異世界
「おいジャック。一体、どうなってるんだ」
フレディは、光の溢れる外の景色に戸惑い、ジャックも
「分からない」
と首を振る中、アスタだけが一人、すべてを悟ったように言った。
「異世界へ飲み込まれたんだ」
「異世界?」
二人は、キョトンとしてアスタを見た。
「私達がゼノ文明でこの星から逃れた一派の末裔だって話は、前にもしただろう。その逃亡先の一つがこういった異世界なんだ。異世界転移技術を使って私達は異空間へ移動することが出来る」
アスタは、顔をしかめて続けた。
「ただ、その異世界への入り口がこんな形で開くのは、極めて異常だ」
「何らかの要因でその異世界に飲み込まれたって事?」
尋ねるジャックにアスタはうなずいた。
やがて、外を取り巻いていた光が途切れ、抜けた先に広がった光景にジャックとフレディは、息を飲んだ。それは、二人がこれまで目にしてきたどの光景より、神秘的で美しいものだった。
降ってくる様な満天の星空が周囲をぐるりと囲み、宙に浮いた島々の鉱石が共鳴し合う様に光を帯びているのである。
「ここは……」
食い入る様に眺めるジャックとフレディにアスタが言った。
「異空間に浮かぶ鉱山諸島群だ、そして、あれが異世界鉱石だよ」
「異世界鉱石」
「あぁ。あれがアルジウム、そして、あれがグラチナ、ラクアニクス、ゴルクトぺルト……今、世界に出回っているエネルギー資源の鉱物は、こんな異世界を発掘して私達ゼノ文明の人間によって持ち込まれてるんだ」
「そうだったのか」
「綺麗……」
二人が景色に見惚れていると、飛行船の周りが再び光に包まれ始め、それを見たアスタがフレディに言った。
「フレディ、あの空間の亀裂に向かって行って」
「え?。あ、あぁ」
フレディは、我に返るとアスタの言われるがまま飛行船の舵を切った。飛行船は、亀裂に吸い込まれる様に進んでいき、光で周囲が溢れ始め、ガタガタと船体が振動し、横揺れが激しくなった後、光の中を駆け抜けた先に異世界に飛び込む前にいた二人のよく知る元の世界の空が広がった。
安定を取り戻した船内でジャックとフレディは、黙りこくっている。半ば放心状態の二人にアスタは思わず微笑んだ。
「びっくりしたかい」
「うん……」
「あぁ……」
二人はそれぞれうなずき、再び黙りこくった。その横でアスタは、思い悩んだ。本来、入れるはずのない異世界が突然開いた事に驚きを覚えているのである。確かに不定期的な事故としてそういうことが起こることはありうる。
だが、ゼノ文明の末裔の皇女として一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
「何か起きてるのかもしれない……」
アスタは、人知れず顔をしかめた。
やがて、夜になり、アスタが眠る横でジャックが眠れないまま起き上がると操舵室へと入った。中でフレディが操舵輪を握っている。操舵は交代ですることになっているのだ。
「ジャック、眠れないのか?」
「うん」
「だよな」
二人は、黙ったまま横に並んだ。
宙に浮かぶ島々に光輝く無限の鉱石ーー昼間見たあの強烈な光景が、旺盛な二人の好奇心をこれ以上なく刺激し、今だに興奮を抑えられないのだ。
「凄かったよな、ジャック」
「うん」
「あの異世界って奴にまた行ってみたいよ。ジャック、あそこをおいら達で発掘しよう」
目を輝かせてそう話すフレディにジャックは、うなずいた。
「そうしよう。それに」
「あぁ、アスタの言うゼノ文明だろ」
「うん」
そのゼノ文明を一度、この目で見てみたい。まだ見ぬ未知の世界へ冒険に乗り出したいーーそんな好奇心が二人の心の奥底に炎となって宿り続けていた。




