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ある決断

 レオンは、ラトニア商会を中心とした民間の病原菌への想像以上の対応の速さに懸念を抱いた。軍に内通者がいるーーそう睨み、密かに締め上げを開始した。

 その捜査線上に鉱石研究局のブライアンの名が上がったのは、まもなくの事だった。

「疑われている……」

 そう言った空気を肌で察知する能力に長けているブライアンは、俄然、慎重になった。

 だが、悪いことばかりではなかった。流石に今回のような強引なやり方にその真相を知る者が少なからず増えてきていることをブライアンは知っていたのだ。

 そう言った仲間達と密かに連絡を取り合っていたブライアンは、機を伺うべく頃合を待つことにした。


 ジャックの元に入るブライアンからの情報が途切れ途切れになった。ジャックは少年兵の頃、暗号を取り扱っていた感覚から察した。

「防諜が入ってる」

 そうである以上、こちらも慎重にならざるを得なかった。

 そんなとき、そのとんでもない情報が入った。軍がある地域への摘発を兼ね、その一帯を空爆するというのだ。そこは、何であろう、ジャックとフレディの生まれ故郷だった。

 ーーこれは、皆に知らせるべきだ。

 そのごく自然な感情に対して、理性が警告を発した。

 ーーいや、これは罠だ。おそらくこの空爆には、軍内部の内通者を炙り出し、反乱分子を一斉摘発する思惑がある。

 今、イザベラにこの情報を知らせれば、直ちに軍を強襲し、空爆を阻止してくれるだろう。だが、ジャックがそう言った対策を取れば、そこから遡って貴重な情報源であるブライアンを失うことになるのだ。

 それは、ジャック&フレディの活動の諜報部門の死を意味した。ジャック&フレディの今後を占うこれ以上はない二者択一に迫られたジャックは、頭を抱えて悩んだ。

 故郷は、ジャックがフレディとともに少年兵時代に守り抜いた町がある。なによりフレディが一番にその町を愛し、キニシスで成功して以降も送金を欠かしていなかった。

 フレディがいない間に、そのフレディの感情を踏みにじる行為を取ることは、ジャックには出来なかった。

「ジャック、どうしたの?」

 ふとジャックが振り返ると、不審に思ったアスタが部屋に入って来てジャックを心配そうに見ていた。

「アスタ、実は……」

 そこまで言い掛けてジャックは、口をつぐんだ。

「何でもないんだ。ちょっと疲れてね」

「そう」

 アスタは、うなずきジャックの隣に座った。

「ねぇアスタ」

 ジャックは、ずっと思っていたことを聞いた。

「ゼノ文明の末裔の皇女として、大勢の未来を背負う気持ちってどんなものなの?」

 問いかけるジャックにアスタは、小さく笑って言った。

「時々吐きそうになる。この役目を全て他人に譲り渡してどこかに逃げたいといつも思ってるよ。でも」

「でも?」

 見つめるジャックにアスタは、言った。

「それは、私の天命だから。天命というのは、自分の意思に関係なく、ときに環境が、ときに時代が勝手に人を選ぶんだ。それがたまたま私だっただけ」

 そう言ってのけるアスタにジャックは、何も言わずにうなずいた。

 ーーそうなんだ。アスタは、今までずっとこんな苦しい思いをし、ときに身を剥がされるような選択をして来てたんだ。

「じゃぁジャック、あまり思いつめないようにね」

 そう言い去って行くアスタの背中をジャックは、見つめながらなおも悩んだ。


 結局、ジャックはその情報を握りつぶした。その後日、故郷が軍に強襲されたのを知り、ジャックは声を殺して一晩中泣いた。

 ーー故郷の皆、フレディ、ゴメン。許して……

 それは、まさに身を剥がされる思いだった。

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