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ベン

 ジャックとカルロは、人気のない郊外で偶然を装いベンチに腰掛けた。

「故郷の事は聞いている。気の毒に思うよ」

 周囲を気遣いながら切り出すカルロにジャックがうなずき聞き返した。

「それで、軍の内通者は大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。今のところ摘発は逃れている。安心してくれ」

「抗体は、どんな感じですか?」

「カーティスが研究所に缶詰めでやってる。軌道に乗りつつあるよ。軍の横暴は許さないからな」

 それを聞いたジャックは、ほっと溜息をついた。

「カルロさん。何か必要なものがあったら言って下さい。うちで何でも手配しますので」

「あぁ、そうさせてもらうよジャック」

 そこで話を切り上げ、立ち上がったジャックにカルロが言った。

「ジャック、いいニュースがある」

 警戒を解かないジャックにカルロは、つづけた。

「フレディの容態が快方に向かっている」

 その事実にジャックは、思わず目を見開いた。

「まだ詳しい事は何とも言えないが、おそらく今週中には退院出来るだろうって事だ」

 ふとカルロは、うつむいているジャックを見た。目が光っている。

「泣いてるのかい?」

 ジャックは黙ったままうなずいた。嬉しさと同時に懺悔の念が起こった。

「僕、フレディに謝らないと……故郷の事」

 ぽつりぽつり話し始めるジャックの肩をカルロは、ポンと叩いた。

「大丈夫だよ。きっと彼も分かってくれるよ」

 それを聞いたジャックは、再び黙ってうなずいた。


「小賢しい鼠め」

 レオンは、なかなか姿を見せない内通者に苦々しく顔をしかめた。幾つかの目星はつけ、餌を撒いて誘き出そうとはしているものの、なかなか尻尾を現さないのだ。

「まぁいい、そのうち炙り出してやる。それにしても……」

 レオンは、フッと笑みを浮かべた。

「お姫様も結構な連れをお見つけになったもんだ」

 レオンの眼差しの先には、軍とゼノ文明の真実に挑むべく、軍に内通者を得て、ラトニア商会と賊を交え、暗躍しているジャック&フレディの存在がある。

「子供と侮っていたが……」

 レオンは、ほくそ笑み、やがて部下に命じた。

「ベンを呼べ」

 しばらくして部屋に見るからに胡散臭そうな男がやって来た。

「お呼びですか?。旦那」

 ベンと呼ばれるその男は、ニヤついた顔でレオンを見た。

「ベン、依頼だ。こいつらについて調べてくれ」

 レオンが手渡すメモにベンは目を走らせた。

「ジャック&フレディ?」

「あぁ、最近地下に潜ったらしい。全く姿を現さなくなった」

「ほう」

 ベンは何か言いたそうである。それを察したレオンが言った。

「報酬はこれだ」

 ベンは、レオンが提示した金額にうなずいた。

「へへ……随分と気前がいいんですねぇ」

「ふん、期待している」

「わかりやしたよ、旦那」

 ベンは、ニヤリと笑いレオンの部屋を去って行った。


「ジャック&フレディねぇ」

 ベンは、この名前を知っている。噂では、キニシスで一財を成し、それを元手に軍が牛耳る世界に一石投じようとしている子供が運営しているという。

 早速、そのジャック&フレディを追うべく事務所とめぼしき場所を片っ端から当たり始めた。だが、次第に作業は、難航し始めた。

 ジャック&フレディに繋がる手掛かりをしらみつぶしに調べて行くものの、そのことごとくがダミーなのだ。

「ここもか……」

 誰もおらずもぬけの空の部屋でベンは、溜息をついた。

 確かな居場所すら掴めず、組織の正体は未だ不透明。その尻尾すら掴ませない徹底した隠蔽ぶりにベンは、舌を巻くしかなかった。

「これは、旦那に叱られるな」

 だが、ベンはジャック&フレディを調べていくうちにある情報に行き当たった。

「これは……」

 一応、その真贋を確認すべく、ジャック&フレディと関わりが噂されるラトニア商会を尋ねる事にした。


「ほう、探偵さん」

 カルロは、目の前に現れたベンをいぶかしそうに見た。

「カルロさん、あなたは社内闘争に打ち勝ち、今やラトニア商会で隠然たる力をお持ちだ。そのキッカケは鉱石業界に革命を起こしたキニシスですね」

「さぁ、どうでしょう」

 カルロは、注意深くベンを観察しながら椅子に深く腰掛けた。

「それで、私に何か?」

 ベンは、単刀直入に切り出した。

「ジャック&フレディをご存じでしょう」

 カルロは、首を振った。

「詳しくは、存じませんが。それが何か?」

「いや、大したことではありません。ちょっと気になったものでね」

 ベンは、眼光鋭いカルロをはぐらかし、勿体ぶるように雑談に戻った。その後もとりとめない会話を続けるベンにカルロは、その話ぶりから察した。

 どうやら何か核心的な事実を掴んでいるらしい、と。そんなカルロにベンは、言った。

「そのジャック&フレディの創設コンビの一人が、ラトニア商会が運営する病院に隔離されているという情報は、事実ですか?」

 カルロは、一瞬、目を光らせた。だが、その質問に答えたのはベンの方だった。

「いや、まぁデマでしょうな。フフ……」

 ベンは、カルロの眼差しを眺めつつ、意味深にほくそ笑むや立ち上がった。

「や、カルロさん、今日のところはこの辺で失礼しますよ」

 そのままベンは、カルロの元を去って行った。


 その数日後の事だった。フレディのいる隔離病棟が突如、軍によって接収された。

「フレディの病院が!?」

 その事実を知ったジャックは、真っ青になった。

「それでフレディは」

 情報によるとフレディはそのまま軍に連行されていったという。あまりに突然の事にカルロもなす術がなかったとの事だった。

「フレディ……」

 ジャックは、言葉を失った。今やフレディは、居場所はおろか、その生死すらも全く把握できなくなったのである。顔色を変えてその場にヘナヘナと崩れて落ちた。

「ジャック……」

 アスタは、ジャックにかける言葉が見つからなかった。

「フレディ、御免……僕は君を守れなかった」

 気遣うアスタの横でジャックは、声を殺して嗚咽した。

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