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ルネス殿下とのお茶会が終わり、王宮にいるファミア様に謁見する。あの言葉以来、ファミア様は私との距離を測りかねている様だ。
「ナディアちゃん、久しぶりね。元気にしてた?今は大変な時期だけど思い悩まないでね」
「ファミア様、この間はすみませんでした。……貴女はあまりにも眩しすぎるのです。優しく聡明で、本当にファミア様が母親だったらと思ってしまいます。ですが、私の母親は違う。まるで陽炎のようなあやふやな存在で、貴女の前ではそれが消えてしまいそうになるのです」
「ナディアちゃん……」
「私は忘れてはいけない。常に微笑み続け、静かに狂い死んでいった母を。でなければ母は本当の意味で死んでしまう」
「死なないわ。ナディアちゃんのお母様はちゃんとナディアちゃんの中で生き続けるわ」
「何故、言い切れるのです?」
「ナディアちゃんは優しいから、お母様を忘れる事は無いわ。だって、ナディアちゃんはお母様が大好きだったのでしょう?」
「……ええ、優しく哀れな母親でしたが、私は母が……好きでした」
ただ一つ、歪まず私にある純粋なモノ。形のないものばかりが大切になってゆき、私の中から今にも消えてしまいそうな感情。
「ほら、だから大丈夫よ。その想いは私にも誰にも消せはしないわ」
ファミア様は微笑み、私の頭を抱え込み抱きしめる。何度も何度も頭を撫でて笑う。私の母親が昔してくれていた様に。
この温かさはルゥと似ている。思わず私はファミア様に抱きつこうとしてしまった。
何故この狂った世界でルゥ達は狂わずにいられるのか。純粋で、悪意の欠片すら感じない。いや、いつか私がきっとこの家族を狂わせる。
大切にしたい反面、全て壊したくなる。何も持っていなければ私は傷つかない。それでも手放せない何か。私はルゥの家族をどうしたいのだろうか。
『お前の家族は私だけだよ、ナディア』
「すみません、ファミア様。醜態をお見せしてしまって」
耳元であの男の声が囁いた気がして、温かい温もりから私は逃げる。死んでもなお私を追いかけてくる黒い影。私の足を掴んで離さない、私を引きずり込もうとする幻影。
私はファミア様に頭を下げ、公爵家へと帰る。私はファミア様達と家族になってはいけない人間なのではないか?ルゥの家族は綺麗で眩しすぎるのだ。私は心の奥底でそれを汚したいと思ってしまう。なんと浅ましい欲だ。
溜息をつき前髪をかきあげ、結われていた髪を解き鼻で自分自身を嗤う。公爵家へと着くと見覚えのある馬車が止まっていた。ブランセット家の紋章が入った馬車。エルヴェはもう居ないというのに嫌な予感がする。
屋敷にはいると、執事のジェイがエルヴェの弟であるディランが応接室で私を待っているという。私は解けた髪のまま応接室へと向かう。ディランと会うのはエルヴェの葬式以来だ。忘れもしない、あの時のディランの憎しみの篭った視線。私はなんだか面白そうな事になりそうだと鼻歌を歌う。
応接室へと入るとあの日と同じ瞳で私を射抜くディランがいた。お互い無言だが、私は口をニィッと開く。するとディランは何も言わずに、私の胸ぐらを掴む。
「……ずっとナディア嬢に言いたかった。兄を殺したのはアンタだ!!アンタさえいなければ、兄は……エルヴェ兄さんは生きていた筈なのに」
「責任転嫁はやめてくれる?私は何もしていない。寧ろ、父とエルヴェの作った鳥籠の中に閉じ込められてただけ。」
「……っく!!なんで、アンタに兄さんは執着なんかしたんだ!!」
「死人に口無し。私にあたっても何も分からないし、解決もしない」
「ナディア嬢!!アンタのせいで兄は狂ったんだ!!いつか公爵様もアンタのせいで狂っていく!!少しでも罪悪感があるなら婚約を解消して身を引け!!」
「……ディラン、私は身を引くつもりは無いよ。例えそれが誰かを狂わせたとしても」
ディランは舌打ちをし、胸ぐらを掴んでいる手を引き寄せて私に口付けをする。私思い切りディランの唇を噛み、ディランを思い切り突き放す。
私は護身用に渡されていたナイフをドレスから出し突き飛ばされて床に手をついているディランの手を串刺しにする。
「がっ……!?」
「……なんのつもり?」
「アンタは、ずっと鳥籠の中にいれば良かったんだ……」
ディランの理性の中に狂気を感じる。エルヴェとはまた違った何か。私はナイフで床に縫い止められたディランの前に視線を合わせる様に座る。
ディランのエルヴェそっくりな顔を懐かしく見下す様に覗き込む。ああ、ディランも狂った人間の一人か。それに気づいていないのが厄介だ。
「ふふっ」
「何がおかしい!!」
「なあに?なんか文句でもある?私はディランと遊んであげただけなのに。ねえ、わかるよね?悪いのはディランだよ?……なあに?その顔。あなたもエルヴェみたいに私を怒らせるの?いいよ。そっちがそういうつもりなら、私も本気でいくから。覚悟してね?」
私はナイフを捻るように抜く。ディランは呻き声をあげながら私を睨みつけ何も言わず帰って行った。




