御使
昨日同様木を拾ってきて火を起こし、黒狼の肉を焼いた。
鈴がよく食べるので昼食と合わせてかなり食べ、もうほとんど残っていない。
「鈴、もう寝ようか。」
「ガルル。」
これまた昨日と同じように異空間に入り、鈴にもたれかかって眠る。
翌朝。
「ふぁぁ。おはよう、鈴。」
「ガルル。」
鈴も欠伸をしている。可愛い。
「鈴、今日は薬を貰えるかな。」
「ガルル。」
鈴を撫でてから異空間を出る。
川で顔を洗い、朝食の準備をする。
山で採った果物を洗って小刀を使い切り分ける。
鈴と一緒に果物を食べたら、早速街に向かう。
「鈴、行こうか。」
「ガルル。」
また鈴が乗れとばかりに屈んでくれたので乗せてもらう。
「ありがとう。」
「ガルルルル!」
そしてやはりすごい速さで進んでいく。
どんどん景色が後ろに流れ、数時間で街が見えてきた。
「鈴、そろそろ止まって。人に見つかると面倒だから。」
「ガルル。」
「ありがとう。」
礼を言いながら鈴を撫でる。
「鈴、また異空間に入っていてくれるかな。」
「ガルル。」
「ごめんね。」
鈴が入っていったのを見て異空間を閉じる。
そこからは歩き、街の門へ向かう。
門は人がそこそこ並んでおり少し待ったが冒険者証を見せたらすぐに通された。
そのまま薬屋へ向かう。
今日中に薬ができればいいのだけれど。
「こんにちはー。」
「はいよー。ああ、このあいだのお嬢ちゃん。やはり光秋桜は諦めたのかい?」
光秋桜を手に入れられなかったと思っているようだ。
まあ、前に来た時から二日しか経っていないしね。
徒歩で行けば山に着くまでに二日かかるって話だし。
「いえ、光秋桜は採ってきました。」
そう言って手に持っていた袋を差し出す。
おじさんはその袋の中を確かめて驚いている。
「本当に採ってきたのかい?」
「はい。」
「いやでも、流石に早すぎないか?」
「まあ、いろいろとありまして。」
「そうか。」
おじさんはそれ以上聞いてこなかった。
私はおじさんに勧められて冒険者になったが、冒険者というのは少なからず事情があったりするのだ。
それをおじさんは分かっていたのだろう。
「分かった。これで薬を作ろう。量はどうする?」
「その光秋桜から作れるだけお願いします。」
「そうか。そうなると代金は銀大判二枚ってところだな。」
「もう少し安くなりませんか。」
こういう所で値切るのは常識である。
「銀大判と銀小判九枚でどうだ?」
「母が魔弱病なんです。どうにかもう少し!」
「うーむ。なら銀大判と銀小判七枚だな。これ以上は下げられん。」
「それでお願いします。」
「分かった。出来るまで一刻半(三時間)程かかるがどうする?此処で待つか?」
「いえ、この街まで連れてきてくれた人に挨拶に行きます。」
「そうか。なら後で来てくれ。代金はその時でいい。」
「分かりました。お願いします。」
ぺこりと礼をして店から出る。
そして一泊した宿に行く。
宿に入るとその商人が丁度昼食をとっているところだった。
探す手間が省けたな。
「こんには。」
「ああ、咲夜ちゃん。」
「あの、目的の薬がもうすぐできるので今日中にこの街を発とうと思いまして。」
「そうか。分かった。気をつけてな。」
「はい。お世話になりました。」
ぺこりと礼をして宿から出る。
さて、意外と早く終わったな。薬ができるまでどうしようか。
あ、そういえば私まだ昼食食べてない。
その辺の露店ででも何か食べよう。
大通りに出ると露店が結構あった。
そこでおにぎりを二つと串焼き三本を買って昼食にした。
串焼きは鳥系の魔物の肉でなかなか美味しかった。
さて、そんな風に露店を見たりいろいろな店を覗いたりしている内に時間は経ち、薬を取りに行く頃だ。
「こんにはー。」
「ああ、薬は出来ているよ。」
「ありがとうございます。」
礼を言って代金を手渡す。
渡された薬は紙に包まれていて、その包が二十個程ある。
おじさんから薬の使い方の説明を受けた。
「ありがとうございました。」
「ああ、毎度!」
そうして店を出る。
よし、時間は少し遅いけど芪ノ町に帰ろう。
門で冒険者証を見せて街から出る。
芪ノ町までは一泊しなければいけないだろうな。
それでもできる限り距離はかせいでおきたい。
街から十分離れた所で街道から逸れる。
街道を行けば鈴を見られて面倒くさい事になる可能性が高い。
森にある程度入った所で鈴を異空間から出す。
「鈴、悪いけどまた乗せてくれる?」
「ガルル!」
鈴が屈んでくれたので乗らせてもらう。
「鈴、街道から離れたまま芪ノ町までお願い。」
「ガルルルル!」
そして鈴は相変わらずの速さで飛んで行く。
日が傾き始めたので今日はこの辺りで野営する。
道中で狩った牙猪の肉が夕食だ。
食後はこの森で採った林檎を食べる。
それは見た目こそスーパーとかに売っている林檎よりも劣っていたが味がとても美味しかった。
前世では食べられない味だ。
こういうのも魔力が関係しているのだろう。
魔術で温水を出して体を拭く。
そして異空間にて就寝する。
翌朝。
「おはよう、鈴。」
「ガルル。」
異空間から出て魔術で出した水で顔を洗う。
もうなんだか慣れてきたな。
朝食は林檎とその他果物。
「鈴、今日中に芪ノ町に着きたいね。」
「ガルル。」
鈴に乗らせてもらい出発する。
その後道中で特にこれといった事も無く時間と景色が過ぎ去って行く。
なので日暮れまでに余裕を持って着く事ができた。
「鈴、また入っていてくれるかな。」
「ガルル。」
「毎回ごめんね。」
謝って異空間を閉じる。
そして街道に戻り、町まで歩く。
町に着くと門番さんに通された。
事情を知っていたようだ。
すぐに家へと向かう。
手には薬の入った袋を持って。
家の扉を開け、母が寝ている部屋まで直行する。
「母さん!」
「咲夜!無事だったのね。」
中には父も居て、ほっとしている。
「母さん、薬買ってきたから。これ飲んで。」
「ありがとう。」
おじさんはこの薬を水と一緒に飲むようにと言っていた。
なので水差しから器に水を入れ、薬と一緒に差し出す。
母はそれをすぐに飲んだ。
「ふぅ⋯⋯。」
「母さん、体の調子は?」
「少し体が重いくらいよ。」
母の魔力は普段の三分の一程になっていた。
だが薬を飲めば数日で元に戻るだろうとの事だ。
その後二言三言言葉を交わして部屋を出た。
さて、隣のおばちゃんにお礼しに行かねば。
こういうのは忘れてはいけないのだ。
「こんにちはー。おばちゃーん。」
すると扉が開いておばちゃんが出てきた。
「こんには咲夜ちゃん。」
「あの、この前母にお粥作ってくれたお礼を。」
そう言って葉に包んだ肉塊を二つ差し出す。
牙猪の肉だ。
「牙猪の肉です。余ったものですが、良ければ。」
「まあ、牙猪だなんて。それもこんなに。いいの?」
「はい。まあ、これからも助けて頂けると嬉しいです。」
「なら素直に頂こうかしらね。ありがとうね。」
「いえいえ。では。」
「じゃあね。」
ぺこりと礼をして家に戻る。
お粥を作ってくれた礼にしては多かったかな?
一つでもよかったかもしれない。
まあ、別に良いだろう。
その後は父と夕食を食べ、眠りについた。