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表と裏

※誤字、脱字多かったらすみません。




公爵様と初めて言葉を交わしたあの日から、一週間以上は経っただろうか。最近、時間の感覚がよく分からなくなってきた。


夜会から帰った次の日、私は父の指示で部屋に軟禁されて、庭にすら出られない状態だ。


「お嬢様、申し訳ありません……何も出来なくて……」


「ジェシカは何も謝る必要は無いでしょ?むしろジェシカには色々と感謝してるくらいなんだけど」


「ですが……」


「気を病む必要は無いよジェシカ。貴女は何も悪くないから。だから絶対に父に逆らったら駄目。目を付けられないように傍観しておいた方がいい」


「……このままではお嬢様が死んでしまいます。だって、もう一週間以上も部屋に閉じ込めた上、食事すらさせないなんて……旦那様の考えが分かりません。分かりたくもありません」


私は侍女のジェシカを宥め、無駄な体力を使わない様にソファに横になる。空腹を紛らわせる為に煙草を吸おうかとも思ったが、貧血状態で煙草は危険だろうと判断して諦めた。


ソファの上で公爵様との会話を思い出す。

行動を監視され、縁談を潰され、私は死ぬまでこの家に縛られていくのだと悟っていた。

だから、あの人の助けを求めていいという言葉に思わず涙が出た。私はまだ涙を流せるのかと驚いた。ただの戯れの言葉でも、それで充分だ。


「お嬢様、エルヴェ様がいらっしゃいました」


「ナディア、大丈夫か?体調を崩していると聞いたが」


怠い体を起こすと、エルヴェが心配そうな顔をして部屋に入って来た。手には見舞い用の花を持っている。


「ジェシカ、少しの間エルヴェと二人で話したいから、部屋の前に居てくれる?」


「分かりました。何かあったら声を掛けてください」


ジェシカに部屋から出てもらいエルヴェと二人きりになる。これでいいだろう。誰かがいては用心深いエルヴェのことだ、本当の言葉など引き出せない。


「ねえ、エルヴェ。貴方なんでしょう?」


「……何がだ?」


「私が公爵様と話していたのを父に伝えたのは。それだけじゃない……夜会で私に近づいて来た人を父に伝え、父と共謀して縁談を潰していたでしょ?」


「……どうだろうな」


そう言ったエルヴェの口には笑みが浮かんでいる。だから私も蠱惑的な笑みを浮かべ嗤う。

この男は表と裏を使い分けるのが上手い。私の前でも本性を隠しているが、嗜虐的な目は隠せていない。


「だって可笑しいじゃない?あの父が、エルヴェだけは私の側にいても何もしないもの」


エルヴェの顔が残虐的で歪んだ笑みに変わった。これがエルヴェの本性だろう。


「このまま壊れて俺だけを見て、俺だけに縋ればいいのに。お前はいつも余計な事に気付いてばかりだな」


「だったら、私そっくりな人形でも作ったら?」


「それじゃあ面白くないだろう?優しくしながらお前を壊していけば、いつかは縋ってくると思ったが……」


エルヴェは、私が置いていた煙草を手に取り、口に咥えて火を付ける。いつもなら煙草の匂いに落ち着きを覚えるのに、今は不快に感じた。


「やはりお前は、どこまでも壊しがいがあるな」


エルヴェと私は見つめ合ったまま、お互いに歪んだ笑みで嗤う。


「私を相手に享楽にふけるのはやめてくれない?ただの悪意にしか感じないから」


「……まあいい。今日はこのくらいで帰る」


エルヴェは歪んだ笑みを消して、いつもの穏やかな顔に戻る。本当に器用なものだ。そして見舞いの花を私の側に置いて帰っていった。


「エルヴェ様が持って来てくださった花、凄く綺麗ですね。どこに飾りましょう……あれ?」


「どうかした?」


「一輪だけ、なんだかお見舞いの花には見えなくて……何の花かは分かりませんが……」


その花を見ると毒々しい紫の花だった。


「ジェシカ、その花だけ私に頂戴。他の花は寝室以外だったらどこでもいいから」


「はい、分かりました」


ジェシカから紫の花を受け取り、しばらく花を眺める。

本当に悪趣味な男だ。『死んでも離れない』という意味の花を紛れさせるなんて。


私は紫の花を握りつぶし、目眩の酷さにソファに沈み込む。胃の中には何も無いのに、酷く吐き気がする。












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