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※誤字、脱字多かったらすみません。
何故こんな夢を見るのだろう。
昼間に見た子供のせいか、それともルゥとの会話のせいか。
目の前には何も知らず、変わらない日常が明日も来ると疑いもしない二人の子供が幸せそうに笑っている。男の子が頬を染めて笑い、女の子の髪に綺麗な花を挿す。女の子も恥ずかしそうにはにかむ。
この二人は過去の私とエルヴェ。
お互いが変わってしまう前の記憶。
「ナディア、もし悪い人がいたら僕が守ってあげるよ」
「エルヴェ、嬉しいけど無理だよ。子供だし……」
「そうだけど……大きくなるまで待ってて」
「……わかった。ずっとは無理かもしれないけど、エルヴェのこと待ってる」
「約束する、絶対に守るから」
小さな子供の些細な約束。
信じて疑わなかった約束。
陽だまりの中、二人はおでこを合わせながら指切りをして笑い合う。微笑ましい光景、苦い記憶。
瞬きをした瞬間、私は伯爵家の自室のソファに座っていた。目の前には幼い私が佇んでいる。
幼い私はゆっくりと語り出す。
「お互い変わってしまってもエルヴェは切り捨てられなかった。だからあの時、忠告だけで済ませた。優しい思い出を覚えていたから、忘れられなかったから」
それ以上言わないで。
「わたしは」
「……やめて」
「エルヴェが」
「やめて」
「 」
それは、切り離せずに鍵を掛けた感情。
「お嬢様、起きてください」
揺り起こされて目を開けると、眉間に皺を寄せて心配そうな顔をしたジェシカが私を見下ろしていた。
体が痛く自分の状態を見ると、どうやらベッドではなく床に座って眠っていたらしい。
「嫌な夢でも見ましたか?……魘されていました」
「……魘されてた?」
「泣いています」
指摘されて自分が涙を流している事に初めて気付いた。だからジェシカがこんな顔をしているのか。
溜息をつきながら涙を拭い立ち上がるが、軽い目眩がして横のベッドに手をついてしまう。
ジェシカが慌てて私を支え、ベッドの上に寝かせて額に手を当て熱を測る。
「熱があるみたいです。お医者様を呼ぶので、今日はゆっくり寝ていましょう」
「医者を呼ぶ程の事じゃないから呼ばないで。大人しく寝てれば治るでしょう」
「ですが……」
「ジェシカ、お願い」
「……分かりました。ですが、少しでも酷くなる様だったら直ぐにお医者様を呼びますからね」
ジェシカには我儘を言って甘えてしまう。暖かくてホッとする何か。どこか母を重ねてしまっている自覚がある。ジェシカの動く音を子守唄に再び目を閉じる。
熱のせいか頭がぼんやりして思考が滅茶滅茶になり涙が勝手に溢れる。私はここに来てからどんどん弱くなっている。あの檻から抜け出せて嬉しい、これは本心だ。だけど私を縛るものが無い今、私の感情が溢れる事が増えてしまった。制御が難しくなってきている。
自分でも、感情のまま行動したらどうなるのか予想がつかない。もしかしたら父の様になってしまうかもしれない……それが……怖い。
「お嬢様、今は何も考えず眠りましょう。大丈夫です、私がそばに居ますから。もし怖い夢を見たら起こして差し上げます。大丈夫、大丈夫ですよ」
…そう、大丈夫。私は大丈夫。
そのまま私の意識は夢も見ずに暗闇の中に堕ちた。
ーーーーーーーーーー
屋敷の人達の少し慌てた様な声と、女性の耳障りな甲高い声が聞こえて目が覚める。何事かと思いベッドから体を起こすと、ジェシカに止められる。
「駄目ですよ、お嬢様。無理に起きないでください」
「それより何かあったの?かなり騒々しいけど」
「あの……ルーファス様の元婚約者様であるカロリーナ様がいらっしゃって、ルーファス様と話がしたいと」
「ルゥはいないの?」
「ええ、所用で出掛けていて帰るのは夜になるかと……帰そうとしているのですが、折れてくれないのです」
それにしても騒がしい女性だ。この調子だと夜まで騒ぎ続けそうな勢いだ。痛む頭を押さえて、カロリーナ様を応接室に通すように指示をする。ここは私が対応した方が早い。
心配する執事のジェイや使用人達に微笑み、二人っきりで話したいから部屋に入らないようにと言っておく。
部屋に入ると、藍色の髪を優雅に結わえた妙齢の女性が紅茶を飲んでいた。ふむ、私が部屋に入っても目を向けるだけで立ち上がりもしないか。
「初めましてカロリーナ様。私はルーファス様の婚約者である、ナディア・エヴァンズです」
「単刀直入に言うわ。婚約者の地位を降りてくれないかしら?」
この女は頭がおかしいのだろうかと首を傾げてしまう。そんな私の反応が癪に触ったのか、目を吊り上げヒステリックに騒ぎ出してしまった。頭が痛いのでせめて静かに騒いで欲しい。
「どうせ、ご自慢の顔を使って優しいルーファス様を誘惑したのでしょう?穢らわしいわ、貴女みたいな売女はさっさと婚約者の座から降りなさい。私の方が相応しいわ」
ああ、頭が回らないせいで感情が止められない。
「今すぐ、その煩い口を閉じないと酷い目に合わせるよ?」
エルヴェが最期に思い出した約束。
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