抗体
異世界転移技術については、ジャックとフレディは既にベテランの域にある。だが、アスタは言った。
「今度の異世界は、キニシスの様にはいかないよ」
何しろ軍が既に展開しているかもしれない異世界に赴き、抗体となる異世界鉱石を取りにゆかねばならないのである。
「大丈夫だ。軍はまだ異世界への転移を果たしていないようだ」
ジャックが軍の無線を傍受し、暗号を解読した。そこへイザベラ達の飛行船がやって来た。異世界へ赴くジャック達の護衛と見送りである。
「イザベラおばさーん!」
二人は、遠くでこちらを見るイザベラに手を振って応えた。やがて、目標上空へとやって来た所で二人は、慌ただしく船内作業に取り組み始めた。
「異世界転移鉱剤、注入完了」
「こっちもすべて準備、完了だ」
あとは、異世界からの扉が開くと目される座標に探索網を張り続けるだけである。測定器の針を眺めるジャックからの指示を受けるフレディが舵を取り続ける中、固唾を飲んで見守っていると、アスタが遠目を指差し叫んだ。
「あれ!」
その指差す先を見たフレディが舌打ちした。
「軍の飛行船だ」
数隻はいた。ジャックは、すぐさまイザベラに合図を送り、それを受けイザベラが率いる飛行船がオトリとなり陽動作戦を取り始めた。
それにつられ、軍の飛行船は進路を変えた。だが、一隻がなおもこちらに向かって来ている。と、こちらに向けた砲身が火を吹き、途端に飛行船の周りが弾幕に包まれた。
ガタつく船体にアスタが悲鳴を上げ、その身をジャックが庇いながら、フレディに言った。
「フレディ、引き返そう」
「いや、今回は時間がない。このまま突っ切る」
ジャックが振り返り測定器の針を睨んだ。
「まだか……まだ来ないのか?」
祈る様な気持ちで見守るその針が遂に動いた。
「来たっ!」
だが、その針の振れ幅は、極端に小さなものだった。
「確率が低すぎる。これじゃ無事転移出来るかどうか分からない」
だが、目下軍の飛行船が近づいており、その砲火にあって引くに引けないところまで来ている。アスタは、自らの覚悟を決め、二人に言った。
「二人とも、覚悟はいい?」
二人は、答えた。
「あぁ、やろう」
「大丈夫だよ」
アスタは、息を吸い込み精神を統一させ、目を見開いた。
「今よっ!」
アスタの合図を元に二人は、異世界への航路を取り始めた。乱気流に船内が揺さぶられる中、目の前に宙の裂け目が現れた。周りがぐるりと光を帯び、飛行船はその異空間への裂け目に突入して行った。
異世界への転移は、成功した。だが
「存在確率が低いね」
ジャックは、測定器を前に表情を曇らせた。異世界の出現時間が極端に短いのである。
「時間との勝負だ」
二人はすぐさま採掘作業にかかった。
既に抗体となる鉱石の特徴はアスタから詳しく聞かされている。二人は、手分けして搬入を進めて行った。
やがて、作業が佳境に差し掛かったときだった。フレディは突如、体に異変を感じ、ふらつき始めた。
「フレディ?」
異常に気がついたジャックがフレディの顔を見た。
「大丈夫だ。時間がない。作業を続けよう」
やがて、必要量の抗体となる鉱石を積み終えた二人は、アスタとともに異世界を脱出した。舵はジャックが握っている。飛行船で横になるフレディの容態をアスタが見て、震える声で言った。
「病原菌にかかってる」




