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緋楽盈月〜和風異世界で獣の子供預かってます〜  作者: 流灯
二章 記憶を手繰れこの異世界
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報告

さて、ここまで思い出した訳だが、私のやるべき事は一つだ。

勿論それは、上総を護る事。

これは藤宮様に忠誠を誓った私の為でもある。

そして藤宮様を護りきれなかった償いもだ。

これだけでは到底償えないだろうが、それ以外に方法が思いつかないのだ。


「上総⋯⋯いや、上総様、今度こそは、必ずその身をお守りいたします。」


私は地面に片膝を付け、片膝を立てて忠誠を誓った。

それに上総は目を白黒させている。

それも当然だろう、いきなり私が苦しみだしたと思えば自分が護宮になっているし、私が正気を取り戻したと思えば急に忠誠を誓われるのだから。


「上総様、まずは御家族にお知らせを。」

「えっと、咲夜、ちゃん⋯⋯?」

「私の事は咲夜とお呼び下さい。」

「いや、まあ、うん。咲夜⋯⋯?じゃなくて、何で急にそんな事しているの?頭を上げて?」

「上総様、貴方様の御先祖には護宮だった方がおります。私の前世は、その方に仕えておりました。ですが、私の力不足により、護りきれませんでした。ですので、子孫であり、護宮となられた貴方様をお護りする事で、せめてもの罪滅ぼしができればと。」

「え、咲夜の⋯⋯前世?」

「はい。」

「えーっと、とりあえず、その様付けと、敬語やめない?」

「貴方様は護宮になられた御方です。例え子供の頃から仲が良かったとしても、護宮には敬意を持って接さなければいけません。」

「えっと⋯⋯なら、その姿勢やめない?」


上総が周りを見ながら言った。

確かに、周りの人は私達の事を何事だろうと見ている。

事情を知らない人の前では、恥ずかしかったか。


「配慮が足りず申し訳ありません。」


謝罪して隣に立つ。


「だから、その敬語むず痒いんだけどなぁ。」

「これからは殆どの者が敬語で話かけてきます。」

「うわぁ。慣れないな⋯⋯。」

「慣れて下さい。」

「でも、咲夜は敬語じゃなくてもいいよ?」

「いえ、そんな訳にはいきません。」

「そっか⋯⋯。」


上総は、寂しそうだった。


「ひとまず、御家族にお話しましょう。」

「あ、確かに。」


という訳で家に入る。

私は上総の一歩後ろに控えて歩く。

それに上総は慣れない様子だったけれど諦めたようだ。


「お母さん、話があるんだけど⋯⋯。」

「あら、どうしたの?あ、咲夜ちゃんお茶でも出そうか?」

「いえ、お構いなく。」

「そう。で、話っていうのは?」

「えっと⋯⋯その、言ってしまえば、私、護宮になりました。」

「⋯⋯⋯。」


上総の母は呆然として信じられないようだ。

まあ、普通そうなるだろうけど。


「これは、本当の事で、その、だから、えっと⋯⋯。」


上総が頼りないので私から話す事にした。


「上総様は護宮となられたので、すぐにでも帝都の大社に行かなければなりません。」

「⋯⋯⋯。」


私の言葉にもかなり驚いている。

ちなみに大社というのは天神教のこの国での本部とも言える護宮の拠点的な場所だ。


「此処で驚いている暇も惜しいのですが⋯⋯。」


私がそう言うと、ようやく正気に戻ったのか上総の母がようやく口を開いた。


「咲夜ちゃん⋯⋯その口調は⋯⋯いえ、護宮に対するにはそういうものね。でも、そんなに急がなくてはいけないの?」

「はい。護宮が平民から出るというのは非常に珍しいので、できる限り早い方がいいですね。三日も経たない内に護宮探しが始まるでしょうし。」

「そうね⋯⋯。確かに。なら、明日にでも出発した方が良いのかしら。」

「はい。むしろ今日発っても良いくらいです。」

「そう⋯⋯。なら、私達はどうすれば⋯⋯。」


私達というのは上総の両親の事だろう。


「上総様が護宮となられたので、当然貴族になります。となればその御家族も貴族になりますね。幸い大きな商店の長ですし礼儀作法もある程度はできるでしょう。勿論、足りないものも多いのでそこは私がお教えします。ですので上総様と共に帝都に行く事になりますね。」

「そう⋯⋯。ま、まずは旦那を呼んでくるわ。待っていてね。」

「はい。」

「うん。」


上総の母が去って行く。

すると上総が声をかけてきた。


「咲夜、何でそんなに詳しいの?」

「前世は護宮の近衛をしておりましたから。」

「あ、そういえばそんな事言ってたね。」


私達が上総の両親を待っていると、上総の祖母が現れた。


「あ、おばあちゃん!」

「ああ、上総に咲夜ちゃんも。」


ぺこりと礼をする。


「あのね、おばあちゃん、私、護宮になったらしいんだ。だから、帝都に向かうんだけど⋯⋯。」


その言葉を聞いた瞬間、彼女の目が鋭くなった。


「護宮に⋯⋯。やはり、お祖母様の言っていた事は、本当なのか⋯⋯。」


私はその言葉を聞き逃さなかった。


「その、お祖母様が仰られた事というのは?」

「ああ、これは私の祖母から聞いた話だが、私の祖先に、護宮をしていた者がいたらしい。」


その言葉を聞いた瞬間、思わす声が漏れた。


「藤宮様⋯⋯。」


その言葉に彼女はかなり驚いた。


「咲夜ちゃん、何故その名前を⋯⋯。」

「お祖母様、私の前世は藤宮様の護衛でした。私にはその記憶があるのです。綾芽あやめ、という名を聞いた事は?」

「!それは、お祖母様の母の名だ⋯⋯。」

「そうですか⋯⋯。」


やはり、綾芽様はもういないか⋯⋯。

綾芽というのは藤宮様の子の名だ。


「⋯⋯曾お祖母様は死の間際、育ててくれた者にとても感謝していた。残りの命が少ないのを分かっていて、自分を育て、護ってくれた、と。」


その言葉を聞いた瞬間、私の頬に何かが伝った。

それが涙であると理解するまでに、暫く時間が必要だった。


「っ⋯⋯⋯綾芽、様⋯⋯。」

「真逆とは思うが、咲夜ちゃんの前世というのは⋯⋯。」

「はい。綾芽様の育ての親です⋯⋯。」

「そうか⋯⋯。ならば、曾お祖母様に代わって礼を言わせてくれ。曾お祖母様を育て、護ってくれて、ありがとう。」

「!いえ、私は、藤宮様を護れなかった身。決して感謝などされるような者では⋯⋯。」

「それでも、曾お祖母様は、とても感謝していたのだ。それを伝えさせてくれ。」

「⋯⋯分かりました。受け取っておきます。それと、お祖母様、この事は誰にも言わないでもらえると助かります。」

「ああ⋯⋯絶対に、誰にも言わんよ。」

「ありがとうございます。」


そこで、上総の両親が来た。

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