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最深部

「捕虜の賊が逃げ出しただと!?」

 ベルナルドは、激しく怒り狂って配下に当たり散らした。

「すぐさま捕まえろ!」

「はっ」

 恐縮し去って行く配下の兵の背中を睨みつけるベルナルドを冷ややかな目で見る人物がいた。

 レオンだ。

「閣下、また逃げられたのですか?」

「黙れっ!」

「まぁいいではないですか。どうせここは異世界、逃げ場所はない。それより」

 レオンは、冷たい目でアスタを見た。

「姫様の一件の方が大事でしょう」

「ふっ、それもそうだな」

 冷静さを取り戻したベルナルドは、たじろぐアスタをじろっと見た後、ニヤリと笑った。


「こっちだよ」

 イザベラが先導する後を解放された配下とジャックとフレディがついて行き、遺跡の最深部へと入り込んで行った。

「なぁジャック」

 フレディがジャックに耳打ちした。

「ここから出たらイザベラとも交易しようと思うんだ」

「イザベラおばさん達と?」

「あぁ、イザベラの言う思想のことはよく分からない。けど、この世界の真実を追求する姿勢は、尊敬するよ。で、その中で色々必要な物が出てくると思うんだ」

「その品を調達したり、空運を担うって事?」

「おいら達は異世界を股にかけるカンパニーだ。相手を見てそれが信頼に足るなら賊とも取引する。どうだ?」

 もちろん、とジャックはフレディに笑顔でうなずいた。

「でもどうしたのフレディ、いきなりそんな事言い出して」

「気分だよ」

「気分?フレディの?」

「いや、世の中全体の気分」

「なにそれ」

 ジャックは、クスクスと笑いながらもフレディの言わんとしている事を察した。

 今、世の中は戦争が収束したとは言え、まだ賊が蔓延り、軍の統制もままならない中でアスタの様に真実に触れる者、イザベラの様に真実を知りたいという人々が、各々の方法で道を切り開いて行こうという気分が熟成しつつある。

 今まで故郷にいながら、外の世界を知らなかったフレディが、実際に外に出て街を巡り、軍や賊に巻き込まれる中でそんな世の中の気分、時勢の変化を肌で感じたのだろう。

 そういう世の中の気分を巧みに導いて、来るべき新時代に躍り出て世の中を動かすカンパニーに育て上げたいという事なのだ。

 考えてみれば、少年兵でいるとき、二人は時代に翻弄される側であった。だが二人には、常に物事を成したいという野心があった。成すには何かがいる。その何かが分かるまでは、機を伺い力を蓄える我慢だ。

 だが、一旦、その何かが到来すれば、今度はこっちが時代を翻弄する側になる。そう二人で誓い合った。その何かが今、到来しつつある。

 カンパニーを立ち上げて、フレディは、ジャックに話したことがある。オクトル、アクアタイト、キニシス……いろんな異世界鉱石を扱う中でこうした物価の動きは一足先に時代を先取りして動いている気がする、と。

 フレディは、時代の変わり目に見せる有能さを持っている。物事を大雑把に掴み、度胸がある。

 ーー人には時機がある。今がフレディが光る時だ。

 ジャックは、昔から自分にはないフレディのそう言う時代を肌で感じえる力を信じていた。今、まさに貿易家として成長しつつあるフレディを頼しげに眺めつつ、さらに思った。

 そんなフレディのパートナーとしては、むしろ臆病で時代の過渡期に対する有能さから正反対にある方が、その小心さゆえに行動力が乏しく、それがカンパニーに貢献するのだ、と。

 平時のジャックが見せる正道商法と有時のフレディが見せる海賊商法のブレンドーーそれが二人のカンパニーの真髄と言えるのである。

「まずはアスタを救い出そう」

 そう話すフレディにジャックはうなずき、イザベラの後に着いて行った。

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