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緋楽盈月〜和風異世界で獣の子供預かってます〜  作者: 流灯
一章 真摯に学べこの異世界
3/48

祝福

産まれてから三年が経った。

そろそろ魔術を練習してみようと思う。

だが、その前に。

私にはやる事がある。

それは、今私の母、紅葉が私に着物を着せている事と関係している。


ここ緋楽の世界では、着物は正式な服装だ。

冠婚葬祭や行事の時に着る。

そして、何故私がそれを着ているかというと。

なんでも七五三らしいのだ。

緋楽でも男子は三歳、五歳、十五歳の時、女子は三歳、七歳、十五歳の時ににお祝いをする。

十五歳は成人である。


お祝いとは言ってもうちは平民なため、それ程お祝いらしい事はしない。

夕食のおかずが少し豪華になる程度だ。

だがそれとは別に、神社に行き、祝福をして貰う。

これは身分とか関係なく、王族貴族から平民まで、全ての人が受ける。


その祝福をされたからといって、特に何がある訳でも無い。

基本的には。

この祝福というのは護宮と関係していて、その際祝福してくれる天地あめつちが、次代の護宮に目をつけるのだ。

その目をつけられた者の事を若巫女と呼ぶ。


その若巫女は、ほんの少しだが魔力の質が変わる。

魔力が護宮のそれに似るのだ。

それは天地がその者に護宮の魔力や能力を使いこなせるかを確かめるためだと言われている。


ただし、先程特に何がある訳でも無いといったのは私が平民だからだ。

護宮や若巫女というのは基本的に王族貴族の中から選ばれる。

というのも、そもそも王族は初代護宮の家系で、貴族も過去の護宮の子孫達なのだ。


護宮が子供に遺伝する確率が四割程というのは、その目をつけられる確率である。

だが、子供が若巫女にならなかったからといって孫が若巫女にならない訳では無い。

むしろ、可能性は十分にあるのだ。


であるならば、何故平民も祝福を受けるのかというとそれは念の為、としか言えない。

稀にだが、平民から若巫女、ひいては護宮が出る事もあるのだ。

勿論護宮になれば貴族になる。


まあ、若巫女が平民から出るのは確かに珍しいが、そこまで確率が低い訳では無い。

0.1%程だ。

0.1%というと低いと思うかもしれないが、この世界では毎年何万人もの子供が七五三を迎えるのだ。

そうなると、毎年数十人はいる事になる。

そして、若巫女になれば仕事にはほぼ困らない。


と、母が着物を着せ終わっていた。

実は私は自分で着物の着付けもできるのだが、まだ三歳の子供がそんな事が出来たら怖いだろう。


「はい、できたわよ。咲夜、早速行こうか。」


母がそう言いながらにっこりと微笑む。


「うん!」




ということで、私は神社へやって来た。

緋楽の宗教は神道のような“天神教てんじんきょう”というものだ。


「あ!咲夜ちゃん!」


「ん?ああ、上総かずさ。」


この上総とは何度か遊んだ事があるのだ。

上総は落ち着いた桃色の髪を綺麗に結い上げており、その髪色によく似合う赤を基調とした可愛い花柄の着物を着ていて、普段から可愛い顔立ちが余計に引き立っている。

この上総、実は結構なお金持ちの家の子だったりする。

父親が大きな商会の会長なのだとか。


「咲夜ちゃん可愛いね!」


「いやいや、上総の方が可愛いって。隣に並びたくないくらいだよ。」


事実、上総自身の可愛さに加え、家がお金持ちなため着物やその他装飾品がかなり上質な物なのだ。

それに比べて私は近所の人から頂いた着物と安めの装飾品。

平民は基本的にお金にさほど余裕が無いのでこういう様に近所で助け合っている。

本気で隣に並びたくないのだけれど。


「えー、一緒に祝福して貰いに行こうよー。」


「いやまあ、別に良いんだけど⋯⋯。」


「よし、じゃあ行こう!」


そう言って上総が私の手を引いてこの町の神社へと向かう。

ちなみに、この周辺の集落や村には神社が無いので、そういった所に住んでいる者達はこの町へとやって来ていた。


暫く歩くと、神社が見えてきた。

結構人がいるな。

けど、これでもまだ少ない方なんだよね。

都とかはもっと多いだろうし。

とにかく、祝福を受けるための列に上総と一緒に並ぶ。


「祝福って、どんな感じなんだろうね!」


上総がワクワクが抑えられないといった様子ではしゃいでる。


「別に大した事じゃ無いと思うけどね。」


「そんな事ないよ!だって神様からの祝福だよ!すごくない!?」


んー、何が凄いのかよく分からん。

元現代日本人としては神様とか言われても実感無いし。


「あ、もうすぐ私達の番だね!」


上総の言葉に前を見てみると、確かに私達の番が近づいてきていた。

あと五人程か。

そう思っている間にも進んでいき、いよいよ私達の番になった。


「上総先にやってもらいなよ。」


「うん!」


上総が少し緊張した様子で歩いて行く。

可愛い。

私の幼なじみ可愛い。

あ、いや、別にユリとかそんなんじゃなくて、友愛?とか、そんな感じ。

とにかく、上総が祝福をしてもらっている。

一人一人あまり時間はかからないのだけれど。


時間は⋯⋯かからない⋯⋯あれ?長くない?

んんん?

どういう事だいこれは。

今までの子達はこんなに時間かかっていなかったじゃないかい?


その時、上総の魔力が少し変わった気がした。


え⋯⋯。

いや、ちょっと待って、上総がまさか⋯⋯?

自分が転生した時よりも驚いているんですけど。

私は前世に特に未練とか無かったのもあって、しいて言うならお気に入りの小説の続きが気になるくらいだったからすっと受け入れたのだけれど。

少し不自然とも思えるくらいに受け入れる事ができたのだ。


でも、もし上総が天地に目をつけられたとかだったら受け入れられない気がする。

私の可愛い上総が!

いや、私のではないか。


けど、上総が遠い人になりそうで。

まだ三歳だというのに別れるのは早すぎる。

そんな風に私が心配していると、上総が神官の人に何か言われて帰ってきた。


「ねえねえ!咲夜ちゃんきいて!私、天地に認めららたんだって!若巫女っていうのになったんだって!」


「⋯⋯⋯。」


今の聞き間違いだよね。

そうだよね。

そうだと言ってほしい!


「ん?咲夜ちゃん?」


「⋯⋯本当に?」


「うん!なんかね、将来期待できるとかってあの人に言われた。」


「はぁ⋯⋯。」


思わずため息がもれた。

ああ、上総がー、私の可愛い上総がー。


「あ、次咲夜ちゃんだから、早く行った方がいいんじゃない?」


「ああ、そうだね。」


とぼとぼと歩いて行く。


「はい、じゃあここに手をかざしてね。」


神官に言われた通りに大きめの水晶のような物に手をかざす。

するとかざした手から温かいものが入ってきたような感覚があった。

これが祝福か。


けれど、何故か懐かしい感じがした。

デジャブのようにも感じられた。

私は祝福なんて受けるのは初めてなのに。

そんな事を考えていると、神官の人に声をかけられた。


「はい、これで終わりだよ。次の子来てー。」


またとぼとぼと帰っていく。


「咲夜ちゃんも終わったんだね!お母さん達の所に戻ろう!」


そう言って上総が私の手を引いて駆けていく。

私もついて行くけど、やっぱり足取りは重い。


「はぁ⋯⋯。」


私と上総の母親が居る所に戻って来た。


「ねえねえお母さん!私、若巫女っていうのになったんだって!」


「「えっ⋯⋯。」」


二人とも驚いている。

そりゃそうだろう。

なんせ一厘の確率なのだから。


「えっと、上総、それは本当?」


そう上総の母が問う。

確認したくもなるよね。


「うん!あの人が言ってた!」


そう言いながら神官の方を向いた。

ここでようやく信じた様だ。

いや、落ち着いたと言うべきか。


「そうなの。ならお祝いしないとね。咲夜ちゃんも落ち込まなくてもいいのよ。若巫女なんてなれる人ほとんどいないんだから。 」


落ち込んでいる理由を誤解されてしまったか。


「あ、いや、落ち込んでいるのは、その、上総と離れる事になるかもしれないのが、嫌で。」


「あら、そうだったの。でも大丈夫よ。そんなすぐに離れ離れになったりしないから。」


なら良かった。

私がほっとしたのが分かったのだろう、二人とも微笑ましいものを見るような表情をしている。


でも、まだ安心できないんだよね。

さっき上総の魔力の質が少し変わったのを感じたんだけど、おそらくその時から、私は魔力を感じ取る事ができるようになったっぽい。

そして、上総は魔力量が多いのだ。

その上、なんとなくだけど、護宮の魔力によく似ている気がする。

護宮の魔力なんか知らない筈なのだけれど。


だがら、さっきから不安が拭えない。

仲のいい上総と離れるのは嫌だな。

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