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緋楽盈月〜和風異世界で獣の子供預かってます〜  作者: 流灯
二章 記憶を手繰れこの異世界
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装備

「上総、護宮になったというのは⋯⋯。」

「本当だよ。お父さん。」

「そうか⋯⋯。」

「お父様、できれば明日にはここを発ちたいのですが。」

「咲夜ちゃんか。⋯⋯明日か。それは難しいな。」

「帝都の大社へはできる限り早く行った方が良いのですが。」

「確かにそうだろうが⋯⋯こちらも仕事があってな。」


この人は大きい商会の長だ。

勿論仕事はあるだろう。

そして、貴族でも商売をしている人というのは少数だが存在する。

だから、商会の仕事もやろうと思えば続けられるのだ。


「商売に関しては、帝都に拠点を移す以上、帝都で続けるしか無いかと。」

「そうか⋯⋯。いや、まて。ならば、帝都に拠点を移さなければ良いのではないか?」

「確かに上総様が護宮である以上、当主は上総様になりますが⋯⋯。お父様がここに残る事で、いらぬちょっかいを受ける可能性もありますが。」

「その程度、どうとでもしてやるわ。」


上総の父の目には、決意と娘への愛が浮かんでいた。

確かに貴族に成り立てでは、資金はかなり必要になってくるだろう。


「そうですか。ならば良いのではないでしょうか。」

「え、いいの?」

「はい。お父様を信じる事にしました。どの道資金は必要ですしね。」


この人は信じられるだろう。

私の直感がそう告げていた。


「なら、私も残ろうかしらね。」


そう言ったのは上総の母である。


「えっ、お母さんも?」

「ええ、この人を残して行くなんてできないわ。」

「そうですか⋯⋯。できれば一緒に来てほしかったのですが。」

「この人を放っておいたら何をするか分からないわ。」

「おいおい。そんなに信用無いか⋯⋯。」


それには答えず上総の母も強い決意が篭った目をしている。


「分かりました。ならば帝都へは私と上総様、お祖母様で行きましょう。この二人ならば私一人でも守れます。上総様も魔術を使えますし。」

「おや、私は戦力に入れてくれんのか。これでも魔術は得意なんだがね。」


そう言って上総のお祖母様は笑った。


「そうだったのですか。頼りにさせてもらいます。」

「ああ。これでも上総に魔術を教えたのは私だからね。」

「そうでしたか。」


ここで上総の家族全員を見回す。

全員が強い決意をしていた。

上総も含めて。


「ならば明日の朝寅と卯の間の刻(六時)に門に集まりましょうか。」


その言葉に全員が頷いた。


「では、私はこれで失礼します。」


そう言って家を出た。


さて、記憶を取り戻したが、やる事がある。

その為に門を出て暫く歩いた所で鈴を出した。


「ガルルルル。」

「鈴、少し頼みがあるのだけれど、あの山まで連れて行ってくれないかな。」


そう言って遠くの方にある山を指さす。


「ガルル。」

「ありがとう。」


鈴が早速とばかりに屈んでくれる。

ありがたく乗せてもらう。


「鈴、お願い。」

「ガルルルルルルル!」


鈴は数歩の助走の後、翼をはためかせて飛んだ。


「鈴、大丈夫?」

「ガルル!」


返ってきたのは肯定の返事。


「無理しないで、疲れたら言ってね。」

「ガルル!」


そのまま数時間。

特に何事も無く目的の山の麓に着いた。


「鈴、ここからは歩いて行こうか。」

「ガルル。」


鈴を撫でてから歩いて行く。


それから三時間もしない内に小屋が見えてきた。

その小屋の扉は壊れかけており、力ずくで外した。

中には普通の家具の類がいくつかある。


ああ、懐かしい。

この小屋は、藤宮様と逃げた先だ。

当然のように風化しているが、面影は残っている。

暫く感傷に浸っていたが、此処に来た目的を思い出して囲炉裏に近づく。


囲炉裏の灰を全て除け、そこの端にある窪みに指をかけて引く。

すると囲炉裏の底が持ち上がり、下にはちょっとした空間がある。

そこに手を突っ込んでまさぐると手に何か当たる感覚があったのでそれを取り出す。

それを何度か繰り返し中の物を全て出す。


さて、目の前にあるのは先程囲炉裏の下の空間から取り出した物である。

それは太刀と小太刀が一本ずつ、桐の箱に入った衣が数枚、指輪がいくつか、耳飾りが一つ、首飾りが二つ、腕輪が一つ。

これらは前世の前世で私が隠しておいた物だ。


まずこの桐の箱に入ってる衣を一つ出し着替える。

次に刀と小太刀を腰にさす。

そして耳飾りと腕輪と首飾りを一つ着ける。

これらは私が使っていた物だ。

その他の物は収納魔術へ仕舞う。


私が着た青い衣は魔力付与品で防刃と防魔の性能が高い。

刀と小太刀は同じ意匠で鞘と柄は黒い。

これは龍の素材を使い、有名だった鍛冶師が作った物で、銘を黒龍という。

そのままな銘だと思うが性能はかなり良い。

耳飾りは着用者に危険が迫ると鳴る魔力付与品。

首飾りは二つセットで、この二つの首飾りを持つ者同士で遠くに居ても会話する事ができる魔力付与品。

腕輪は魔術媒体。


魔力付与品というのは迷宮からもたらされる物で、迷宮に挑み死んだ冒険者の装備等が迷宮に取り込まれ、長い年月をかけて何らかの効果が付与された物だ。

魔道具は人が作った物で魔力を通す事でその効果を発揮する道具の事。

その二つの違いは人工であるか天然であるかというだけである。


さて、私のやる事とはこれを取りに来る事だ。

もう用は済んだので帰るとしよう。


小屋から出て鈴に声をかける。


「鈴、帰りも頼んでいい?」

「ガルル。」

「ありがとう。」


屈んでくれたので乗って、首を軽く叩き合図する。

すると少しの助走をつけて飛び上がった。

足下を景色が流れていく。

かなりの速度だ。

車よりも速いだろう。


それから数時間。

町の近くまでやってきたが、今日はここで野営しようと思う。

せっかく両親が送り出してくれたのだ。

それなのに戻ればなんというか気まずいし。


周辺に鹿がいたので狩って焼いて食べた。

それと朝貰った鹿肉もだ。

食後はこれまた朝貰ったぼた餅を食べた。

そして異空間に入り眠る。

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