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緋楽盈月〜和風異世界で獣の子供預かってます〜  作者: 流灯
一章 真摯に学べこの異世界
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病気

十二歳の夏。

そう、十二歳になったのだ。

もうそろそろ子供と言われるのも終わり。

緋楽では十五歳が成人だからね。


鈴の事はというと。

実は、まだ両親にも言わず、誰にも内緒で保護している。

両親に言って正式に飼ってもいいのだろうけれど、もし駄目だと言われたらもう鈴と会えなくなってしまうかもしれない。

それが恐かったし、切っ掛けが無かったというのもある。


ちなみに、鈴はこの六年間で結構成長した。

もう頭から尾まで三メートル程あり、中型の魔物なら成体と言える大きさにまでなった。

翼も大きくなり、ある程度は飛べるようにもなった。


餌に関しては野生動物を狩って、私が解体して料理したりもしている。

体が大きくなるにつれて食べる量も多くなっている。

私がどうしても解体とかできない時は自分で狩ってそのまま食べている。

じゃあ普段から解体とかしなくてもいいではないかと思うが、調理されたものの方がおいしいらしい。

天獣のくせに舌が肥えてやがる。

まあ、べつにいいのだけれど。


そんなある日の朝。


「おはよう。」


昨日食べたぼたん鍋が美味しかったのでまだ上機嫌な私である。

その猪はもちろん私が狩ってきたものだ。

でも、いつもならおはようと返してくれる母の声が無い。


不思議に思いつつも居間に行く。

そこにも母は居なくて、台所を覗いてみるもやはりいない。

ふと嫌な予感がしたがそれを振り払って両親の寝室へ行く。

するとそこには予想外の光景があった。


母が布団に寝ているのはいい。

寝過ごしただけかもしれないし。

だが、その母はどこか苦しそうで。

隣に座っている父も心配そうに母を見つめている。


「え⋯⋯?」


思わず漏らしてしまった声に二人とも反応して此方を向いた。


「咲夜⋯⋯。」


そう弱々しく言ったのは母だ。

私は母のそばまで行った。


「母さん?」

「大丈夫よ、すぐに治るわ。」


父の方を見ると、悲壮感たっぷりの顔をしていた。


「とりあえず医者を呼んでくる。」

「ありがとう。悪いわね。」


父は医者を呼びに駆けていった。


「母さん、何食べたい?」

「んー、やっぱりお粥かしらね。」

「分かった。ちょっと待っててね。」

「あら、作ってくれるの?でも、まだ料理なんて⋯⋯。」


こちとら前世合わせて三十年近く生きてるんだぞ。

お粥くらい作れるわ。

それに、昨日のぼたん鍋の残りもあるしね。

あ、そういえば、母がこんな事になったのってあの猪の所為じゃ無いよね?


早速お粥作りを始める。

と言っても、昨日のぼたん鍋があるからそれほど苦労はしない⋯⋯と、思っていた時期が私にもありました。


ご飯どうやって炊くのーーー!!!

ぐっ、炊飯器でしか炊いた事ないぞ。

どうすれば良いのだ。

鈴の餌を調理するのは基本焚火で焼いたりちょっとした調味料つけたりするだけだったし。

あ、そうだ。

お隣のおばちゃんに助けを求めよう。


「おばちゃーん!ご飯の炊き方教えてー!」


うん、自分でも滅茶苦茶な呼び掛けだと思う。


「あらあら、咲夜ちゃん朝からどうしたの。」


出てきたのは四十代くらいの茶髪のおばちゃん。

そのおばちゃんに今までの経緯を説明する。


「まあ、そうなの。私で良ければお粥なんていくらでも作ってあげるわ。」

「ありがとう!」


よっしゃ!

やっぱりこの世界の人達って優しい!

今回はこの優しさに頼らせてもらう。


それから暫くしてぼたん鍋粥が出来た。

おばちゃんめっちゃ手際良かった。

流石だね。

そして私もご飯の炊き方とか基本的な台所の使い方とかは覚えた。


「ありがとうおばちゃん!もしもおばちゃんに伝染ったらいけないから私が持っていくね。今度お礼するから!」

「お礼なんていいのに。咲夜ちゃんはまだ子供だしね。」


そんな訳にはいきません。

助けてくれたのだからお礼はきちんとしなければ。

そこは優しさに甘えてはいけないと思うから。

それにもうすぐ子供じゃなくなるんだぞ。


早速お粥を持って母の所まで行く。


「母さん、お粥できたよ。お隣のおばちゃんに作ってもらったの。」

「あらそうなの。今度お礼しないとね。咲夜もありがとうね。」


ここでご飯の炊き方が分からなかったからおばちゃんを呼んだなんて言えない。


「さ、母さん食べて。」

「ありがとう。」


そう言って母は一口ずつゆっくりとお粥を食べていった。

そのお粥が無くなった頃、父が帰ってきた。


「紅葉、お医者様を連れてきたぞ。」

「あら、ありがとう。」


その後お医者さんが母にいろいろ聞いたりよく分からない道具を使ったりして調べていった。


「で、紅葉は⋯⋯。」

「これは魔弱病ですね。」

「魔弱病?」


そんな病気知らないぞ。

前世では無かったがこの緋楽にある病気なのだろう。


「魔弱病というのは、体内の魔力が弱っていく病です。最終的には魔力が無くなり死に至りますが、魔力量が多い人ほど死ぬまでの期間が長くなります。対処法としては光秋桜を使った薬を飲む事ですね。それで治ります。」

「光秋桜だと!?そんなもの⋯⋯。」

「光秋桜って?」

「そこそこ希少な植物で、この町ではまず手に入らない。」

「そんな!じゃあ、どうすれば⋯⋯。」

「ここから一番近い街、からたちノ街ならばあるでしょう。」

「枳ノ街⋯⋯。」

「分かった。俺が行ってくる。幸い貯えはそこそこあるから、これで買えるだろう。」

「待って!なら私が行く。」

「咲夜が⋯⋯?」

「うん。だって病気の母さんと私で何ができる?何が起こるか分からないんだよ?父さんは母さんを守っていて。私はまだまだ練習中だけど一応魔術は使えるし、行商人と一緒に行けばその護衛の人達だっている。枳ノ街でだって薬くらい売ってくれるよ。多少ぼったくられるかもしれないけど、今はそんな事気にしていられない。まあ、おつかいだよ。おつかいくらいした事あるよ?それが少し遠くなるだけ。」


じっと父を見つめる。

父もじっと見つめ返す。

そのまま数秒が過ぎ、折れたのは父の方だった。


「分かった。咲夜、お前に任せる。」

「ありがとう!」

「ただし、絶対無事に帰ってくる事。いいな?」

「うん!父さんも母さんをちゃんと守っていてね!」

「ああ、任せろ。」


私は前世の記憶があって、この二人が両親だという実感は薄かった。

けど、おそらくこの時からなのだろう。

この二人は私のかけがえのない両親で、失いたくないと思ったのは。

母を失うかもしれないという思いが、それを私に実感させた。


「なら、私はこれで。」


あ、ごめんお医者さん。

忘れてた。


「ああ、わざわざありがとう。お代はこれで良いか?」

「ああ。お大事にな。咲夜ちゃん、気をつけてな。」

「はい。」


お医者さんに頭を撫でられた。

くすぐったいな。


その後、私は急いで準備をした。

なにしろ行商人が行くのは明日なのだ。

それまでに準備をして同行の許可も貰わないと。

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