偽装
その日も異世界鉱区を求めて網を張っていた。
「今日は、昨日と逆の航路で探索網を広げてみよう」
鉛筆をクルクル回しながら話すジャックにフレディは、うなずき舵を取った。気象を睨みながらもあらゆる時間帯で方策を試し、その結果をいちいちノートに書き示しながら、飽きることなく探索を続けていると軍の飛行船が現れた。
「フレディ」
「あぁ」
フレディは舵を取り、偽装航路を取った。
沈黙が続き、息を潜める中、やがて、軍の飛行船は何事もなかったように近くを通り過ぎて行った。
「行ったな」
二人は、緊張から解放されたようにため息をついた。
ふとジャックは測定器の針が触れている事に息を飲んだ。
「来たっ!。フレディ」
「何!?。よし」
フレディが、すぐさま揺れ動く測定器の針の方角に飛行船の進路を向け、ジャックが測定器を目で追いながら、みっちり書き殴られたノートを片手に異空間の座標を二人が開発したモデルで算出し始めた。
レバーを引き探索用の機材を次々に作動させるジャックの目が興奮に溢れている。
「これは大物だね」
アスタが後ろから覗き込みながら、言った。
「間違いない。キニシスの異世界鉱区だ。条件が揃ったんだ」
風が吹き荒れ舵が取られ船体ががたつく中、フレディが巧みに舵を捌き異世界鉱区へと船を導き、やがて、その前方に例の雲があらわれた。
「よし、来い……」
フレディは、祈るような気持ちで窓の外を睨んだ。
と、三人の乗る飛行船が大きく揺れ動いた。
「時空振だ。近いよ」
アスタが叫び、それを聞いたフレディが言った。
「ここからは、アスタの出番だ。頼むぜ」
アスタはそれを受け、フレディに事細かに座標を指定して行った。一歩間違えれば、異なる異世界に引きこまれ飛行船ごと粉々に吹き飛ばされかねないのだ。
自然、慎重にならざるを得ない。はやる気持ちを抑えながらも、フレディはアスタの指示に従い続けた。
そして、異世界転移まであと一歩だったとき、ジャックは窓の外に船影を見つけ叫んだ。
「フレディ、軍の飛行船だ」
「何だって!?」
ジャックの指差す方向を見ると先程の軍の飛行船がこちらへと戻ってきている。ずらりと並んだ砲身がこちらを射程に収めていた。
「フレディ、異世界転移は中止だ」
そう叫ぶアスタにフレディは、物凄い形相で軍の飛行船を睨みつけた。
「くそっ、あいつら。邪魔しやがって」
フレディは、そう罵り悔しげに操舵輪を拳で叩きつけた。
「仕方がないよ、フレディ。今回は諦めよう」
そう慰めるジャックの声も無念で溢れていた。
あと一歩のところで念願のキニシスの異世界鉱区を取り逃がしたジャックとフレディの意気消沈は、激しかった。
だが、絶望はしなかった。二人は持ち前の企画力ですぐさま対策を講じ始めた。そして、その対策を思いつくと二人には弾み出すような行動力がある。
「今回は、偽装が甘かった。もっと凝ったものにしよう」
「そうだね。早速明日から取り入れよう」
地図を前にペンで書き込みを入れながら、なおも二人のキニシスをめぐる事業熱は高まり続けていた。
確かに機を逃しはしたが、あと一歩まで漕ぎ着けたという確かな手応えを掴んだのも事実だ。
二人は言った。
「一歩前進だ」
あとは対策である。夜遅くまで熱心に対策を講じ続ける二人にアスタは、目を細めた。
異世界鉱脈を拓く道は単純ではない。困難と危険が付き纏う十中八九が失敗に終わり散っていくであろう世界だ。
「けど……」
アスタは、目の前でキニシスの異世界鉱区を取り逃した二人を遠目に観察している。
この怒気迫る集中力で事業に没頭する姿勢があれば、その二人の先にはからりとした無限の未来が広けているように思えてならなかった。
始めに会った頃はなんとも思わなかったが、二人の事業に向き合う姿をそばで見続けているうちにいつしか二人に頼もしさと言いようのない好意を抱くようにすらなっていた。




