転生
「んぁぁ。」
ん?どうなっている私。
さっきは光に飲み込まれて気を失ったはずだ。
そして今は、逆に視界が確保出来ていない。
それと今の声は、私の口から出たものだよね?
ん?口?
そういえば、私の身体は透明になって消えたはずでは⋯⋯。
その時、頭上から声が聞こえ、同時に誰かに抱きかかえられた。
「はーい、元気な女の子ですよー。」
「咲夜⋯⋯。」
その時、本能的に理解できた。
咲夜と呟いた人が私の母だと。
となると、咲夜とは恐らく私の名前だろう。
ふむ、これはあれか?
転生というやつか?
だが、私は事故とかで死んだりはしていないのだけれど⋯⋯。
ん?ちょっと待て。
さっき話された言葉、日本語ではなかったよね。
なんで私はその言葉を理解できている?
これは小説とかでよく見るパターンだろうか。
これでも小説を読むのは好きだったからね。
いや、今はそんな事を考えている場合では無い。
「んあー。」
んー、声を出してみたけれど、やっぱり赤ちゃんみたいな声しか出ないな。
恐らく、本当に赤ちゃんなのだろうけれど。
その時、少しではあるが視界が確保できた。
瞼が開いたのだろう。
その少しの視界に見えた窓からは、紺碧の空にかかる青く大きい月が見えていた。
その窓に、先程鳥居を潜って来た時の紺色の蝶が、一匹とまった。
それと同時に、どこかとても懐かしい感じがした。
***
転生したのかと思った日から一月程経った。
どうやら私は本当に転生しているらしい。
それも、超和風の異世界に。
私は小さい頃から和風な物が好きだった。
和室の畳や、祭りの時等に着る浴衣や着物等。
それが、この世界では普通に使われている。
だが、衣服に関しては着物や浴衣では無い。
なんというか古風な感じの服で、それを言い表すのは難しいのだけれど、あえて例えるとすればそれは、日本神話の神様が来てるイメージのある服、とでも言えるだろうか。
文明レベルは、よく小説とかである西洋風ファンタジーくらい、と言えば良いだろう。
日本史で言えば江戸時代くらいか。
この世界はやはりと言うべきか電気は使わず、魔力なるもので生活している様だ。
料理をする時のコンロのような物は魔力を使って火をつけているし、明かりも魔力を光に変える道具が付けられている。
ちなみに蝋燭等では明かりをとっていない。
理由としてはそういった燃料よりも魔力の方が安上がりだし、何より火事の心配をしなくて良いからだろう。
こういった道具を魔道具と言うらしい。
そして、私自身の事はと言うと。
まず、私は人間ではない。
いや、だからといって魔物とかでもない。
この世界では俗に“妖人”と言われる人達で、姿形は人間のそれに近いけれど、身体の一部が動物や魔物っぽかったりする人々だ。
そして私は“狐人”と言われる、狐の耳と尾を持った種族だ。
ちなみに耳は頭の上の方にある狐の耳のみであり、人間の耳と四つある訳では無い。
だから少し違和感があるのだけれど。
そして、私は混血である。
母親の紅葉は狐人で、父親の駿河は“蛇人”である。
だがここで気をつけるべきは、私には父の蛇人の特徴は受け継がれていないという事である。
そもそも妖人というのは、混血やハーフといったものは産まれない。
今の私の様に違う種族の妖人同士から産まれた子供は、両親のどちらか一方の種族になる。
確率としては同じくらいだが、子供が男だった場合は父の種族に、子供が女だった場合は母の種族になる事が多い。
あくまでも多いという事だから、完全にそれが当てはまる訳では無い。
ただし、かなりその確率が高い。
だから私もその例に漏れず、母と同じ狐人だ。
だが、完全に母と同じ特徴ではない。
母の耳や尾は名前の通り紅葉のような紅色だが、私の耳や尾は紺色である。
これは父の影響で、父は紺色の特徴を持つ蛇人なのだ。
そして、妖人は種族にもよるが基本的には寿命が長い。
これはこの世界で一番栄えている種族、人間と比べてだ。
何故寿命が短く、種族の特徴も特に無い人間が一番栄えたのか。
それはよく分からないが、人間が一番繁殖力があるから、というのが有力だと思う。
先程、種族の特徴と云ったが、それは妖人は種族によって様々な能力の様なものがあるからだ。
例えば私の狐人だと、聴覚、嗅覚、視覚が良く、身軽である。
蛇人は、身体は華奢だが力が強く、防御力が少し高く、体が柔らかい。
そして、そういった妖人は人間から差別されているとかいう事は無い。
日本から見た外国人みたいな感じだ。
あくまでも、同じ人であるという認識。
うん、平和で良いと思う。
やっぱり差別は駄目だよね。
次に、私の置かれている状況。
とりあえず広いところからいうと、この世界は“緋楽”という。
そして、この世界には大陸が一つだけある。
まあ、誰も知らないだけで他にも大陸があるのかもしれないが、それはとりあえず関係ない。
その一つの大陸に私も居る。
“中央大陸”と言い、ほぼ円形の形をしている。
だが略地図を描けば円というだけであって、実際はそこまで綺麗な円では無い。
さらに中央大陸の中央部には広大な円形の湖があり、ドーナツ型の大陸といえる。
その中央大陸の周りには大小様々な島があり、それらは基本的には島一つで一国家となっている。
そして中央大陸には十二の国があり、その中で大国と言われている国は四つ。
それぞれほぼ東西南北に一つずつ存在している。
その四つの大国の他にもう一つ、大国と言われている国がある。
それは中央大陸の北東にある大きな島で、他四つの大国と比べても遜色ない広さがある。
その五つの国は五国、又は護国と言い、他の国には無い特徴がある。
それは五宮、又は護宮と言われる人がいる事だ。
その護宮は政とは無関係で、宗教的な役職でもある。
その具体的な仕事はと言うと、魔を祓う事が基本だ。
この緋楽では、魔を祓い、人の領域にした場所にしか住む事ができないのだ。
この魔を祓うという事をしないと、街中に居る動物が突然魔物になったり、強い魔力の影響で人体に被害が出る場合もある。
そういった事が起きないように魔を祓い、人の領域にする事ができるのが、護宮という人達だ。
護宮というのは完全な世襲制では無い。
確かに護宮の親からは護宮となる子供が産まれやすいのだが、絶対ではない。
むしろ産まれない事の方が少し多いくらいだ。
産まれる確率は、四割といったところだろう。
ちなみにこの護宮、女性しかなる事はできない。
男性は王となり、政治をするのだ。
そして、世襲制では無いのだとしたら次の代はどうやって選ぶのかと言うと、その代の護宮が死ぬか役目を終えると、次の護宮となる者には身体のどこかに模様が現れるのだ。
それが身体の何処に現れるか、どの様な模様かといった事は公表されていない。
偽装する輩が出てこないとも限らないからだ。
ではなぜ自分が次の護宮だと分かるのかと言うと、それは何となく、感覚で分かるのだとか。
少し話がずれたが、狭い所でいうと、私が今居るのは中央大陸の東に位置する“森羅”と云う大国で、芪ノ町だ。
ちなみに、 緋楽では町や村の規模によって呼び名が異なる。
規模が小さい方から、集落、村、町、街、都、となる。
あとは例外として王都、又は帝都があるくらいだ。
つまり、私が居るのは田舎では無いけれど都会でも無い、という様な場所だ。
と、ここまで自分の現状確認をした訳だが、あいにく私はまだ産まれてから一ヶ月。
まだ首も据わっていない状態である。
だから、できる限り情報を集めていこうと思う。
二足歩行ができるようになれば、魔術を練習してみるのも良いだろう。
せっかく異世界に転生したのだ。
楽しまなければ損だろう。