運
キニシスは、鉱石産業を一変させる力を持っている。皆でこの世界の地図をキニシスに塗り替えよう。そうカルロと誓って以降、ジャックとフレディは異世界鉱石の採掘事業の準備に寝食を忘れて取り組んだ。
昼は、アスタの言う必要な機材を揃えに走り、夜はその基礎理論を直に学び、異世界転移技術の習得に没頭した。事業に賭ける覚悟の凄まじさといってもいい。
二人は、何も知らない状態から乾いた大地が水を吸収するように物凄い勢いで知識を身に付けて行った。
文字通り、異世界に関する知識を徹底して研究し抜き、アスタ仕込みの知識をベースに自分達の事業にあった新たな異空間算出の計算モデルを自分達で一から作り直し、その為の方策をたった二人で次々と開発して行った。
ーー素人だな。
アスタは、そんな二人をそう思うと同時にこうも思った。
ーー方法が斬新で独創的だ。
まさに異世界文明の末裔の皇女たる自分が考えてもみなかったような方策ばかりなのである。
「何というか、二人らしいね」
アスタは、二人に微笑んだ。
主要な異世界鉱区の制空権は軍が握っている。そんな目を光らせる軍を偽装で欺き錯覚させる策は、フレディの発案だ。対して、数段構えで何重にも張り巡らせた探索網が互い連携し合い、キニシスの異世界鉱石を掘り当てるべく、データベース化し、その取りこぼしを防ぐのはジャックの担当と言える。
身軽で山っ気が強く、投機的な機略の才を持つフレディの奇策を好んだ射幸的作戦の中にジャックのいじらしい程配慮が行き届いた繊細さ、堅実さが宿るプラン。
一見、大胆に見えてその実、繊細さを併せ持った作戦は、確かに二人の独創ではあったが、その独創を生む刺激になったのは、二人の器質の相違と呼吸を心得あったお互い同士の調整能力の賜物だろう。
「確かに作戦としては上出来だ」
だが結局、策は計画でなく、人である事をアスタは、ゼノ文明の皇女として知っている。
その点を鑑み、アスタは二人を見た。見るところジャックとフレディにとって事業とは、自分達の器量の表現場所でしかないようだ。二人とも自分達のモデルを証明される事への激しい飢餓感を持っており、そこにやましさがなく、側で見ていて爽やかだった。
となれば、あとは
「運だろう」
二人にその運があるかどうか、それはやってみなければ分からない。
アスタは、見定めることにした。
その翌日からジャックとフレディは、アスタを連れて異世界鉱区の網を張った空域を探索し始めた。飛行船の中にはアスタの理論に基づき二人が考案した測定器が据え付けられている。
その指し示す針を睨みながら、二人は、キニシスの鉱脈につながる異世界の扉が開く兆候を探った。そんな二人が網をはる空域をときに軍の飛行船が横切った。
「フレディ、軍だ」
「あぁ、逃げよう」
二人は軍の目を欺きながらも、根気よく待った。動くときは動くくせに、いざ待つとなると地面に根を生やし、腐るまで待つのが二人の主義だ。
「今日も収穫はなしか」
「仕方がない。今は辛抱だ」
二人は、盛んに手を替え品を替え様々な方策を施しながら、網を張り続け、来る日も来る日もひたすら異空間への扉が開くのを待ち続けた。




