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馬鹿となんたらは紙一重  作者: すてろいど
1/1

強い風は幸福と不幸を平等に持ってくる


 家の玄関から出た直後、大きくあくびをしていると強い風が吹いて手に持っていたレポートを空へと舞い上げた。

 舞い上げるなら女子高生のスカートでも舞い上げていなさいよ、俺のレポートを舞い上げても誰も得しないでしょう?と、空をにらみつけるが、そんなことをしたところで渾身の力作は帰ってこない。

 探しに行くべきか迷うが、未だに空を飛び続けているそれは、隣町に行こうとしており、拾いに行ってしまえば、遅刻は確実だ。

 

 「・・・どーしよ」

 「あれ、立ち止まってどうしたの?」


 後ろから声を掛けられる。

 振り返ってみれば、そこに立っていたのは風切一火、俺の妹だ。


 「ん、おお、一火ちゃん。いや、実はね、レポートが風に飛ばされちゃって」

 「ふーん・・・先に、行ってるねー」

 「あれ、一火ちゃーん?そんなに興味なさそうにされると流石の俺でも傷ついちゃうよー」


 俺の呼びかけには視線一つくれずに歩き出す彼女、俺はため息を一つ吐いて、彼女の後を追いかけた。



*********************************************



 「と、言うことがありましてね?俺のレポートは無くなったんですよ」


 俺の話を最後まで聞いた数学教師、綾川春香は額に手を当てると大きくため息を吐いた。

 

 「一つ聞くが、その話をするのにお前の妹がお前に冷たく接したという部分を入れる必要性はあったか?」

 「ここ、だいぶ重要です。俺と一火の中の良さをもってしても探す気が失せるほどの遠さというものを表現させていただきました」

 「やかましい、レポートをなくしたの一言で済むものを長々と語るな」


 綾川先生は机の上で湯気を立てていたカップを持つと、フーフーしながら中身を飲む。


 「猫舌なんすね」

 「うるさい」


 彼女はカップを机の上に置くと、ピンク色のファイルから俺の無くしたレポートを取り出して、手渡してくる。

 

 「事情は分かった。提出は明日したまえ」

 「え、明日までですか?それはちょっと・・・」 

 「あ?」


 先生がぎろりとにらんでくる。

 そんな瞳にさらされた俺はまさしく蛇に睨まれたカエルである。

 即座に「了解です」と、敬礼してから逃げ出すように教務室から出ようとする。

 早足で教務室の出口に向かうと、突然、教務室のドアが開き、俺の顔面に衝撃が走った。


 「あで!」


 そういえば、教務室のドアって内側に開くんだった、と今更な思考を巡らせつつ、尻もちをつくと白い手が俺の目の前に差し出される。


 「ごめんなさい、大丈夫かしら」

 「ああ、どうも」


 痛む鼻を押さえつけながら、彼女の手を取る。

 伝わってくるひんやりとした感触と柔らかさに意識を向けないようにしつつ、立ち上がると、視界に飛び込んできた彼女の美貌に思わず見とれてしまう。


 「あの、大丈夫?」

 「・・・へ、何が?」

 「その鼻血が・・・」

 「っ、ああ、大丈夫」


 おそらく、いや、確実にさっき鼻を強打したせいなのだが、彼女に見とれた瞬間に鼻血が出たせいで妙な気恥ずかしさを感じる。

 ポケットから取り出したティッシュで鼻血を止めていると、後ろから綾川先生の声が聞こえてくる。


 「やあ、神堂。どうかしたのか?」

 「あ、こんにちわ。綾川先生。実はこの人にドアがぶつかってしまって」

 「はあ、何してるんだ。君は」

 「すいませんね。まあ、レポートもあるんで帰らせてもらいます」

 「ああ、気を付けて帰るん・・・ちょっと待て」

 「ぐえっ」

 

 俺が帰ろうとすると、制服の襟を掴まれた。

 せき込みながら、先生の方に視線を向けると、先生は口角を上げてにやりという表現がぴたりとあてはまるような表情をしている。


 「君は部活に入っていなかったよな?」

 「ええ、入っていませんね」

 「よし、ちょうどいいな」

 「え、何がですか?」

 「元々、神堂もそのために呼んでいたんだ」

 「え、どういうことですか?」


 どうやら神堂も何も聞かされていないらしい。

 困惑する俺たちを並ばせると、先生は真剣な様子で教務室の奥、教頭先生の席をにらみつけた。


 「君たちは知らんかもしれんが、この学校では新任の教師は絶対にどこかの部活動、ないしは同好会の顧問をしなくてはいけない」

 「「はあ」」

 「私は貴重な休日を顧問活動で潰されるのがすごく嫌でね・・・一体どうしたらいいのかを考えた結果、私が新しく同好会を作ってしまえばいいのだと考えた」

 「すげー、超理論が来ましたね。普通、そこまではしないっすよ」

 「そうだろうそうだろう」

 「ほめてはいないんだよなあ」


 あきれたように呟いて見せるが。彼女にこの声は届いていないらしい。

 

 「さて、ここまで言えばわかるだろうが、君たちで同好会を作ってはくれないか?内容はなんだっていい」

 「ええ・・・普通に嫌なんですけど」

 「いいですよ」

 「ふぁっ!?」


 隣の方から聞こえてきた言葉に思わず、奇声を上げてしまう。

 

 「そうか、ありがとう。さて、同好会の設立は二人以上必要だから、あとは君だけなんだが」

 「いやいや、え、神堂さん、マジで言ってんの?」

 「ええ」

 「まじでか・・・」

 

 なおも悩む俺を見て、先生はため息を吐く。


 「仕方がない、そんなにも入りたい部活があるのなら、強制はしないよ」

 「は?いえ、別に入りたい部活はないんですけど」

 「なに?お前、部活には絶対所属しなくちゃいけないの知らないのか?」

 「え、なんですか、それは」

 「ほれ」


 先生から手渡された一枚の紙は一週間前に渡された用紙だ。

 部活に関して書かれたそれの一文には確かに『部活には必ず所属せねばならない』とある。

 

 「先生、同好会を・・・作らせていただきます」


 きれいに折られた腰は45度、先生に頭を下げるまでの動作に淀みは無かった。

 


 

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