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夢の中での邂逅

※誤字、脱字多かったらすみません。




これは夢だ。


死んだ母が椅子に座って、十年前と変わらない顔で微笑んでいる。ゆっくりと周りを見ると、母が首を吊った部屋だ。悪趣味な事に、記憶にあるあの日と全く変わらない。


それとも、私も死んだのだろうか。


母は何も言わずに微笑んでいるだけだ。私は母の前に椅子を置き、向かい合うように座る。しばらく母の懐かしい顔を眺め、記憶の中の母と照らし合わせる。


母はいつも微笑んでいた。いつも優しかった。

でも、いつも私を通して父を見ていた。私を見ているようで、見ていなかった。


……それでも私は母が好きだった。


「ねえ、お母様。私はお母様が好きだったの。ううん、今でも好きよ」


目の前の母は何も答えない。幻なのだから仕方ないだろう。だが、記憶の中にいた母が幻であれ目の前にいるのだ。少しくらいはいいだろう。


「お母様は逃げればよかった。父や私なんて捨てて逃げればよかった、死ぬ必要なんて無かった。……まあ、私の意見だけど」


父に拘らず、新しい未来を歩めばよかった。例えそれが難しかったとしても、死という逃避などする必要がなかった。逃げたお母様には色々な未来があったかもしれない。


死を選ぶのは本人の自由だ。だが、押し付けるつもりは無いが、少なくとも私は生きていて欲しかった。


視線を自分の手元に落とすと、流石私の夢の中だ。

煙草をいつのまにか握っていたので、口に咥えて火を付ける。肺を煙で満たし、ゆっくりと吐き出す。


「父や私を捨てて逃げればよかった。でも、お母様が死を選んだ時、私はお母様に捨てられたとも思った。矛盾していて理不尽でしょ?……感情って面白いよね」


感情はままならない。いつも私は答えなど無いのに、心の中で自問自答を繰り返す。

何が正しいとか、何が悪いかなんて、結局本人の決めつけでしかないのに。


「お母様が自殺したのは事実。私が出来るのは解釈だけ。真実なんてどこにも無い」


幻の母を、私は煙草の煙を燻らせながら気怠げに見つめる。あるのは静寂だけ。


その時、夢の中だから煙草の匂いはしなかったのに、仄かに煙草の匂いが鼻を掠めた。


……そろそろ時間なのだろう。


私は吸っていた煙草を握りつぶす。熱さも感じない。あるのはどんどん強くなる煙草の匂い。ゆっくりと立ち上がり、母に近づく。母は変わらず私を見て優しく微笑むだけだ。そんな母を私は抱きしめ、耳元で囁く。


「お母様……また夢の中でね」


「……ナディア」


耳元でお母様の泣きそうな声が聞こえた気がしたが、目の前が暗転してしまう。


暗い世界でお母様の声とは違う声が聞こえた。

男の人の声だ。この声は誰だろう。

父では無い。エルヴェの声でも無い。でも、この声は最近聞いたことがある。そして、煙草の匂い。


ああ……本当に来てくれたのか。


そんなに悲痛な声で私の名前を呼ばないでほしい。

私はまだ死んではいない。

真っ暗で何も見えない。でも私は怖くは無い。

声のする方へゆっくりと歩き出す。少しずつ声が大きくなってきている。



きっと、出口は近い。




ーーーーーーーーーー




「ナディア!!目を覚ませ!!」


酷く重い目蓋を持ち上げると、公爵様が悲痛な面持ちで私の名前を叫んでいた。やはり暗闇で聞こえていた声は、この人だった。


「ナディア!!今すぐここから出してやるから、絶対に死ぬな!!」


そんな泣きそうな顔をしなくても私は大丈夫だ。私は自分で言うのもなんだが、結構しぶといのだ。


公爵様は私を壊れ物を扱う様に抱き上げて部屋から出ようとするが、やはり父が扉の前に立ち塞がる。


「公爵様!!流石の公爵様でも、人の家に無断で上がり込むなど許されない!!今すぐナディアを放して帰ってくれ!!」


「貴方は狂ってる!!虐待で実の娘を殺すつもりか!!」


「私はナディアに罰を与えただけだ!!殺すつもりなんてあるわけないだろう!!」


「この状態のナディアを見て、はいそうですか、なんてなるわけないだろう!!ナディアは公爵家で保護する!!全ての許可は前伯爵当主から貰っている!!早く医者に診せたい、退いてくれ!!」


「父の許可だと……」


父は少したじろいだ様子だったが、それでも扉の前から退こうとしない。そんな父に、公爵様は只でさえ苛ついた様子だったのだが、完全に堪忍袋の緖が切れたみたいだ。


公爵様は一旦私をベッドに降ろしたかと思うと、父に近づき思いっきり父の顔をぶん殴った。公爵様は身長が高く、鍛えているのかしっかりとした体格をしている。父は線が細い体をしているせいか、公爵様に顔を殴られて面白いほど吹っ飛んだ。


公爵様はまた私を壊れ物を扱うように抱き上げて、今度こそ部屋から出た。


「じ……しか」


「どうした!?」


「じぇ……し、か」


「ジェシカ?わかった、ちゃんとそいつも一緒に連れ出す。約束だ」


「あ……り……と」


私の言いたい事は伝わったようだ。ジェシカも連れ出して貰えるなら大丈夫だろう。安心したせいか、酷く眠い。少し疲れた。



温かな腕の中、煙草の匂いに包まれて私は目を閉じる。



思わず歪んだ笑みがこぼれる。



私は賭けに勝ったようだ









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