覚悟
カルロと別れた後、キニシスの安定供給という課題を持って帰ったジャックとフレディは、アスタに持ちかけた。
「異世界鉱石を自分達で採掘したいんだ」
「異世界鉱石の採掘?!」
アスタは二人に言った。
「ジャック、フレディ。異世界転移技術は生半可な知識じゃ大火傷するリスキーな分野なんだよ。だいいち異世界鉱石を独占している軍の目があるじゃないか」
「大丈夫だ。監視の厳しい他の鉱石には、手をつけない。キニシスだけだ」
アスタは、その後も身振り手振りを交えてその危険性をとくと説いたが、二人は聞く耳を持たない。キニシスに賭けるジャックとフレディは、ここが博打の打ちどころだと決意しているようだった。
ーー二人は、かなりきわどいところを狙ってきている。
一歩間違えば身を滅ぼしかねない傾倒ぶりにアスタは危険を覚えたが、二人もそれは承知の上だという。
そんな二人にアスタもついに折れ、異世界転移技術の大まかな理論を説明し始めた。話せばその困難さが理解できるかもしれないと思ったのだ。
二人は、その内容を固唾をのんで聞き入ったが、案の定、その全く要領を得ない内容に困惑の色を浮かべるようになった。
「仕方がないんだ。言語で伝達出来ない特殊な概念を用いているからね」
アスタは、半ばあきらめつつ複雑な内容をかみ砕きながら一つ一つ丹念に説明し、それを聞きながら二人は、どうやら時空層のひずみに浮かぶ異世界鉱山島への異空間転移をこちらから起こすのには、ゼノ文明が張り巡らせた膨大な遺跡インフラの助けが必要だということを理解した。
「で、その遺跡インフラはどこにあるんだ」
「どこに、というか……」
尋ねるフレディにアスタは、首を振って答えた。
「確かに存在はするけど、同時にどこにも存在しない。何というか……物質に依存しない形で構成されているんだ。私達の身の回りにあるものと違ってね。そして、その遺跡インフラの一部に私はアクセスすることが出来る」
「助かるよアスタ」
拝む様に言うジャックにアスタは、慌てて首を振った。
「いや、そこはさすがに異世界鉱石を牛耳る軍の目が光っている。容易には、アクセス出来ないよ」
「じゃあどうすればいいんだ?」
食らいつく様に尋ねるフレディにアスタは、言った。
「二人がはじめて異世界に転移したときの事、覚えてるかい?」
ジャックとフレディの脳裏に、あの強烈な記憶が蘇った。
「あんなのは異例中の異例だけど、何かの拍子にときたま異世界の方からこちらへ扉が短時間だけ開くときがあるんだ。そこでキニシスの鉱脈が伸びていると目される異世界を調べあげ、その傾向を見つけ、タイミングを狙って電撃的に一撃離脱で採掘に持ち込めば何とかなるかもしれない。ただあくまで私の仮説だし、十中八九、失敗する。そしたら」
アスタは、戸惑う事なく言った。
「間違いなく死ぬよ」
ーーそれでもこの二人は、やるだろうか。
アスタは、二人を見た。
「やる」
二人は即答だった。その顔には、二人が時々見せる凄味があった。
やる、と言った二人の言葉の裏に、二人があまり話をしたがらない少年兵時代の記憶がある事をアスタは知っている。具体的な話を語らないのは、そこには悲惨な事が多かったからなのだろう。
それに比べれば、自ら始めた事業の為に命を賭ける事など容易いという二人の決意の前にアスタの中で何かが動いた。
ーーこういう潔さがなければ、飛躍は出来ない。今がこの二人にとってそうなのだ。いずれこの二人に真実を打ち明ける時が来る。そのときのために……
アスタのジャックとフレディを見る目が、確立した。
「アスタの言う方法に賭けてみるよ」
「必要なものを言ってくれ」
必死の覚悟でそう話す二人にアスタは、ゆっくりうなずいた。




