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※誤字脱字多かったらすみません!
「愛ねえ……」
ルゥが寝室から出て行って少ししてから起き上がり、先程のルゥの言葉を口にする。煙草を咥え火を付け肺を煙で満たす。いつもより苦く感じる煙草の味に眉を寄せる。
ルゥが囁いた愛の答えが見えなくて答えを探して心の中を彷徨う。煙草の煙を燻らせ、窓から見える月を見上げる。ファミア様が言っていた信じたものが愛というのならルゥの愛を信じたら、それが『真実の愛』なのか?私が知る限り『真実の愛』とやらは厄介なものだ。考えるたび浮かんでは消える思考。まるで浮かんでは消える月の様だ。
少なくともルゥに好意は抱いている。私は怖いのか?いずれこの好意が歪んでいき『愛』の形になるのが。ああ、この好意をグチャグチャにして壊してしまいたい。ルゥを傷つける前に、歪ませてしまう前に。
形の無い感情は恐ろしい。確かなものなんて一つもないのだから。昼間のルゥの『家族』を見て思った。この『家族』の愛の形は何なのだろう。いや、正しい形なんて無いのかもしれ無い。無数の人間がいるのだ、人それぞれの形がある。私の中で形の無いモノばかりが大事になっていく中、私とルゥはどんな形に収まるのだろうか。
頭痛がする。煙草の火を消し、ベッドへと潜り込む。ルゥの『愛してる』の言葉が頭から離れないが直ぐに睡魔がやってくる。私はその睡魔に抗わず夢の中へと沈む。夢の中でも囁くルゥの愛の言葉の答えを探して闇の中を彷徨う。
ずっと空いていた胸が痛い。此れはルゥが残した深い痛み。ずっと凍て付いた心が溶け出して、痛い。ねえ、ルゥ。ずっと強がってただけなの。本当は怖い、怖いよ。ルゥが私を弱くした。
ルゥの『愛』は何?答えを教えて。
「……ディア様……ナディア様!!朝ですよ」
「おはよう、ジェシカ。良い天気だね」
「ナディア様……外は土砂降りですが……?」
「雨が好きなの知ってるでしょう?」
「『アレ』は駄目ですよ!!」
「どうしても駄目?お願い、ジェシカ。久しぶりに雨に打たれたいの」
「……少しだけですからね」
「ありがとう、ジェシカ」
簡素なワンピースを着て庭に出て久々に雨に打たれる。雨は好きだ。思考が青に呑まれ、全て雨のせいに出来るから。まるで透明人間になった気分になるから。
私が雨に濡れていると、慌てた様子でルゥが走ってくる。
「風邪でも引いたらどうするんだ!?戻るぞ」
「夜中に乙女の寝室に侵入するのもどうかと思うけど?」
「おまっ、起きてたのか……」
「さあ?どうだろう、夢だったのかもね」
ルゥに手を引かれ屋敷に戻り、お風呂に入れられる。お風呂から上がると、ルイーズ様とルゥが居なかった。何でも王城に向かったとの事。面倒をかけてしまって申し訳ない気持ちになる。
「ナディアちゃん、暗い顔しなくても大丈夫よ。馬鹿陛下から私達が守ってあげるから。普通甥っ子の婚約者を欲しがるのがおかしいのよ!!」
「私、暗い顔していましたか?」
あり得ない。そんな顔自分でもした覚えがない。閉じ込めなければ。溢れ出す感情に鍵をかけないと。誰にも悟られない様にしなければ。今までそうして生きてきたのだから。ファミア様には申し訳ないが信じられない人の前では私は仮面を被らなければ。敵か味方か分からないうちはそうしてきた。
「もう、貴女は私達の娘よ。仮面を被らないで良いの、私達は貴女の味方よ!私はもうナディアちゃんのお母さんなんだから」
「……お母さん」
その言葉にグッと言葉が詰まる。私の母は一人だけだと思っていた。継母は私の母では無かった。だが、こんな形でまた母が出来るとは思ってはいなかった。此れがルゥの『家族』。私もこの『家族』に入れるのだろうか。入っても良いのだろうか。
「さあ、その綺麗な髪を乾かして朝食にしましょう?」
「はい……」
ジェシカに髪を乾かしてもらい、緩く髪を結い上げる。シンプルなドレスを着てダイニングルームへ向かう。
「お待たせして申し訳ありません」
「ナディアちゃん、もっと砕けた話し方で良いのよ?」
「ふふっ、ファミア様もルーファス様と同じ事を仰るのですね」
ルゥは顔はルイーズ様にそっくりだが、性格はファミア様に近いと思った。笑いながら席へと座る。朝食を食べながら雨の降る外を見つめる。
「ナディアちゃん、さっき雨に打たれてたけど何かあるの?」
「雨に打たれるのが好きなんです。思考が止まって私という自身の存在が消える様な感覚になれるので」
私が雨に溶け消えていく感覚。他人には理解できないだろうが私はこの行為が好きなのだ。普段はごちゃごちゃと止まらない思考が停止し、ただの心がない器になる感覚。小さな頃からずっとしていた行為だ。今更辞めるなんて出来ない。
「ナディアちゃん……それは一種の自傷行為よ……自分自身を消すなんて」
「申し訳ありませんが、辞める気はありません。私にとっては大事な事なんです」
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