窮地
「ふっ、賊どもめ。見たか!」
ベルナルドは、目の前で散り散りになって行く賊の一団に思わず声を上げた。
「イザベラ、借りは返したぞ」
にんまりほくそ笑みながら、イザベラの船を指差し叫んだ。
「あれだ。奴の船だ。いいか、絶対に沈めるな。捕獲し生け捕りにするんだ」
「はっ」
配下がベルナルドの命を受け、船を近づけ始めた。
「あそこに必ず、姫様が乗っている筈だ。おい、そうだなレオン」
ベルナルドは、後ろを振り返り聞いた。
「えぇ、間違いありません」
レオンと呼ばれた男は、眼鏡をクイっと持ち上げ冷たそうな顔でうなずいた。
「ふん、情報将校だかなんだか知らんが、お前の作戦が当たった事だけは褒めてやろう」
偉そうにふんぞり返りながら言うベルナルドにレオンは、どうもと手短にうなずいた。
「お頭、もう船が持ちません!」
「弱音を吐くんじゃないよ!」
悲鳴を上げる配下をイザベラは、どやしつけていると、突如、砲火が収まり、怪訝に思い外を見て、目の前に肉薄する軍の飛行艦船に舌打ちした。
「くそっ。奴ら乗り込んでくる気だ。おいお前達、白兵戦の準備だ!」
そう叫ぶや否や、軍の飛行艦船がイザベラの船に体当たりして横付けし、船がガクンと揺れ動き、横のアスタは足を取られひっくり返った。
たちまち船内にガスが流し込まれ、防護服を来た軍の兵が乗り込んでくる中、アスタはそのガスによって目の前がうっすらと暗くなって行った。
「ジャック!。機関全速前進だ!。この砲火を切り抜ける」
目の周りが弾幕で溢れる中、舵を握るフレディが叫んだ。
「わ、分かった」
飛行船が撃ち込まれていく中、ジャックは必死に機関を限界まで走らせた。
「頼む。持ってくれ」
船が軋み、悲鳴を上げているのをフレディは祈る様な気持ちで舵を握り続け、巧みに捌いて行った。
「よし、行ける」
微かな希望が見えて来た矢先、軍の飛行船艦隊の主砲から放たれた弾丸が二人の乗る飛行船を貫いた。致命傷を受けた二人の飛行船からパッと火花が飛び散った。
「まずい」
フレディは、効かない舵を握りしめ、目の前を凝視した。
「あそこだ。あそこに不時着しよう。持ちこたえてくれよ」
それは、ギリギリだった。何とかフレディの目する場所に不時着した飛行船は、砂埃を上げながらやがて、その場にピタリと止まった。
「ジャック、大丈夫か?」
「うん、何とかね」
機関室から戻って来たジャックは、飛行船が乗り上げた場所を見た。そこは、どうやら遺跡の様だった。空は異空間らしく見たことのない色合いを帯びている。
二人は飛行船から飛び降りると遺跡をゆっくり進んで行った。
やがて、遺跡を一望できる場所まで来た二人は、下の階層でイザベラの乗る飛行船が不時着し、軍と撃ち合いになっているのを見つけた。
「あれは、アスタだ!」
二人は、ベルナルドに連れて行かれるアスタを見つけ指を差した。
「さぁ歩け!」
「嫌っ!」
髪を乱暴に掴んでくるベルナルドにアスタは抵抗した。
「この子娘が!」
アスタの頰を張り手で引っ叩こうとしたベルナルドの手をレオンが掴んだ。
「大事な姫様です」
レオンがそう言い、ベルナルドは、ふんっと鼻を鳴らし、配下に命じた。
「この娘を繋いでおけ。いいか、逃すなよ」
やがて、ベルナルドはイザベラの船に火を付けさせ、レオンとともにアスタを連れて遺跡の中へと入って行った。




