約束
ジャック達が戻った頃、世界は病原菌に侵され大混乱となっていた。商都セントレアでは、ラトニア商会のカルロがジャック達の帰りを待っていた。
事情を把握したカルロは、抗体となる鉱石を運び出すとともに感染したフレディをラトニア商会が運営する隔離病棟へと移した。その様子をジャックは、ただ呆然と眺めて続けている。
「ジャック、フレディはきっと助かるよ」
掛けるべき言葉がそれ以上、見当たらないアスタにジャックは、黙ったままうなずいた。
ーーフレディ……
いつしかジャックは、かつてフレディと交わした約束を思い出していた。
それは、アスタの申し出を受け入れ、二人でジャック&フレディを世の真実に迫る結社に転嫁しようと決意した日の夜の事。眠るアスタの横でフレディが切り出した。
「これまでもそうだったが、これからはより俺達にとって危険な場面も出てくるだろう。もし俺達二人のどちらかに何かあったとき……そう、命の危機に迫るような。そのときは、どうする?」
ジャックは、ためらいもなく言った。
「ジャック&フレディを解散する」
なぜなら自分には、無理だから。商才にしろ機略の才にしろ、そのセンスはすべてフレディにあり、凡才の自分には、フレディをサポートすることでしか、やって行けないこと力量であることが分かっている、と。
事実だった。フレディの矢継ぎ早に打ち出す縦横無尽な策は常に企画力に富み、的をはずさない。その上、果敢な行動力と度胸があるのだ。
そんなフレディに対し、自分は小心で臆病で行動力に乏しく、それゆえ補佐役としてカンパニーに貢献していくしかないのである。人には、分相応がある事を知っているからこそ、ここぞと言うときは、すべてフレディの指示に従ったのだ。
そう話すジャックにフレディは、言った。
「それは違うと思うぜ」
ジャックは、意外そうな顔で聞き返した。
「違う?」
「あぁ」
「違わないよ」
ジャックは、自嘲気味に答えた。そんなジャックにフレディは、言った。自分は確かに物事の要領を大雑把に掴む嗅覚があるかもしれないが、それらはとりとめがない。それをまとめ結晶化するねばりや根気に欠ける、と。
「要するに器用貧乏なのさ」
それに、とフレディは続けた。
「物事を成すための本物の力というものは、想像を絶するような積み重ねの上に宿るものだろう。それはジャックの専門分野じゃないか」
それを聞いてジャックは、目が覚める思いでフレディを見た。フレディが自分をそんな風に見ているとは、想像もしなかったのだ。
「ジャック、約束だ」
フレディは、笑って言った。
「俺に何かあったときは、ジャック&フレディを宜しく頼む」
「ジャック、大丈夫?」
心配して尋ねるアスタにジャックは、気丈にうなずいた。
「僕は心配ないよ。それよりアスタ」
ジャックは、力強い目で続けた。
「フレディが当面いなくなったことでジャック&フレディの活動に穴が空くことがない様にしたいんだ。何かとアスタにも負担を掛けるけど頼むよ」
「あぁ……わかったよ。ジャック」
演技かもしれないが、意外に元気そうなジャックにアスタは、ほっとしてうなずいた。ジャックは、思った。自分の一挙手一投足が、これからこの広い世間に一石を投じていく様になる、と。
そういう感覚が必要だった。これまではフレディの指示にだけ従っておけばよかったのだが、これからは相手は時代であり広大な世間というものになるのだ。
そんな覚悟に満ちた表情のジャックを見て、アスタは「案外、この気弱で生真面目なジャックがゼノ文明を託す器になるんじゃないだろうか」と思うようになっていた。




