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宇宙人は今ここで  作者: ゴトーセイヤ
10/10

そのに 宇宙人⁈茅森沙耶 3

『そのに』もいよいよ最終話!

 「えぇー?!うちに泊まるの?!それに宇宙人って、よくわからないよ……」

 

 一彦は段ボールの宇宙人、茅森沙耶と共に帰宅し、これまでの経緯を藍子に話していた。

 

 「宇宙人に関しては俺もよーわからん」

 

 当然、沙耶が宇宙から地球にやって来る途中、トラブって途方にくれているだとか、家で飼ってやるだとか、そんな現実離れも甚だしい話をすんなり理解する訳もない藍子は、大変に戸惑っている。

 

 と、これは一彦の推測なのだが……。

 

 神視点を使うと、実は藍子、沙耶が宇宙人だとか飛行船が故障だとかは二の次で、大好きなお兄ちゃんが年頃の女の子と一緒に生活する、ということにこの上ない危機感を抱いているのだ。

 

 だってもし、お兄ちゃんが変な気を起こして……。

 いいや、変な気を起こさなくったって、自然に二人があんなこととか、こんなことになっちゃったり………!

 いやだいやだ!そんなの嫌だよ!

 

 一人興奮する藍子は顔を赤くして力一杯平手打ちである。

 誰をか?私をである。

 

 ある種のファンサービスとでも言うのだろうか。

 

 その様子を見かねた一彦は、どおどおーと妹をあやしている。

 

 「ま、まあ、お前の気持ちはよくわかるが……」本質はずれている。

 「ほら、お前も俺にしたように、上からものを言ってやるんだ!」

 

 一人では藍子の興奮を押さえられないと悟った一彦は、沙耶に助け船を求めていた。

 

 沙耶はそれに応えるのだが……。

 

 「そ、そうね。あ、藍ちゃんのご飯、とっても美味しそうだって思って見てたの」

 

 「……へ?」

 

 突然意味のわからんことを呟く沙耶に、一彦は戸惑っている。

 

 「それに家事なんかの手際もいいし勉強になるわ。なによりこんなバカ兄貴の面倒も見てすごいと思うの!私、そんな可愛い藍ちゃんが好き!!」

 

 「……なに言ってんだこの女」

 

 これではまるで藍の告白である。藍ではなく愛だった。

 一彦はそんなもん求めちゃいなかった。

 

 適当に藍子が涙ちょちょ切れちゃうようなこと言って、有無も言わさず丸め込んでしまえばいいと思っていたが、沙耶は滝沢家を監視して弱味を握るどころか、完全に藍子に心を奪われてしまっているらしかった。

 

 藍子といえば先程とは違う理由で頬を染めると、一彦の後ろに隠れて、私も沙耶さんはきれいだと思うし、お姉ちゃんが欲しいと思ってたけど、と呟いて効果絶大である。

 

 また、一歩大人の階段を上ったのだった。

 

 「と、取り敢えず、今日くらいは泊めてやろうな。困ってる人を黙って見過ごすわけにもいかんだろう、妹よ」

 

 「う、うん」

 

 ひとまず今日という日は、なんとかなりそうだった。

 これだけでも大きな成果である。

 明日のことは明日考えればいい。

 なんとかなるだろう。

 

 果たして、沙耶も緊張がほぐれたようで、一彦と一緒にソファーに倒れこんでテレビをつける。

 と、藍子が晩飯を作るというので一彦は手伝いなんかをしてみたり、興味津々な沙耶にチャチャを入れられ邪魔だからと、藍子に追い返されたりしてみたりして時間は過ぎていった。

 

 「お兄ちゃん、沙耶さん!ごはんできたよー!」 

 

 結局、一彦と沙耶はダラダラとテレビを見て過ごし、藍子は一人で晩飯を作り上げていた。

 シチューのいい香りがする。たぶん今日はシチューである。

 

 においにつられ沙耶の腹が盛大に唸りをあげた。

 

 彼女も女の子である。

 一彦は気付かないふりをして「へいー」と気の抜けた返事をし、テーブルへと移動する。

 

 「おいお前。妹の手料理を食せるなんて幸せなことなんだ。感謝して食えよ!」

 

 「わかってるわよ!……ありがとう、藍ちゃん」

 

 鋭い瞳で一彦を一瞥した後、藍子の方を見て優しく呟く沙耶。

 

 「い、いえそんな、いいんです!もうお兄ちゃん、変なこと言わないでよ!早く食べよう!」

 

 藍子は藍子で、なんだかドギマギしているようだった。

 

 なんだこの二人、すでに出来ているのか?!と複雑な思いを胸に、いただきますとシチューを口に運んでいく一彦。

 

 「うんまいなー!藍子の飯は最高だー!……ん?お前なにしてんのよ」

 

 一彦の隣では、沙耶がシチューをスプーンでグルグルしていた。

 

 地球に来て日が浅く、地球食に慣れていないのだろう。

 はじめて見る食べ物に若干の戸惑いを隠せないでいるのだ。

 

 「食わないなら、俺が食ってやろう」

 

 「やめなさいよ!私のなんだから!」

 

 言うと沙耶は、全身で覆うように目の前のシチューを死守した。

 

 それにしても、宇宙人の地球食への反応、これは興味深いものがある。

 国が違えば食文化も全く別物だ。

 

 これが、星が違うって言うんだから、それはもう、なんだ……違うのである。

 

 一彦と藍子はじっと沙耶の様子をうかがっていた。

 自分の好きなものが、他人に受け入れられるのか否か、そんな緊張感が漂っている。

 

 さながら、囚われの宇宙人気分でいる沙耶は、やりにくそうにしていたが、意を決してシチューを一口。

 

 「……おいしい」

 

 沙耶は今にも消え入りそうな声で囁くが、その声はしっかりと滝沢兄妹にも届いていたらしく、二人は顔を合わせるとかすかに微笑んでいた。

 

             *


 食事の温かさか藍子の愛に触れてか、沙耶の緊張は完全にほぐれ、おかわりなんかもしちゃって豪快に飯を平らげると、今は藍子と二人仲睦まし気に女子トークに花を咲かせている。

 

 一彦への態度とは一転、その姿は優しいお姉さんそのものである。

 

 藍子も沙耶への警戒を解ききっており、安心して一彦は一人ソファーの上にグーダラと横になっていた。

 

 そんな時、藍子のスマホが“ピロリン”と軽快に鳴り響く。

 

 「あ、お母さんからだ……」

 

 滝沢母からのメッセージが届いたようで、藍子はしばらく黙ってスマホ画面とにらめっこである。

 

 その様子が徐々におかしくなっていき、不審に思った一彦が歩み寄った。

 

 「おい、どうした妹よ。顔が赤いぞ」

 

 「ふぇ⁈お、お、お母さんが……家に泊めてあげなさいって……」

 

 藍子はスマホ画面に目を向けたまま呟いていた。

 

 「ん?家に泊めろ?」

 

 一彦はよくわからない。


 その言葉に沙耶は、驚いているような期待しているような目でこちらを見ている

 

 すると藍子は姿勢を変えずに手だけを伸ばし、スマホを差し出した。

 どれどーれ、と一彦は画面をのぞき込む。

 

 以下、滝沢母からのメッセージである。



 あら!宇宙人!しかもかわいいじゃない!!(画像まで送っていた)

 困ってるんだったら、ちゃんと手を貸してあげないとだめよ。

 そうだ!しばらく、なんて言わずに、もうずっと家に泊めちゃいなさい(ハート)

 見知らぬ星で不安がってるに違いないんだわ。うん、決定よ!!!

 私も近々帰るから、みんなで仲良くするのよ。

 P.S. 藍子へ。

 心配しなくても大丈夫。お兄ちゃん腰抜けなんだから(星)


 

 「……」

 

 一読した一彦は黙り込んでいた。

 

 理由は簡単である。

 

 まるで示し合わせたかような最後の一文。

 

 それまでの内容などは一切頭から消えうせた。

 

 自分と言う存在は、本人から見たそれと、他人から見たそれで形成されると聞いたことがある。

 え、なに。つまり俺って、やっぱり俺って……。

 

 「んがぁぁぁあああ!!!!」

 

 脳がひとりでに拒否反応を起こし、てんてこ舞いの一彦は、頭を押さえ叫ぶことしかできなかった。

 

 その傍ら、いつの間にかにそばに来ていた沙耶はクククッと不吉な笑みを浮かべている。

 

 「ほーう。やっぱり私の調査は正しかった。親公認の腰抜けとは。そうだろう?お兄ちゃん(星)」

 

 「どいつもこいつも、星、星、星って……」一彦の瞳はすっぽりと真っ暗闇に覆われていて、ほとんど無意識に言語を発し沙耶に歩み寄っていた。

 「俺はオオカミだ。やればできる。やっちゃうぞ!今こそ腰抜けではない証明を!!」

 

 一彦は人間離れした跳躍で空高くジャンプすると、そのまま両手を広げ沙耶へと飛びかかっていた。

 

 沙耶は動じない。

 出来るものなら、と挑発的な瞳で一彦を見据えた。

 

 所謂これはチキンレースである。

 どちらかが参った、と言うまで終わらないデスレースなのだった。

 

 この戦いの行方が、今後滝沢家における二人の立ち位置を決定する、と言っても過言ではない。

 

 宇宙人VS地球人。世紀の大決戦が!!

 

 今まさに、理性を失った一彦の手が沙耶をとらえようと———

 

 「オ、オオカミは、ダメ!絶対!!!!!!」

 

 刹那、藍子の見事なアッパーカットが一彦の顎先を貫いた。

 

 右アングルから、左アングルから、さらには下から、どこから見ても、まるでお手本のような、無駄のない見事なアッパーカットであった。

 

 顎先を貫かれた一彦は、後方にのけぞっていく。涙ちょちょぎれた。

 

 「これが、若さか……」

 

 そのまま床に倒れこんだ一彦は、脳震盪を起こし、ピクピク痙攣して動けない。

 

 沙耶は見下すように、藍子はふぅーとため息をついて、その様子を眺めている。

 

 「誰も手を差し伸べてくれない」仕方なく自分で立ち上がる一彦。

 「と、まあ……。母さんも泊めてやれって言ってるんだ。藍子もそれでいいだろ」

 

 人間切り替えが大切である。

 

 何事もなかったように話を進めている。

 

 なんというメンタル、そしてフィジカルか……。

 

 さらに藍子も、普通に話を受け入れるんだから、恐ろしい兄弟である。

 

 「う、うん……。お母さんが、いいって言うなら……」

 

 「よし!じゃあ、決まりだな」

 

 一彦が言うと、突然藍子は兄の後ろへ隠れだし、言うのである。

 

 「その……こ、こ、これから、よろしくお願いします!!沙耶さん!」

 

 ちょっぴり嬉しそうである。

 

 そんな藍子の可愛らしい藍を目の当たりにした沙耶もモジモジとし始めた。

 

 だからお前ら、出来てんのかよ!と一彦の心境である。

 

 「う、うん。こちらこそ、よろしくね。藍ちゃん」

 


 果たしてこの日から、滝沢兄妹と宇宙人、それからその他色々を巻き添えに、極々ありふれた、どうしようもない程に平凡な日常が、スタートしていくのであった。






『そのに』おわりです。

来週から『そのさん』がスタート!

もしかして、もしかしたら新キャラ登場とかあるかもしれない。


それでは、次回お楽しみに!

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