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緋楽盈月〜和風異世界で獣の子供預かってます〜  作者: 流灯
一章 真摯に学べこの異世界
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旅立

三日後、母はすっかり元気になった。

魔力も元に戻っている。

その日の夕食の席で、私はとある決意を告げた。


「母さん、父さん、話があります。」


夕食が終わり、一息ついていた時、私はそう言った。


「なんだ。」


私の真剣さを感じたのだろう、父も真面目な顔で聞いてきた。


「私、そろそろこの家を出ようと思います。」

「⋯⋯⋯そうか。」

「自立できる力はあります。」


父は暫く何事か考えている。

母は静かに私達の話を聞いていた。


「どうやって食っていくつもりだ。」

「冒険者をしようかと。」

「⋯⋯そうか。」


するとまた父は考えにふけった。


「実はな、俺も紅葉も昔はそこそこ名の知れた冒険者だった。」

「そうなんですか。」


初耳だ。


「だから、冒険者の危険さは身をもって知っている。」

「はい。」

「だから⋯⋯俺と模擬戦をして、判断する。」

「⋯⋯分かりました。」

「もしも俺が認められる強さが無ければ、冒険者以外の事で身を立てろ。」

「はい。」


という事で、明日朝食の後父と戦う事になった。



翌朝。

朝食を終えた私は家の裏で父と向かい合っていた。

母が少し離れた位置に立っている。

そして母が開始の合図を口にする。


「始めっ!」


その瞬間父が先手必勝とばかりに突っ込んでくる。

家族相手だし無詠唱で魔術を使う。

これは昨日寝る前に決めた事だ。


突っ込んでくる父に対して氷矢を放つ。

無詠唱で飛んできたそれに驚いていたがその十本を全て躱すか木刀で落としている。


木刀の間合いに入ったら私の負けだ。

父の刀を避けられる自信は無い。

なので遠距離から勝負させてもらう。


氷矢を避けた父にもう一度氷矢を放つ。

それも全て避けるか切っているがその中に私の出せる最高速度の氷矢を一本撃ち込む。

それを父は横に跳んで回避した。

だがその回避した先に氷槍を三本地面から突き出す。

父はそれも躱すがその先にも氷槍を出す。


そしてそれを更に躱した先の地面に氷を張る。

父はそれに足をとられて滑るがこけはしなかった。

だが隙はできた。

その隙を見逃さず氷槍を地面から突き出す。

父は避けきれずもろに腹に受けた。


そこに追撃の氷矢を放つ。

だが転がりながら避けた。

避けた先に氷槍を突き出すが素早く立ち上がって避けた。


そして父が走って私との間合いを詰める。

近づかれると不利なのは私なので火球を三つ放つ。

父がその内一つを切った。

その瞬間火球が爆発した。

そう、ただの火球ではない。

何かに触れると爆発するのだ。

地面に落ちた火球も爆発した。

父は少し火傷を負ったようだ。


それに驚いた父だったがすぐにまた間合いを詰めてくる。

なので再び火球を放つ。

次は普通の火球なのだが先程の事があり父は全て避けた。


その間に広範囲に水溜まりをつくる。

足場が悪くなったが、父は関係ないとばかりに走ってくる。

もうすぐ父の間合いに入りそうだ。

そこで、雷球を地面に向けて放つ。

その電気は地面の水溜まりを走り父に到達すると感電させる。


電気によって足が痺れ地面に転がっている父に向けて氷矢を放つ。

それは父に当たった瞬間に砕けた。


そこで母の声が響いた。


「そこまで!勝者咲夜!」


やった!

勝った!

これで父も文句は無いはずだ。


「⋯⋯。」


父が呆然としている。

まあ、娘に負けたのだし仕方ないか。


「父さん?冒険者になってもいい?」

「あ、ああ。俺に勝ったんだ。文句は無い。だが、今の魔術は一体⋯⋯?詠唱をしていなかった様だが⋯⋯。」

「ああ、無詠唱で魔術使っただけだよ。」

「いやいやいや、無詠唱で魔術だなんてそんな事できる訳が⋯⋯いや、でも実際していたか。」


心配していた無詠唱が禁忌だとかそういうのは無いみたいで良かった。

そこで母が声をかけてきた。


「そうね。私も魔術師だけれど無詠唱なんて見た事も聞いた事も無いわ。」


ふむ、やっぱり無詠唱って世間一般に認知されていないのか。


「そもそも魔術っていうのは言霊に魔力を乗せてその現象を起こすものだから、言霊無くしてというのは⋯⋯。」


元現代日本人の私からすればそんなもの実感無いしな。


「で、明日にはこの家を出ようと思うのですが。」

「随分と急だな。」

「まあ、やりたい事がありまして。」

「そうか。」


やりたい事というのは鈴の事だったりする。

冒険者になれば魔物の討伐依頼も当然あるから、そういう魔物を鈴の食料に当てようと思っているのだ。

それに、鈴の親も探したいし、ね。


「分かった。なら今日中に荷造りをするんだろう?」

「うん。まあ、そんなに荷物無いけど。」

「それもそうか。」


という事で、その後は少ない荷物を纏め、眠りについた。



翌朝。

今日はこの家を出る日である。

今まで育ててくれた恩もあるし、時々は帰ってくる予定だけど。


朝食を食べ、父と母が玄関まで見送りに来ていた。


「じゃあ、行ってきます。」

「ああ、気をつけてな。」

「また帰って来てね。」

「うん。じゃあ。」


そう言って出ていく。

自分でも随分とあっさりしているなと思った。


ここからは少し挨拶して行く。

とは言ってもそこまで人数いないのだけれど。


隣のおばちゃんに挨拶したら、昨日作ったらしいぼた餅をくれた。


あの事件(?)から少し仲良くなった猟師さんに挨拶に行けば鹿肉を一塊くれた。


よく行っていた商店に行けば干し肉の小袋を一つくれた。


よく遊んでいた友達の家に行けば林檎を三つくれた。


いや、皆いろいろくれすぎじゃない?

いくら旅立つと言ってもそうほいほいあげるものだろうか。

まあ、ありがたく貰っているのだけれど。


さて、最後は上総の家である。

今度は何をくれるのやら。

そう思いながら扉をノックする。


「はーい。あら、咲夜ちゃん。」

「おはようございます。上総居ますか?」

「ええ、少し待ってね。上総ー。咲夜ちゃんが来ているわよー。」

「はーい。」


上総の声が少し遠くから聞こえた。

やっぱり広い家だな。

普通の平民の家ならそんな遠くから声が聞こえる程広くはない。

暫く待つと上総が出てきた。

上総のお母さんは家に戻って行った。


「咲夜ちゃん、どうしたの?」

「いや、今日この町を出ようと思って、その挨拶。」

「えっ、咲夜ちゃん出ていくの!?」

「うん、まあ。これからは冒険者でもやって食べていこうと思ってる。」

「そうなんだ⋯⋯。」


上総がおもむろに寂しそうにする。


「大丈夫、また帰ってくるから。」

「約束だよ?」

「うん。」


その時だった。

上総の魔力の質が変わり、それを感じた私が激しい頭痛に苛まれたのは。


「あ、あ、あああああっ!」

「えっ、咲夜ちゃん?!待って、え?私も何か⋯⋯⋯。これは⋯⋯私が、護宮⋯⋯?」


上総が、護宮⋯⋯?


その瞬間、私は全て思い出した。

そして今までの疑問に答えが出た。


なぜ緋楽の言葉が分かり、字が書けたのか。

なぜ緋楽の常識が分かり、普通に馴染めたのか。

なぜ何度か懐かしいと思う事があったのか。

なぜ前世で和風な物が好きだったのか。

なぜこの世界に来たのか。


そして、なぜ上総が護宮となった瞬間に思い出したのか。


全て、すべて思い出した。

全て繋がった。


そういう事か。

私は前世の前世、この世界に生きていた。

父親は本気ではなかったので咲夜が勝てた。

本気を出さなくても勝てると思っていたけど勝てなかった。

でも現役の冒険者の時なら普通に勝ててた。


無詠唱の魔術は咲夜以外にも使える人はいる。

かなり少ないけど。

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