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人質

「イザベラの奴、一体どういうつもりだ」

 解放された飛行船の操舵室で舵を握りながらフレディが首を傾げ、ジャックが飛行船の周りを取り囲む賊の一団を見ながら答えた。

「とにかく今は、言う通りにするしかないよ。逃げようにも賊に周りを取り囲まれているし、それに」

「あぁ、アスタが人質に取られてるからな」

 フレディは、アスタが捕らえられている賊の母船を横目に言った。

「今、アスタを失うのは、おいら達の事業にとってもよくない。アスタはおいら達のカンパニーの生命線だ」

 二人は、賊の飛行船に取り囲まれながら、イザベラの指定する場所へと向かった。


「あの二人は、ちゃんとついて来てるだろうね」

 イザベラは、配下をじろっと睨んで確認させた。

「いざとなれば、オトリにでもさせる。おっと……」

 不意にイザベラは、傍受した軍の無線をスピーカーに流し、暗号を解読し始めた。

「よし、ベルナルドの奴、うちらの陽動に引っかかって見当違いの方向に動いてやがる。軍の奴らの方は、大丈夫だ。それよりも今は……」

 懐から手帳を取り出し、びっしり書き込まれた中身のページをめくりながら側のアスタに言った。

「うちの勘が正しければ、この時刻、この座標で異世界の扉が開く。そのときはお姫様の出番だよ」

 そう話すイザベラにアスタは、尋ねた。

「イザベラ。あなたは、一体、何者なの?」

「しがないこの国の一庶民さ。まぁ、ベルナルドの商売敵とでも言っておくよ」

 イザベラは、手帳を懐に仕舞い込むとアスタの方を見て続けた。

「お姫様。アンタが超古代文明の末裔の皇女だって事は、うちらで調べが着いているんだ。アンタらがこの星を影で操っていることもね。だが、あいにくうちらはアンタらの飼い殺しになる気はないよ。お姫様がここにいる限り、主導権は私達にあるんだからね」

「主導権……?」

「そう。まぁ、そのうち分かるさ」

 イザベラは、意味深にほくそ笑み地図の前に来て、目標の座標を見つめた。


「フレディ、あれ!」

 ジャックが窓の外を指差した。遠方に奇妙な雲が固まって動いている。

「あの雲、あのときの雲と感じが同じだ」

「あぁ」

 やがて、乱気流に船がガタガタと音をたてフレディが持つ舵が取られ始めた。

「ジャック、機関を見て来てくれ」

「分かった」

 ジャックは、操舵室から機関へと走った。


 風はますますキツくなり、ジャックとフレディの船だけでなく賊の飛行船の一団も風に流され始めた。

「お頭、このままじゃ船が持ちません」

「お前達、弱音を吐くんじゃないよ。目標の座標はこのまま。この荒れた雲の中に異世界への扉が開くんだ」

 そう配下を怒鳴り散らし、イザベラは目標の座標を睨んだ。と、突然、宙に亀裂の様なものが走り、その時空の裂け目に賊の一団が吸い込まれ始めた。

「よし、いいよ。舵をそのまま」

 イザベラは、操舵手の肩に手を置き、前を見つめていると、飛行船の一団の周囲が光に溢れ始めた。

「言い伝えの通りだ」

 手帳を手にイザベラは、興奮を抑えながら言った。

「これで全てが手に入る」

 遂に賊の一団とジャックとフレディの飛行船は、完全に時空の裂け目に飲み込まれ、異世界へと飛び抜けた。そして、光の抜けた先に広がった光景にイザベラは、思わず息を飲んだ。

 イザベラ達が出現するのを待ち構えていたかの様に軍の飛行船艦隊が展開しているのである。

「あれは、ベルナルドの船!。しまった……図られた」

 その直後、イザベラ達賊の一団は、凄まじいばかりの軍の飛行船艦隊の砲火に晒され、次々に火ダルマになって行った。

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