ステージ
軍が独占する鉱石産業に新たな旋風を吹き起こすべく鮮烈なデビューを果たしたキニシスーーその時代の最先端を行くのがジャック&フレディだった。
二人は、既にこの世界がゼノ文明の異世界鉱石によって回っていることをアスタを通じ、知っている。言わば世の中の真相にかなり深入りする身となっている訳だが、ギリギリの一線は守った。
軍に睨まれないよう採掘に手をつけるのはキニシスのみで、その販路もカルロ達に一任していた。
それでも今の二人は、仕事が面白くて仕方がない。かつて少年兵だった頃は世の中に振り回される側だった二人が今、逆に世の中を振り回し時代を変えて行く側に立っているのだ。
寸暇も惜しんでキニシスに没頭した。
そんなあるときの事だった。
「ジャック、フレディ、ちょっと話があるんだ」
アスタが思い詰めた顔で切り出した。その神妙な面持ちに二人は手を止めた。
「どうしたんだいアスタ?」
「あのね、二人とも。よく聞いて」
尋ねる二人にアスタは、何度も言い掛けては止めを繰り返し、苦悶の表情を浮かべ続けた。余程の事があるらしい。やがて、アスタは、意を決したように言った。
「この世界は、じきに滅ぶ」
その唐突な内容に二人は、思わず声を失った。
「何を言ってるんだアスタ」
「そうだよ。いきなりどうしたの?」
やや間をおいて尋ねる二人にアスタは、思い詰めた顔で続けた。
「本当なんだ。そのうち目も当てられない時代が来る。私はゼノ文明の末裔の皇女としてそれを知っていてもどうしようもない。今までずっと思い悩んでは諦めていた。けどジャックとフレディを見ていて考えが変わった」
二人には今、時代を変える力があるーーそう力説するアスタは、二人に賭けたいから今は何も聞かずに力を貸して欲しいと頭を下げた。二人は、思わず顔を見合わせた。
アスタが突拍子もなくこんな事を言い出すはずがないことを二人は知っている。熟慮の末のことなのだろう。だが、それにしても内容が唐突過ぎた。
二人はしばらく考えたのち、それ以上は聞かず、ただうなずいた。
「いいよ」
「分かった、アスタ」
それを聞いたアスタは、逆に驚いた。
「いいのかい二人とも。もっと色々聞かないのかい?」
二人は、笑みを浮かべながら言った。
「あぁ……何か分かんないけど、訳ありなんだろ」
「アスタのおかげでキニシスにも出会えて、カンパニーも軌道に乗ったしね。助け合うのは、お互い様だよ」
アスタの性格をよく知る二人は、敢えて深く追求しない機微も度胸も持っている。だが、あまりにあっさり受け入れられたことにアスタは唖然とし、何度も念を押した。
「危険もあるんだよ。どうなるか私にだって分からない」
「でもアスタは、何とかしたいと思うことがあるんだろ」
そう切り返すフレディにアスタは、うなずいた。
「じゃぁやろう」
ジャックが笑顔で言った。
「どうして?、どうしてそんなに……」
そんなに安請け合いするのかーーそう尋ねるアスタに二人は言った。そこに直感めいたものを感じたからだ。と。キニシスで一財を成し、時代を動かす当事者になった事で、二人の世の中を見る目は変わった。
自分達本位から自分達が身を置く世の中全体を俯瞰する目を持つ様になった。そんな二人は、次第に自分達の事業に対して疑問を感じる様にすらなっていた。自分達のカンパニー、ジャック&フレディはこのままでいいのか、もっと違う道もあるのではないだろうか、と。
丁度、そのときにアスタからの申し出があったのだ。二人はそこに自分達にふさわしい、自分達にしか成し得ない天命を感じていた。
「僕達の出発点はアスタなんだ。アスタのおかげで全ての道が開けた」
「そのアスタがゼノ文明を、そして、この世の中に危機を感じてるなら、そこに飛び込む覚悟くらい、おいら達にはとっくに出来ているよ」
それを聞いたアスタは、胸がいっぱいになった。アスタは、皇女だ。常に大所高所から物を見るが故に人には相談出来ない事も多く、一人で思い悩んでいたことも多かったが、それをともに考えてもらえる仲間に感激の思いが溢れた。
「ありがとう……」
礼を言うアスタの目が光っている。やがて、アスタは肩を震わせて泣き始めた。気丈な彼女としては、異例の事だ。もう一人じゃないーーそう思うとアスタは、我慢ができなかった。
物事が俄然、固まる時がある。二人にとっては今がそうだった。このときを機にジャック&フレディは、異世界鉱石の貿易採掘会社からゼノ文明に絡む結社に変質した。
営利を追求とするカンパニーから世の真相に迫る機関へと、新たなステージに踏み出すこととなったのだ。




