報告
その日、カルロは報告を待っていた。カルロが販路に乗せ送り込んだキニシスの第一陣の結果がこの日、明らかになるのだ。
「勝負だ」
カルロは、固唾を飲んで待ち続けた。
「まだか?」
時計を何度も確認しては、報告を待ち続けるカルロを見かねたカーティスが言った。
「カルロ、気持ちは分かるがちょっとは落ち着け」
「あぁ、分かってる」
分かってはいるが、この待ちの時間だけは何度やっても慣れるものでは無かった。やきもきしては、溜息をつき、イライラしながらも待機していたとき、その待ちに待った報告が入った。
「なんだこれは!?」
カルロは思わず目をひん剥いた。桁が違うーーそれは、カルロの予想を遥かに超えるものだった。
市場は、颯爽と現れたこの新しい鉱石に強烈な可能性を見出し、収拾がつかないほど問い合わせが殺到し、その噂の熱狂の中でごった返していると言う。あちこちから入る現地からの嬉しい悲鳴にカルロは、体の震えが止まらなかった。
「今日、この日を境にしてうちも、そして鉱石産業も変わる」
カーティスが感慨深げに言った。今後、この産業はキニシス前、以降に分けて語られることになるだろう、と。
カルロは、なおも体の震えが止まらない。
ーー俺は今、時代の分かれ目に立ち会っている。
慌ただしく対応に追われる社員の後ろでカルロは一人、こみ上げる興奮を抑えながら拳を固く握りしめた。
世界がキニシスの価値を発見したその日、ジャックとフレディは、商都レントセアにいた。
その街の様子がいつもと違う。市場が騒然としているのだ。
それがキニシスによるものだということをカルロによって知らされたとき、二人は信じられなかった。
思わず、二人は笑った。
「カルロさんったら」
「またおいら達をからかってる?」
だが、カルロは真顔だった。信じられない二人を前に身振り手振りを交えて言った。
「ジャック、フレディ、本当なんだ」
キニシスが今、猛烈な勢いで化けているーーその悲鳴に近い反響の事実を各地からの報告を交え説明するカルロに二人は、次第に目を見開き顔を見合わせた。
「どうだい二人とも」
ジャックとフレディにカルロは言った。
「成功する覚悟は、出来たかい?」
声にならない二人は、目を輝かせてうなずいた。
その目尻に涙が浮かんでいる。無理もなかった。二人は、この時のために今まで全てを注ぎ込み、命まで張って打ち込んできたのだ。
「カルロさん……」
「キニシスに価値をつけてくれてありがとう」
震える声で礼を言うジャックとフレディにカルロは言った。
「こっちこそありがとう。キニシスを見つけてくれて。うちに持ち込んでくれて」
ジャックとフレディが扱うキニシスは、途方もない価値がつくようになった。何しろ今までほとんど知られなかったこのレア鉱石を他の鉱石に添加すれば、それまでクズ同然に扱われていたその鉱石に新たな特性が宿り、価値が激変するのだ。
その圧倒的なパフォーマンスを前に関連する他のクズ鉱石にも次々に値がつく様になり、軍が独占していた鉱石産業はこれを機に一変し、添加し性質を変え価値を生むという新しい技術思想に主流が塗り変わった。
超古代文明が発掘されて以降、鉱石産業史上類を見ない程、信じがたいスピードで起こったその変化は、まさに革命だった。
一つの鉱石が時代を作り世界を変えていくーーその中心にあるのは、ついこの間まで閑職に過ぎなかったカルロの部署である。
業者の往来が激しくなり、物凄い活況を呈すようになり、時代の変化を決定する中核部署になった。
社内のカルロ達を見る目が変わり始め、だかそう言った社内政治に興味のないカーティスは、相変わらずこの革命にのみ没頭し続け、それはカルロの方も同様だった。
物事を成すには時の勢いがいる。それが今なのだ。
「キニシスを軸に新たな産業を勃興する。市場をこの手で創造して行くのだ」
カルロは、カーティスとともにその時代の渦の中に飛び込んでいった。




