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※誤字、脱字多かったらすみません。
ザアアアァァァーーーーー……
今朝は雨みたいだ。雨音で目が覚め、雨音を聞きながら夢と現実の狭間で微睡みシーツに包まる。出来る事ならばずっとこの時間が続けば良いのに。
ああ……でもこの時が続けばルゥやジェシカ達に会えないのは嫌だし、ストレスの存在がない世界は不健全だ。優しさや思いやりだけの暖かな環境で生きる人間はどんな生き物よりも弱い存在になってしまう。言うなれば免疫力が無いのと一緒だ。
だから私はこの不思議な微睡みを程々にベッドからのろのろと起き上がり、伸びをする。サイドテーブルから煙草を手に取り窓の縁に座り、窓を雨が入らない様に少しだけ開く。
煙草に火を付け、吹き出した煙を窓の隙間から逃がしてやるが、雨粒に押し潰されてもなお空中に溶けるまで漂う姿は見ているだけで面白い。空気に溶けて消えるくらい脆いくせに、強かに微量な毒を撒き散らす煙草の煙。
煙草を吸い終わり、私は机に向かう。
ある二人の人物以外にも手紙を書かなければいけない人がいた。ルゥだ。口で言ってしまった方が早いのだが、下手をしたら怒られた上に軟禁されかねない。だったら手紙を書いておいて、後で手紙をジェシカかジェイに渡して貰えば良い。
私はルゥに今回やろうとしている事、して欲しい事を細かく書いていく。書いた文章を読み返してみると、なんとも頭のネジが外れたおかしい計画だ。それくらいしないと意味が無い。
だが、ルゥならこの後始末をしてくれるだろう。恐らく私はこの計画の後は動けないか、死んでるかのどちらかだから。まあ、死ぬ気なんて更々無いが。
死んだら終わりだ。次なんて無い。
私の人生は一度きりで、生まれ変わりがあったとしてもそれはもう私ではない。
もう一度手紙を読み返すと、ルゥへの手紙が何故だか上司に提出する書類に見えてきた。これでは少しあんまりか。だけど、何を書けば良いのか分からない。恋愛小説の様な甘ったるい文書でも書けば良いのだろうか。
駄目だ、ルゥは一発で見抜くはず。ちゃんと私の言葉で書かないと意味がない。何度も書き直して書けた言葉はたったこれだけ。
『愛か恋か執着なんかなんて分からない。でも私はただ、貴方の傍で生きていきたい。欲しいものは唯一つ、唯一つ貴方だけ』
もっと気の利いた言葉を書ければ良かったが、私らしい文章だ。この一文を読んだルゥはどう思うのだろう。呆れて少しはこの計画に対する怒りが収まってくれれば良いのだが。
手紙をシンプルな便箋に入れて机の引き出しに仕舞う。私の誕生日までこの手紙には眠っていて貰おう。
手紙を入れた引き出しの中に、小さな箱が入っている事に気付き取り出してみる。シンプルな装飾がされた小さな箱。此処に仕舞っておく私も私だ。
箱を開けると、母が死んだ日の私の誕生日にプレゼントしてくれた蝶をモチーフにしたペンダントだった。一度も付ける事をしなかったペンダント。
私は鏡の前に立ち、蝶のペンダントを首に付ける。少し古いが中々お洒落だと思う。これを身につけて誕生日に行く事にしよう。
ずっと、付けられなかったペンダント。これを見ると母の死の光景が浮かぶので遠ざけていた。だが、今になってみると案外簡単に手に取ることが出来る。私も大人になるにつれ変わったという事だろう。
青い蝶のペンダントの意味は『幸運・神の使いが来て願いを叶えてくれる』だったか。私は神に会ったことが無いから存在するかどうかは知らない。だが、私の本当の願いは私自身の力で叶えてみせる。神なんて不確定な存在はお呼びじゃ無い。
そして、装飾箱から前にエルヴェから贈られた蝶の髪飾りも出して髪につければ完璧だ。
死者達の贈り物を身に付け生誕を祝うとはなんともおかしな話だ。だが、私はこれで良い。
私の当たり前は大勢の当たり前じゃない。
大勢の当たり前は私の当たり前じゃない。
私は私だ、他の誰でも無い。
一通り装飾品を実際に付けて確認し、装飾箱に仕舞う。もう全ての準備は整った。後は数日と迫った私の誕生日を待つだけだ。
フローディア、私達の舞台は整えたよ。だから私を失望させないようにちゃんと私の手の上で踊ってね。
あの人から返ってきた手紙も、文章から悩んでるようだったが私の誘いに乗る気配を感じたので大丈夫だろう。
お祖父様にも出した手紙のおかげで、私の誕生の食事会は私とフローディアの二人っきり。邪魔が居ない分、思う存分楽しめそうだ。
フローディアの結末は私の掌、私の結末も私の掌。なんと重くて安っぽいのだろうか。いずれは誰しも死んでゆくのに、どうして自ら死に飛び込むのだろう。無意味すぎて分からない。
まあ、無意味なのは私もそうか。
自らも死に近い場所に飛び込むのだから。
だから人間は訳が分からなくて面白い。




