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緋楽盈月〜和風異世界で獣の子供預かってます〜  作者: 流灯
二章 記憶を手繰れこの異世界
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旅立 弍

翌朝。

太陽がまだ登っていないのを見るとまだ約束の時間には少しあるだろう。

水魔術で顔を洗い、昨日貰った林檎を朝食にする。

鈴にはこれまた昨日貰った干し肉をあげた。


鈴に異空間に入ってもらい町に行く。

門で暫く待っていると上総とその家族が来た。


「咲夜、待たせた?」

「いえ、先程来たばかりです。」


そんな恋人のような会話をした上総を見ると、随分と荷物が少ないようだ。

まあ、荷物の殆どを収納魔術に入れている私が言うのもどうかと思うけど。


「咲夜ちゃん、上総をお願いね。」

「はい。必ず護ります。」

「上総、頑張れよ。」

「うん。」

「ほれ、さっさと行くぞ。」

「それもそうだな。」


そう言って上総の父は乗ってきていた馬車を前に出した。


「咲夜ちゃん、御者はできるかい?」

「はい、できますが⋯⋯真逆その馬車⋯⋯。」

「ああ、その真逆だよ。これに乗って行くと良い。」

「良いのですか?」

「ああ、娘の旅立ちだ。これくらい構わん。」

「ありがとうございます。」


礼を言って馬車を頂く。

結構しっかりとした作りのようで頑丈そうな馬車だ。

馬車を引く馬も良く調教されており、そこそこの質である。


「じゃあ、お母さん、お父さん、行ってくるね。」

「ああ。気をつけてな。」

「上総、無理をしないようにね。」

「うん。それじゃあ。」


そう言って上総は馬車に乗り込む。


「では、行ってまいります。」

「行ってくる。」

「咲夜ちゃん、お義母さん、上総をお願いね。」

「勿論です。」

「分かっておる。」

「では。」


私も御者台に乗り、おばあさんも乗り込んだ。

私は馬を走らせる。

こうして女三人旅が始まった。


それから数時間後。


「上総様、そろそろ昼食にしますか?」

「たしかにお腹減ってきたね。」

「では、どこかに止まります。」

「うん。」


そうして私達は街道の脇へと馬車を停め昼食にした。

昼食は上総が持ってきていたおにぎりとおかずいくつかだ。

それを食べながら上総が口を開いた。


「ねえ、咲夜、その敬語、やっぱりやめない?」

「いえ、護宮に砕けた口調は失礼です。」

「なんか落ち着かないんだけど⋯⋯。あ、なら、護宮としての命令で、敬語やめてくれない?」

「いや、でも⋯⋯。」

「お願い。」


そう言って見つめてくる上総は可愛い。


「はぁ⋯⋯。分かった。ただし、人前では敬語だからね。」

「うん!」


それと上総に小屋で取って来た衣と指輪、首飾りをあげた。

上総は申し訳ないと言ったが護宮を護るためだと言ったら着けてくれた。


そんなこんなで翌日、枳ノ街に着いた。

そこで一泊し、再び帝都へ向かう。

道中倒した魔物の素材は冒険者組合に売って、肉は鈴や私達が食べた。

肉を凍らせて氷と一緒に収納魔術に入れておけば悪くならないので便利。


それから三日。

枳ノ街も過ぎ、次の町へと向かっていた私達に、思わぬ敵が現れた。


「なんでこんな所に闇熊が!」


そう、現れたのは真っ黒な毛を持った熊の魔物。

ただし体長は三メートル弱あり、闇属性の魔術を使う三級の魔物。

三級の魔物と言えば発見されれば討伐隊が組まれる程の危険度だ。


「上総!お祖母様!馬車の中に居て!」

「いや、私も戦うわい。上総は下がっておれ。」

「でも!」

「お前では力不足じゃ!足でまといになる!」

「っ⋯⋯。」


闇熊が早速闇の球を三つ作り、此方に放って来た。

それを抜き放った刀で切りつつ肉薄する。

そのまま刀で闇熊の左腕を切りつける。

が、闇熊が直前で躱し少し切り傷を付けるだけの結果になる。


今更ではあるが私は何故か護衛時代と同じ動きをある程度できる。

護衛時代にはそこそこ強い方に入ると自負していたし、事実私の刀の腕は星ノ位であった。

護宮の護衛でも星ノ位程の腕を持つ者は少なかった。

その時とほぼ同じ動きができているにも関わらず闇熊相手には力不足。


今度は闇熊が反撃に右腕を横薙ぎに振るう。

それを後退して躱し、氷矢を十本放つ。

だがそれは闇熊に少し刺さっただけの結果となった。

思ったよりも防御力が高い。

いや、刀で切った感覚からして魔術に対する防御力が高いだけか。

ならば物理で攻めるのみ!


また闇球を放って来たので切りつつ接敵する。

今度は袈裟斬りに振り降ろす。

それも躱され肩を少し切りつけるだけとなった。

熊の癖に素早い。

これまた反撃に右腕が振るわれたので今度は横に跳んで回避する。

そのまま闇熊の脇腹目掛けて突きを放つ。

これも回避され少し傷つけるだけとなった。


お祖母様も援護として土の矢を飛ばしたがほとんど避けられ、当たったものもあまり効果はなかった。


さっきから決定打が足りない。

私の攻撃手段の中で最も攻撃力が高いのは魔術だ。

それが効果が薄いのならこのままずるずると互角のまま続くだけ。

そのままでは体力的にこちらが不利だ。


私はさっと周囲の気配を探り周りに人や魔物が居ない事を確認する。

雷魔術で私ができる最大の威力を込めて闇熊に放つ。

それと同時に闇熊の背後に異空間の扉を開ける。


「鈴!」


その一言で察してくれた鈴は目の前の闇熊に向かって前足を振り下ろす。

闇熊は直前に気づき避けようとしたが雷魔術で動きが鈍っているため回避できなかった。

鈴の前足は闇熊へと命中し鋭い爪で背中を引っ掻きながら闇熊を押し倒す。

うつ伏せに倒れた闇熊の首へと鈴の鋭い牙が突き刺さり血が吹き出る。

そこに刀で一撃を加え首と胴体を切り離し絶命させる。


「ふぅ⋯⋯。鈴、ありがとう。」

「ガルルルル。」


礼を言いながら撫でる。

ついでに鈴の毛に着いた血を洗ってやる。

私が鈴と戯れているとお祖母様から声がかかった。


「咲夜ちゃん、その魔物は⋯⋯。」

「ああ、私の従魔です。」

「そうか。」


そういえば、まだ鈴に従魔の印付けてなかったな。

誰かに鈴を見られた時に不味い。

後で着けておこう。

上総も戦闘音が聞こえなくなったからか馬車から降りてきた。


「咲夜、その子は⋯⋯。」

「私の従魔の鈴。」

「そっか。えっと、触っても良い?」

「うん。」


上総は少し躊躇いながらも鈴に触った。


「よろしくね、鈴。」

「ガルルルル。」


するとお祖母様も尋ねてきた。


「ほう、私も触っていいか?」

「はい。」

「ほお、これはまた良い手触りじゃのう。」


その後鈴を異空間に戻しそれを見た二人がまた驚いていたが下位の収納魔術が使える事は知っていたのですぐに収まった。


そして冒険者組合で闇熊の素材を売る時もなんやかんやあったが、他の仲間もいたと言ったら納得してくれた。


それと鈴に従魔の印を付けてもいいかと訪ねたら許可してくれたので鈴の左前足に紺色で鈴蘭の模様を魔力で付けておいた。

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