だから、軍門に下って下さい」
「ふざけるな!。フレディ、君はジャックと一緒に軍の横暴に立ち向かい超古代文明の真実を追求する結社としてやっていたんじゃなかったのか!?」
思わず立ち上がって怒鳴るカルロにフレディは、言った。
「カルロさん、超古代文明はカルロさんの手に終えるものじゃないんですよ。軍の横暴も時にはやむを得ない。それと……」
何を言うのかとカルロが固唾を飲んでいると、フレディは手短に言った。
「ジャックは、もうこの世にいません」
「この世に……いないだと?」
鸚鵡返しするカルロにフレディは、吐き捨てるように言った。
「あいつは僕を、そして、僕の故郷を売った。だから僕も……」
そこでカルロは頭が真っ白になった。気がついたときには、フレディを思いっきりぶん殴っていた。
たちまち軍の取り巻きがカルロを取り押さえ、だが、それをフレディが手で制した。
カルロは、床にひっくり返るフレディをわなわなと怒りに震えながら、見下ろし言った。
「フレディ……君には、失望した」
そんなカルロにフレディは、頬を押さえもせずよろよろと立ち上がった。
「カルロさん、これまでお世話になった手前、今のは忘れます。今日のところはこれで帰ります。だから、今一度冷静になって考え直して下さい」
そうフレディは言い残し、去って行った。
「なんて事だ……フレディがジャックを裏切った。しかもジャックは……」
カルロは、異常事態を前に頭を抱えた。
そこへカーティスがやって来た。
「カルロ、軍からの通達だ」
カーティスは、紙をポンと机に置いた。
「キニシスには今後、一切手を出すな、との事だ」
無念さを滲ませるカーティスにカルロは、呆然と宙を仰いだ。
「万事休す、か」
社を出て帰りの途上でカルロは、重い足取りで街を歩いた。
ーーもはや、ここまでか……
そう覚悟したとき、ふと声がかかった。「カルロさん」
その聞き覚えのある声にカルロは、振り返り思わず声を上げた。
「ジャックじゃないか!」
人差し指を立て静粛を促すジャックにカルロは、慌てて口を手で押さえ辺りを見渡し、誰もいない事を確認してジャックに言った。
「ジャック、生きていたのか」
「えぇ、どうにか」
ジャックは、微笑みながら尋ねた。
「カルロさん、そっちの様子はどうですか?」
カルロは、溜息をついた。
「正直、ギリギリだ。軍の介入は目に余る。キニシスも取り押さえられたしね」
「カルロさん、頼みがあるんです。僕が生きている事は内密にして下さい。それとこれを」
ジャックは、鞄から密かに資料を取り出しカルロに渡した。
「これは……」
資料に目を走らせたカルロは、しばし言葉を失った。
「つまり、これは軍の新たな内通者からラトニア商会に宛てられたメッセージと取っていいんだな」
「えぇ」
「信用出来るのか?」
「僕がまとめます」
「ジャック、下手したら利用されて終わりだぞ」
「覚悟の上です。ただ、今のところギブアンドテイクで利害は一致しています」
カルロは、ジャックの真剣な瞳に納得した。
「分かった。それでジャック、君はこれからどうするつもりなんだ?」
尋ねるカルロにジャックは、言った。
「昔の友達と対決して来ます」
じっと見つめて来るそのジャックの瞳には、決意がこもっていた。カルロが何も言えずにいるとジャックは、静かに微笑み言った。
「じゃあ行きます。カルロさんもご無事で」
「あぁ……ジャックもな」
見送るカルロにジャックは、頭を下げてラウリとクスティを引き連れ去って行った。




