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本松くんはちょっと気狂い  作者: 柏木砂陽
2/2

おばあちゃんにあげたもの、おばあちゃんがくれたもの

「オレのばあちゃん、死んだんだぜ」


給食の時間、本松くんは唐突に話し始めました。



憂鬱な午前授業が終わり、教室にお米と少し塩分多めの味噌汁の匂いが漂いはじめました。


当番の生徒たちが次々配膳を行い、クラスが徐々に浮き足立っているのを感じてます。僕はと言えば、事前に嫌いな、ししゃもの南蛮漬けが出ることを知っていたのですから、午前授業よりなおいっそう憂鬱な気持ちになるばかりです。


さらに追い討ちをかけるように、今日は担任の先生が僕たちの班に加わり食事を共にする日でもあります。まずい飯がよりいっそうまずくなるってもんです。


配膳係が「いただきます」の挨拶をし、皆はがやがや、かちゃかちゃと、くっちゃべり、そして咀嚼し始めました。話相手のいない僕は食べられるものを口に放り込みながら、この忌まわしきししゃもの南蛮漬けをどう処理するかを考えます。やはり、牛乳で流し込むのが一番確実でしょうか。

面倒なことは一番最初に解決するべきでしょう。僕はししゃもを箸でつまみ、左手で牛乳瓶を持ち、そしてししゃもを口に放り込もうもしたときでした。


「オレのばあちゃん、死んだんだぜ」


本松くんでした。僕は先程の決意が冷めて、ししゃもと牛乳を元の位置に戻しました。


「ちょっと、本松さん。そんなこと、言っちゃだめでしょ」


先生が諭すように口を開きます。その際、歯と歯の間を米粒が踊っているのが見えて、思わず目をそらしました。


「なんでだめなの?」


本松くんはきょとんとした様子です。今思えば、本松くんは本当に叱られるのが苦手な子だったんですね。


「死んじゃったのよ?もう会えないのよ?悲しくないの?」


中途半端に演技がかった先生の声を聞きながら、先生が死んでくれれば、もう会わなくていいし悲しくもないからすごく良いなぁ、と思いました。


「悲しくないよ」


「でも、おばあちゃんは悲しんでるはずよ。天国で、「なんで天斗くんはおばあちゃんが死んで悲しんでくれないんだろう」って」


「別にいいよ。だって、オレ、おばあちゃん嫌いだし。いっつも怒ってばっかだしさあ、この前もiTunesカード買ってくれなかったし」


僕は物をねだる事を良しとしない教育を受けてきたものですから、本松くんのこの発言は非常に腹が立ちました。同時に、全く会話が成立しない本松くんに先生も腹が立ってきているようです。先生は感情的に吐き捨てました。


「大切なおばあちゃんでしょ?」


「大切じゃないって言ってんじゃん!オレが孫だからおばあちゃんを大切に思わなきゃいけないの?だったら、もっとお金持ちで優しくおばあちゃんがよかった!」


とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、先生は怒鳴りました。


「このばか!人でなし!」


先生の怒号に教室が静まりかえります。その怒号にびっくりしたのか、本松くんは徐々に涙目になり、やがて泣き出してしまいました。


クラスの視線が先生と本松くんに向いている隙を狙い、ししゃもと牛乳を口に放り込もうとしました。しかし、先生はそれを見逃しません。


「こら!」


僕はびっくりして、ししゃもを皿に落としてしまいました。皿の上でししゃもが生きているみたいに、活き良く跳ねます。


「給食はちゃんと食べなきゃだめでしょ!」


僕も少し涙目になりながら、ほとんど八つ当たり的に思いました。やっぱり本松くんは気狂いです。



翌日、本松くんは学校を休みました。先生によると、両頬が何度も手で叩いたみたいに腫れていて、病院に行ったそうです。先生はほとんど独り言みたいに呟きました。


「おばあちゃんのバチが当たったのね」


すると、生徒の一人が手をあげます。


「先生、おばあちゃんなのに大切な孫を祟ったりしないんじゃないですか?」


先生は口元に微笑を浮かべて、その生徒に言いました。


「おばあちゃんも孫を大切に思う義理なんてないのよ」

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