動き出す私の時間
※誤字、脱字多かったらすみません。
……今夜は月が雲に隠れてよく見えない。
夜会を抜け出し、人気のない庭のベンチに座り上を見上げる。
人が多い所は嫌いじゃない。だけど、虚像や虚言、虚構が溢れていて少しだけ疲れるのだ。
煙草のほろ苦さが恋しくなるが、流石に公爵家の夜会で抜け出した上、煙草を吸うわけにはいかない。
今日の夜会は若き公爵家当主のルーファス・ラスウェル様の婚約者探しも兼ねている為か、女の戦いがあちこちで起こっている。
ラスウェル様は優良物件だから仕方ないだろう。
まだ三十歳手前の若さで公爵家当主、そして優秀。誰とでもきさくに接する親しみやすい性格。
濃い茶色の髪と瞳、精悍な顔立ちで、垂れ目のせいか大人の色気が凄まじい。少し生やした顎髭は令嬢達には不評だが。
何故そんな人物が結婚もせず、婚約者もいないのか。噂では、昔、婚約解消をしたと聞いた事がある。
「誰だ?こんな所で感傷に浸ってる阿呆な令嬢は」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、今夜の主役である人がいた。すぐさま立ち上がり、軽くスカートを持ち上げ頭を下げる。
「あー……正式な場所じゃないから畏まらなくていい。思う存分感傷に浸ってろ。俺はただ、一服しに来ただけだからな」
そう言って公爵様は私が座っていたベンチに煙草を取り出しながら座った。この場合、私はどうするべきなのだろう。会場に戻った方がいいか。
「立ってないで、お前も座ったらどうだ?元々お前が最初に座ってたんだから」
「……はい。失礼します」
これは下手に断らない方がいいだろう。
公爵様の隣に失礼にならない程度の距離を空け座る。横から煙草の匂いがして、落ち着いてしまう。
「……お前も煙草吸ってるのか?やめとけ、子供が吸うもんじゃない」
何故分かったのだろう。基本的に外に出る時は匂いには気をつけているのに。そして、私は成人しているのだが。
「なんで分かったって顔してるな。俺が煙草を取り出した時、一瞬だけ物欲しそうな顔してたぞ」
「……申し訳ありません」
「お前、そのままだと人生損するぞ」
結構ハッキリとものを言う人だ。
煙草の煙を燻らせながら私を見る公爵様。私はぼんやりと見つめ返す。
「……全部諦めて、超然としてても何も変わらないぞ」
この人は、どこまで知っているのか分からない。
でも、私にどうしろと言うのか。あの娘と似たような事を言う。この人も、私に歩み寄れとでも言うのだろうか。
「子供なら子供らしく、助けを求めればいい」
「……誰に求めろと?」
助け?そもそも私は助かりたいのだろうか。
何から助かりたいのだろうか。
「目の前に居るだろうが。助けてくれそうな悪い大人が」
そう言って、公爵様は不敵な笑みを浮かべる。
どうしてこんなにも泣きたくなるのか分からない。
挨拶くらいしかした事がない、何も知らないこの人の言葉に何故。
そうか……私はずっと……。
うまく言葉が出てこない。いつもの様に笑えない。
「俺は手を取ろうとしない相手に、手を差し伸べ続けてやるほど優しくないぞ。……助けて欲しいか?」
この人の言葉を信じるなんて、正気の沙汰じゃない。ただの戯れかもしれない。でも……
「……て…ださ…い」
「ん?」
「……たすけてください」
「……よく言った」
気づいたら、私は助けを求めていた。
涙で視界がボヤけ、顔がグシャグシャになっているのが分かる。ボヤけた視界の中で公爵様が優しく笑い、大きな手で頭を撫でられ、また涙が溢れた。
「ったく……俺もとんでもなく面倒くさい女に惚れたよなあ……」
公爵様が何かを言った気がしたが、声が小さくて聞き取れなかった。
いつのまにか雲は無くなり、綺麗な月が空に浮かんでいた。
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