飛行船
「これは……」
ジャックとフレディは遺跡から発掘した船体を前に顔を合わせた。
「超古代文明の遺物だ。多分、飛行船だよ」
「飛行船!。飛ぶの?!」
目を輝かせるジャックにフレディはうなずいた。
「やろう。これを組み立てよう」
二人は、ガシッと手を取り合った。
ジャックとフレディは戦災孤児だ。少年兵だった頃のツテを活かして、遺跡やジャンクヤードから掘り起こしたオンボロの中古品を組み立てては軍に納め生計を立てている。
二人には、夢があった。それは住処を離れ、街の外に出て、広い世界を見て回り事業で成功して大儲けすることだ。
そのため日銭を稼ぎつつ、夢に向けて外の知識を仕入れて、超古代文明語を秘かに学んでは、準備に取り掛かっていた。
二人が遺跡から飛行船を発掘したのは、まさにそんな時だ。俄然、興奮を抑えられず、暇さえ見つけては、掘り起こした飛行船を試行錯誤で組み立てて行った。
「ねぇ、フレディ、もしこの飛行船を動かせる様になったらどうする」
油塗れになりながら、尋ねるジャックにフレディは即答した。
「貿易と発掘」
「でも、異国との密貿易や発掘は軍に禁じられてるよ」
「こっそりやりゃいいんだ。あいつらだけに富を独占させてたまるかよ」
事実、この世界は主要な物品はすべて軍の専売制が引かれている。とく超古代文明への発掘品がらみはすべてそうだった。
「確かにやり過ぎは禁物だが、要は潮時さえ心得ておけばいいんだ。そのためには、まず飛行船。将を射んとすればまず飛行船だ」
フレディは、ことわざをもじって一人、うなずいた。
二人にとっては、軍による取締りの恐れより、外の世界への好奇心がなによりも勝った。
「ジャック、出来た。終わりだよ」
「こっちもだ。フレディ、動くかな」
「あぁ、ダリア鉱石がいる」
それは、古代遺跡から発掘されるこの世界のエネルギー源になっている貴重なモノだった。
「知り合いがいるから、闇市で手に入るよ」
家に戻った二人は、日頃から貯めていたなけなしの金を全て取り出し元手にした。
「やろう。人生の勝負だ」
ジャックとフレディは力強くうなずき合った。
「こっそりだぞ。役人に見付かると厄介だ」
「分かってるよ、フレディ」
二人は夜、人目を盗んで闇市で手に入れたダリヤ鉱石をこっそり運び出し、組み立てた飛行船のもとへやって来た。
ジャックは、びっしり書き込んだ手帳を取り出し、超古代文明語を翻訳して手順通りにダリア鉱石を飛行船の燃料庫に装填した。
「よし行くぞ」
二人は操舵室に着くと顔を合わせ、レバーにそれぞれの手を重ねて置いた。
「行こう」
そして、祈る様な気持ちでレバーを引いた。
その途端、飛行船が振動を始め、ダリア鉱石を入れた燃料庫が光を帯びた。
フワッとした感触とともについに飛行船は宙に浮き上がった。
「やったぁっ!」
二人は目を輝かせて、笑顔を浮かべた。
「長年の夢が叶った」
その直後だった。突如、ガタンと船体が傾き、宙に浮いた飛行船は地面に叩き落とされてしまった。
「動力系がおかしいのかなぁ」
二人は、肩を落とし、うんともすんとも動かなくなった飛行船をただ眺め続けた。
「燃料系がおかしいんだと思う」
家で二人は設計図を前に頭を突き合わせて再度、検討を重ねた。
「フレディ、多分、直るよ」
「あぁ、ちょっと急ぎ過ぎていたのかもな。ただ……」
フレディは表情を曇らせた。
「どうしたのフレディ?」
「あぁ、最近隣街が正体不明の軍隊に襲われたらしい。それで軍の連中がいきり立って取締が強化されているらしいんだ」
世界は、まだ戦争から抜けきっておらず、賊がいたるところに蔓延っていた。
「ジャック、当分、計画は延期だ」
フレディが力なく言った。
「フレディ、もし飛行船が動かせる様になれば、ゼーレに飛ぼう」
ジャックは寝床でフレディに言った。
「シャラットの方が面白くない?」
「あそこはまだ危険だよ」
「おいジャック、だからいいんじゃないか。ハイリスクハイリターンだ」
二人は天井を眺めながら、これから赴く地方の地図を頭に描き、暇さえあればこれから始めようとする事業の話を繰り返した。
何よりもこれから見ぬ土地へ赴くことへの好奇心が、二人をたくましくしていた。
そんなある日のことだった。ジャックが家に戻って来るとフレディがいない。
不思議に思っているとフレディが家に駆け込んで来て叫んだ。
「大変だジャック。飛行船を軍に接収された」




